第57回 選挙から地方議会のあり方を変える~地方議員選挙でのマニフェストビラの解禁を!!  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ >  記事 >  連載・コラム >  早稲田大学マニフェスト研究所 連載 >  第57回 選挙から地方議会のあり方を変える~地方議員選挙でのマニフェストビラの解禁を!!

【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第57回 選挙から地方議会のあり方を変える~地方議員選挙でのマニフェストビラの解禁を!! (2017/1/26 早大マニフェスト研究所)

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第57回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

名前連呼、政策なしの地方議員選挙

 2003年の統一地方選挙でマニフェストが日本の政治に登場してから、今年で14年目になります。

 マニフェストは、選挙のあり方を「お願い」から「約束」に、政策中心の選挙に変える道具です。国政では、民主党政権の失脚により「詐欺フェスト」などと揶揄(やゆ)され、マニフェストに対する信頼は一部失墜した部分があります。しかし、選挙の公約は守らなければならないもの、という国民の意識の変化からも、日本の民主主義のレベルは確実に上がっています。

 地方政治では、2007年2月の『公職選挙法(以下:公選法)』改正により、知事選挙、市区町村長選挙において、A4表裏のマニフェスト、政策が書かれたビラ(以下:マニフェストビラ)の配布が可能になりました。しかし、首長マニフェストビラ解禁から10年、いまだ地方議員の選挙では、選挙期間中のマニフェストビラの配布が禁止されたままです。その結果、地方議員の選挙といえば、街宣車による名前の連呼が中心になっています。

 人口減少対策や地域の活力創出のための「地方創生」が喫緊の課題の中、首長とともに地方における二元代表制の一翼を担う議会議員の選挙で、政策を訴える手段が著しく制限されています。日本の民主主義のインフラの整備の意味でも、こうした現状はいち早く改善しなければならない問題です。

街宣車やハンドスピーカーを使っての選挙運動

街宣車やハンドスピーカーを使っての選挙運動(イメージです)

政策中心の選挙に向けたこれまでの動き

 政策中心の選挙を目指したマニフェスト運動がスタートしてからの14年は、『公職選挙法142条(文書図画の頒布)』との戦いの歴史でもありました。候補者に対して性悪説に立つ「べからず集」の公選法を、政策に触れる機会を増やし有権者視点の公選法にバージョンアップさせていく。当時の公選法では、せっかく政策をまとめたマニフェストを作成しても、それを選挙期間中に配布することができませんでした。

 まず、2003年公選法が改正されて国政選挙でのマニフェストの配布が可能になりました。2005年、全国の超党派の地方議員で結成されたローカル・マニフェスト推進地方議員連盟(以下:LM地議連)では、ローカル・マニフェスト推進首長連盟、ローカル・マニフェスト推進ネットワークと共同で、首長選挙、地方議員選挙におけるマニフェストビラ解禁を提言しました。そうした動きもあり、2007年の統一地方選挙で、首長選挙に限りマニフェストビラの解禁が実現。その後、2013年には、インターネット選挙が解禁され、選挙期間中のインターネットを活用した選挙運動が可能になり、ネットを通して政策など有権者の判断材料が増えることになりました(第5回「マニフェストとネット選挙」)。

首長マニフェストビラ

首長マニフェストビラ

 LM地議連では、その後も地方議員選挙におけるマニフェストビラの配布解禁を毎年提言。全国市議会議長会からも「地方議会選挙における法定ビラ頒布の制度化」の要望があげられ、2016年4月、衆参両院で地方議員選挙におけるマニフェストビラ解禁を盛り込んだ、公選法改正案に対する付帯決議が全会一致で可決されました。あと一歩のところまで来ています。

 LM地議連では、2016年8月、「地方議会議員選挙におけるマニフェスト解禁についての要望決議」を採択。こうした流れに乗り、2016年9月から12月の間に、全国13の議会(静岡県議会、兵庫県議会、横浜市会、伊勢崎市議会、富士見市議会、町田市議会、武蔵野市議会、東村山市議会、甲府市議会、可児市議会、多治見市議会、山鹿市議会、葉山町議会)で、地方議会選挙におけるマニフェストの配布解禁を盛り込んだ公選法改正を求める意見書が可決されています。地方議会から国を動かす、地方議会による意見書採択の動きが全国に広がってほしいと思っています。

選挙から地方議会のあり方を変える

 これまで、地方議員選挙の際に紙ベースで候補者が政策を伝える手段は、選挙ハガキと選挙公報に限られてきました。ただし、選挙ハガキは立候補者と何らかのつながりのある人にしか送れません。また、選挙公報はそもそも発行をしていない自治体もありますし、記載できる情報量には限界があります。現状では、地方議員選挙において政策を訴える手段は著しく制限されています。

市議選の選挙公報

市議選の選挙公報

 地方創生の時代、これからの地方議員には政策形成能力が求められています。地方議員には、予算編成権、執行権がないのでマニフェストは書けないという人もいます。しかし、議会には議決権、議案の提案権があります。議員は議会で発言できるし、多数派を作れば条例を提案、議決し首長に政策の実行を迫ることができます。書けるか書けないかではなく、政治家として、具体的な政策を盛り込んだマニフェストを書いて選挙に臨むべきです。

 2016年富山市議会で政務活動費の不正を発端に、13人が議員辞職しました。政務活動費は、そもそも議員の政策調査研究のために支給されるものです。こうした問題が起きる背景の1つには、地方議員に自ら政策を考える意識が欠如していることがあると思います。地方議会で政策型の議員提案条例が少ないのも同じ文脈です。根本的な原因は、名前の連呼とお願いだけの従来の選挙のあり方にあります。選挙から地方議会のあり方を政策中心に変えていかなければなりません。

市議選のポスター掲示場

市議選のポスター掲示場

都議選までに地方議員選挙でのマニフェストビラの解禁を!!

 2017年夏、東京都議会議員選挙が予定されています。マスコミでは、小池知事と既存政党との対立構造のみがピックアップされ、「劇場型選挙」「政局型選挙」の様相です。築地市場の豊洲移転、2020年東京オリンピック・パラリンピック、待機児童問題など、都政には課題が山積しています。マニフェストビラの解禁がないまま、都議選に突入すると、相手陣営の誹謗中傷、「都民ファースト」などのキャッチフレーズのみが飛び交う、政策関係なしの選挙になりかねません。

 政策中心の選挙を実現するためにも、東京都議会議員選挙、2019年の統一地方選挙に向けて、地方議員選挙でのマニフェストビラ解禁の流れを、今こそ地方から声をあげ、作っていかなければならないと思います。

◇        ◇        ◇

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

関連記事
地方議員選挙のマニフェスト(ビラ)解禁に向けて~地方創生は政策本位の選挙から
2016参院選 今こそマニフェストの復権を
「善政競争」のプレーヤーになろう!!
マニフェストが変える未来!政策の実現が最高のやりがいに
NPOが担う高校生と地域との連携・協働~岐阜県可児市NPO縁塾の「エンリッチ・プロジェクト」の実践
■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
関連リンク
早稲田大学マニフェスト研究所ホームページ(外部サイト)
Twitterアカウント(@wmaniken)