【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第82回 「チーム議会」で「議会改革第2ステージ」の実現を~ローカル・マニフェスト推進連盟「地方議会研修会in北上」 (2019/2/28 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第82回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
「チーム議会」で「議会改革第2ステージ」の実現を
2019年2月7日、岩手県北上市で、ローカル・マニフェスト推進連盟主催の地方議会研修会「議会改革第2ステージ~東北からチーム議会を目指して~」が開催された。東北地方を中心に、議員と議会事務局職員130人が参加した。
このコラムでも何度も書いてきたが、議会改革は今、第2ステージに入っている(第54回「対話による議会改革第2ステージ」)。議会のありたい姿を体系的に定めた「議会基本条例」を制定した議会も800を超え、議会改革の「形式要件」は整ってきた。
新しいステージでは、地域課題を解決する議会、住民福祉の向上に寄与する議会となり、「実質要件」を満たすことが求められている(第76回「議員間討議で政策サイクルを回す(1)」)。それを実現するには、議会だけではなく、議会事務局を含めた議会総体としての取り組みが欠かせない。つまり、議会と議会事務局が「チーム議会」となり、住民起点の実質的な成果を積みあげていかなければならないのである(第61回「議会改革第2ステージにおける議会事務局のシゴト」)。
研修会の基調講演の冒頭、早稲田大学名誉教授の北川正恭先生は、全国を回っていて議会が変わり始めていることを体感してきていると話した。また、新たなステージに進むには、議員活動ではなく議会活動に意識を向けて、議会だけではなく事務局と一緒に「チーム議会」となり、議会から「地方創生」を実現させる意義を強く訴えた。
今回のコラムでは、ローカル・マニフェスト推進連盟北上研修会の内容を紹介しながら、「議会改革第2ステージ」を切り開く鍵となる、「チーム議会」のあり方について考えたい。
議長のリーダーシップと事務局との関係
研修会では、北川先生の基調講演の後、全国で改革をリードする3議会の議長および議長経験者による、事例紹介が行われた。
ご当地北上市議会の高橋穏至議長は、議員報酬・定数の問題について報告した。北上市議会では、2018年4月から「議会の報酬等検討委員会」を中心に、議員報酬・定数を議会と議員の活動のあり方から考え、緻密な議論を積み重ねてきた。その結果を「市民と議会をつなぐ会」(16地区で開催のべ271人参加)で、市民とワークショップを通して深め合い、議員報酬アップの理解を得た。
2018年に第13回マニフェスト大賞でグランプリを受賞した愛知県犬山市議会のビアンキ・アンソニー議長は、議会は、「議会基本条例」に謳われている議会機能((1)市民参加、(2)議員間討議、(3)政策立案)を100%発揮するべきだと強調。市民が議場で発言するだけでなく、発言者が議員と意見交換を行う「市民フリースピーチ制度」、一般質問後の全員協議会での議員間討議の実践等を紹介した。
岐阜県可児市議会(第37回「議会と高校生が創る地域の未来」)の元議長の川上文浩議員は、可児市議会で実践している、(1)議会運営サイクル、(2)予算決算審査サイクル、(3)意見聴取反映サイクル、(4)若い世代との交流サイクル、の4つのサイクルを紹介。駅前の子育て拠点施設の建設に際して、「ママさん議会」を開催、意見聴取した話等をした。
事例報告の後の「議長セッション」では、筆者がコーデイネーターとなり、事例報告をした3人に北川先生を交え「チーム議会」をテーマにパネルデイスカッションが行われた。
高橋議長は、政策提言をしようとすると資料のまとめ方等、事務局の力が必要だ。また、議長、各委員長、事務局長、事務局職員の情報共有の重要性を話した。ビアンキ議長は、議会事務局は議長の大事な相談相手、中立に物事をみて適切なアドバイスをしてくれると事務局の役割を強調した。川上元議員は、可児高校との連携等、事務局職員の情報やアイデアにより実現した取り組みも多い。事務局職員が働きやすい環境を整備するのも議長の役割と語った。北川先生は、議会事務局の名前を「議会局」にするよう、会場に訴えた。
議会事務局のありたい姿
続いて行われた「議会事務局セッション」では、元岩手県滝沢市議会事務局長の中道俊之さんをコーデイネーターに、「チーム議会」を支える議会事務局職員として北上市議会事務局の小原昌江議事課課長、茨城県取手市議会事務局の岩崎弘宣局長補佐、宮城県柴田町議会の佐山亨主査の3人が登壇し、北川先生も加えてパネルデイスカッションが行われた。
議会事務局の雰囲気やチーム議会に関して、小原さんは、局長も同じ部屋で一体感のある雰囲気だ、お茶くみ等の雑務もない。議員研修を事務局から提案したこともあると。
岩崎さんは、合併前の藤代町議会では、委員会の中で挙手して発言していた。合併後戸惑いもあったが、今では雑談が飛び交う、和んだ雰囲気だ。「議会愛」があるからこそ、丸投げ雑務は絶対引き受けないと。
佐山さんは、議員を先生と呼ばず“さん”付けで呼んでいる。視察に同行した際は、事務局職員も積極的に質問する。議員間討議を「ワールドカフェ」でやりたいと議員からアイデアが自主的に出た時は嬉しかったと(第77回「議員間討議で政策サイクルを回す(2)」)。北川先生は、広報や市民参加を進め、政策提言を行うには、議会事務局の強化は必須と協調し、会場の事務局職員にもエールを送った。
議会と議会事務局が「車の両論」に
よく、議会と行政執行部は「車の両輪」に例えられる。しかし、本来、議会と執行部の間には、緊張感を持ったパートナーシップの関係が求められ、案件によっては意見が真っ向から対立する場合もある。要するに、議会と執行部は、進む方向が違う場合もあり、厳密には「車の両輪」にはなりえないということだ。では本来、議会と「車の両輪」となるべきものは何なのか。それは、議会事務局である。議会は、地域の住民の民意を吸い上げ、様々な利害の調整を行い、意見集約をしていく場であり、その議会の活動を支援していくのが議会事務局の重要な役割だ。
「議会改革第2ステージ」は、「形式要件」から「実質要件」を満たした改革を進め、議員活動から議会活動へ、地域の住民福祉に寄与する「政策サイクル」を回す議会にならなければならない。そのためには、議会と議会事務局が「車の両論」「チーム議会」となることが必要だ。今回の研修会をきっかけに、その流れが東北から全国に広がることを期待したい。
青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。