[用語解説]一票の格差
わたしの1票の価値は?一票の格差とは (2015/6/19 島根大学研究機構戦略的研究推進センター特任助教 本田正美)
一票の格差とは、有権者の投じる票の価値に差が存在することを指しています。この格差が特に問題となるのが、日本では国政選挙においてです。衆参両院の選挙において、議員1人当たりの有権者数の少ない選挙区では1票あたりの価値が高くなり、逆に有権者数の多い選挙区では1票あたりの価値が低くなります。直近の選挙では、衆議院では最大で2倍、参議院で4倍を超える格差が生じています。住んでいる地域によって、それぞれの有権者が投じる票の価値に差が生じてしまっているのです。
人口は変動するものですから、それに合わせて議員定数の再配分を行ったり、選挙区の区割りの変更を行ったりしなければ、常にこの格差が生じることになります。
一定の年齢に達した者には平等に選挙権が与えられる普通選挙が確立しており、全ての有権者は平等に扱われることになっています。この一人一票は民主主義の大原則と言えると思いますが、実際に投じる票は1票であっても、その価値に格差が生じ、民主主義の大原則が守られていない状況にあると言えます。この点を問題視して、弁護士グループが訴訟を提起して以来、この問題が関心を集めるようになりました。昨今では、一票の格差について一定の差を超えると違憲状態とする判決も相次いでいますが、選挙無効にまで踏み込んだ判決は例外的で、その対応は国会に任されています。
一票の格差の解消方法は、議員定数の再配分と選挙区割の変更が主なものとなりますが、いずれの方法による対策も遅々として進んでいないのが現状です。現職の議員にとっては自身が選ばれた選挙区割が変更されることを好みませんし、定数の再配分となると、現状では増員が見込まれないため、基本的には減員されることになり、誰かが次の選挙では必ず議席を失うことにもなります。
人口の少ない地方からの声を汲み取るために、一票の格差が生じるような選挙区割や定数配分も許容されるのだとする意見があるのも事実ですが、少なくとも裁判所でも違憲状態という判決が相次いでいるのですから、その格差是正の取り組みがきちんと行われるのか注視していく必要があるでしょう。何より、もう忘れられつつありますが、2012年の解散総選挙に至る際に、当時の野田首相と安倍総裁は、一票の格差の解消と定数削減を約束したのですから。
直近3回の衆参選挙における当日有権者数(参院は議員1人当たり)が最多と最少の選挙区
選挙名 (投票日) |
有権者数が最多 | 有権者数が最少 | 格差 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
選挙区名 | 人数 | 選挙区名 | 人数 | 倍率 | 1票の価値(※) | |
第45回衆院選 (2009/8/30) |
千葉4区 | 487,837 | 高知3区 | 211,750 | 2.30倍 | 0.43票 |
第46回衆院選 (2012/12/16) |
千葉4区 | 495,212 | 高知3区 | 204,196 | 2.43倍 | 0.41票 |
第47回衆院選 (2014/12/14) |
東京1区 | 492,025 | 宮城5区 | 231,081 | 2.13倍 | 0.47票 |
第21回参院選 (2007/7/29) |
神奈川選挙区 | 1,197,275 | 鳥取選挙区 | 246,434 | 4.86倍 | 0.21票 |
第22回参院選 (2010/7/11) |
神奈川選挙区 | 1,215,760 | 鳥取選挙区 | 242,956 | 5.00倍 | 0.20票 |
第23回参院選 (2013/7/21) |
北海道選挙区 | 1,149,739 | 鳥取選挙区 | 241,096 | 4.77倍 | 0.21票 |
※最少選挙区を1票とした場合の最多選挙区における1票の価値
- 【取材協力】
島根大学研究機構戦略的研究推進センター特任助教 本田正美
1978年生まれ。東京大学法学部卒。2013年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。現在、島根大学研究機構戦略的研究推進センター特任助教。専門は、社会情報学・行政学。特に電子政府に関する研究を中心に、情報社会における行政・市民・議会の関係のあり方について研究を行っている。共著本に『市民が主役の自治リノベーション』(ぎょうせい刊)がある。
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