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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第5回 マニフェストとネット選挙~ネット選挙解禁をチャンスに政策中心の政治の実現を~ (2013/8/8 早大マニフェスト研究所)

関連ワード : ネット選挙 全国 

5月からスタートした早稲田大学マニフェスト研究所による新コラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第5回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。掲載は、毎月第2木曜日。月イチ連載です。今回は、7月の参議院議員選挙で解禁されたネット選挙とマニフェストの関係を考えていきます。

◇     ◇     ◇

 7月の参議院議員選挙からネット選挙が解禁されました。早稲田大学マニフェスト研究所では河北新報社と連携して、参院選の公示前後2回()に渡り、宮城県選挙区内でネット選挙に関するフィールド調査を実施しました。その調査を踏まえ、今回の参院選のネット選挙について振り返るとともに、その可能性について考えてみたいと思います。

マニフェストとネット選挙の親和性

街頭演説の動画を撮影するスタッフ

街頭演説の動画を撮影するスタッフ

 マニフェストは、選挙を「お願い」から「約束」に変える、つまり、政策中心の選挙、政治の定着を目指すものです。ネット選挙解禁により、選挙期間中に政治家の側から政策を有権者に伝えるツールが増えました。有権者の立場からすると、政策を知る手段、判断材料が増え、これまで直観で投票していたものが、ネットで情報を調べることにより、直観だけではなく、データをもとに投票先を決めることが可能になりました。

 政策中心の選挙を目指すマニフェストとネット選挙とは親和性が強く、利用の仕方いかんによっては、ネット選挙にはマニフェストを補完する機能があると思います。従来の握手と連呼と後援者回りの選挙から、新しいネットというツールを活用することで、政治家が政策を有権者に積極的に伝える選挙へ――選挙のあり方が大きく変わる可能性を秘めているのが、ネット選挙解禁だと思います。

政治家は日常の蓄積とコミュニケーション能力が問われる

サイトを確認更新するスタッフ

サイトを確認更新するスタッフ

 今回のネット選挙解禁で一番評価したいのは、政治家の側からの情報発信の量です。ホームページ、ブログ、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルネットワークサービス(以下、SNS)のほか、ユーチューブやユーストリームなどの動画共有サイトを通して、政治家から活字、写真、動画など、さまざまな形で情報が発信されました。特に、選挙期間中の街頭演説の動画を見られるのは、ネット選挙解禁ならではのことでした。

 しかし、情報の質の点から見ると、どこどこで街頭演説を行うといった告知、どこどこで街頭演説を行ったといった写真付きの報告が主で、期待された政策に関する発信が少なかったと思います。

 各陣営からは、選挙期間中に細かい政策を発信することは、時間的に難しいという声を多く聞きました。であれば、選挙が始まる前までに、いかにホームページやブログなどのネット上に政策を蓄積しておくかが鍵になります。

 また、SNSは、フォロワーや友達の数が情報伝達のバロメーターになります。選挙の直前に慌てて始めても、意味がありません。ここでも選挙期間前に、SNS上での情報発信を通して、一定のネットワークを構築しておくことが必要になります。

 つまり、政治家にとって、選挙期間以外の日常活動において、ネット上での政策とネットワークの蓄積が重要になるということです。また、ネットは有権者と直接対面しないので、政治家にはコミュニケーション能力が問われます。日ごろからそれぞれのネットメデイアの特性を理解して、有権者に分かりやすく、戦略的に情報発信することが求められます。

有権者の関わり方 「政治家tube」の可能性

 では、有権者は今回のネット選挙解禁をどのように生かしたのでしょうか。

 「第11回政治山調査『参議院議員選挙とネット選挙に関する意識調査2』」によると、今回の参院選でインターネットを「選挙に関することには利用しなかった」とした人が72.5%と、つまりネット選挙を生かした人は2割強だけという残念な結果になりました。また、ネット選挙解禁で期待された、有権者によるネット上での選挙運動、政治家との双方向での意見交換も低調であったという調査結果も出ています。

 候補者陣営の中には、支持者の方にSNSでの情報の拡散をお願いしても、なかなかやってくれないと嘆くところもありました。有権者が情報を調べ、発信し、対話をしていくにも、それぞれのレベルで意識のハードルがあるようです。

 そんな中で、青森の大学生で組織された学生団体「選挙へGO!!」の活動は特筆に値します。

政治家tube撮影風景

政治家tube撮影風景

 「選挙へGO!!」では、この「政治山」のサイト内に、「政治家tube」というページを開設し、今回の参院選に際して、青森県選挙区に立候補した6人全員の公示前の政見動画と、公示後の街頭演説の動画をアップしました。また、このページを見ると、動画以外にも、立候補者のプロフィール、ホームページやSNSなどへのリンク、選挙公報のデータなど、ワンストップで候補者の情報を確認することができます。

 こうした取り組みが各地で定着すれば、有権者も選挙の情報を効率的に把握することができるようになると思います。

「べからず啓発」「べからず報道」の弊害

禁止事項が強調された総務省の啓発チラシ

禁止事項が強調された総務省の啓発チラシ

 ネット選挙が有権者に定着しなかった原因の1つに、選挙管理委員会(以下、選管)の啓発の仕方、マスコミの報道の仕方があったと思います。

 選管の啓発チラシを見ると、ネット選挙解禁により、有権者が新しくできるようになるポジティブな面の情報が少なく、あれをしてはいけない、これをしてはいけないといったネガテイブな情報が多く発信されていました。また、マスコミの報道でも、禁止事項に関することや、ネット選挙に懐疑的な報道が見られ、一番重要な「ネットから投票の判断材料を集めましょう」といった前向きなメッセージが少なかったと思います。

 こうした、「べからず啓発」「べからず報道」が、せっかくのネット選挙解禁の効果を小さくしてしまったと思います。

これからの選挙のあり方

 ネットに慣れ親しみ、ネットから情報を入手する世代はこれから確実に増えていきます。それとともに、今後、ネットからの情報を投票の判断材料にする人も増えていくと思います。従来の握手と連呼のドブ板選挙は今後もなくならないでしょう。しかし、これからは、その比重が減り、ネットでの政策の情報発信が大きなウエートを占めてくるでしょう。ドブ板とネットを上手く合わせた「ハイブリッド型選挙」が、これからの主流になると思います。

 ネットに情報を載せない政治家は、有権者からの信頼を得られなくなります。それに合わせて、有権者の情報リテラシーも求められます。ネットにあふれる膨大な情報の中から、自立して情報を選択する能力が不可欠になります。

 有権者のレベル以上の政治はあり得ないので、有権者も問われています。政治家と有権者の双方が、民主主義の進化の道具として、ネット選挙を前向きに活用していくことが求められています。

◇       ◇       ◇

佐藤淳氏

青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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Twitterアカウント(@wmaniken)
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