参議院不要論を存在意義から考える (2015/10/6 フリーライター 上村吉弘)
前回は参議院不要論をコストから考えました。今回は、そもそも参議院の存在意義とは何なのか、その創設経緯から本来の役割を考えてみたいと思います。
マッカーサー草案では一院制を検討
大日本帝国憲法では、国会は衆議院と貴族院による二院制でした。貴族院は皇族、華族、勅任の各議員により構成され、選挙無しで選ばれました。1936年に竣工した現在の国会議事堂は、戦後までこの貴族院が現在の参議院本会議場の主(あるじ)でした。
国会が衆参両院で構成されることになったのは、1946年公布、1947年施行の日本国憲法によります。公布前にGHQ(連合国総司令部)が示したいわゆるマッカーサー草案では、衆議院のみの一院制にする予定でしたが、当時の担当大臣が「選挙で多数党が変わる度に前政権が作った法律をすべて変更し政情が安定しない」として二院制を推したと言われています。一説には、貴族院の本会議場を使用するための方便として、二院制の有用性を訴えたのではないかという話もあります。
国会は常会、臨時会とも召集日から数日内に天皇陛下をお迎えして開会式が開かれますが、陛下の御席が参議院の本会議場にしかないため、衆参全議員が参院本会議場に会して、陛下のおことばを賜ります。陛下の御席は、古くからの慣わしで南向きと決まっており、御休所の御席も南向きなので、衆議院本会議場では開会式ができない、という理屈です。
連邦国家は二院制、中央集権国家は一院制が理想?
米国も上下二院制なのに、なぜ日本に対しては一院制を検討したのでしょう。米国は独立性の強い州が合わさって構成された連邦国家です。下院が人口に比例配分した定数割り当てで選ばれるのに対し、上院は各州から2名ずつが選出されるので、その州を代表する立場と言えます。いわば州と連邦の二重構造で成り立つ国家の特質を二院制という権力構造で調和させているといえるでしょう。
定数を見てみると、米国は下院435議席、上院100議席。衆議院の475議席と参議院242議席よりいずれも少なく、上院と参議院に至っては、都道府県が47で米国の50州より少ないにもかかわらず、議席数は参議院が上院の2.42倍にも上ります。日本は連邦制の米国と異なり中央集権国家なので、都道府県には米国の州に当たる強い統治機能はありません。米国議会の上院を引き合いにしても都道府県の代表を別個に構成する意義は見出せません。
参議院は「衆議院で落選した議員」の補完機能?
「参議院は衆議院のカーボンコピー」と揶揄(やゆ)されるほど同じような性格であるため、国会議員も参から衆へ、あるいは衆から参への「鞍替え」が頻繁に行われます。公認確保や議席確保、権力基盤安定の手段として、衆参は現職議員の補完機能を果たしているのです。参議院は「『衆議院』の補完機能」というよりも、「『衆議院で落選した議員』の補完機能」しか果たしていないという見方もあります。今一度、その存在意義について見直すべきではないでしょうか。
- <著者>
上村 吉弘(うえむら よしひろ) フリーライター
1972年生まれ。読売新聞記者、国会議員公設秘書の経験を活かし、永田町の実態を伝えるとともに、政治への関心を高める活動を行っている。
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