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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第22回 ネット版政見動画“政治家tube”の可能性~学生団体「選挙へGO!!」の取り組みから~ (2014/11/20 早大マニフェスト研究所)

関連ワード : ネット選挙 学生 政見放送 青森 

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第21回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「ネット版政見動画“政治家tube”の可能性~学生団体『選挙へGO!!』の取り組みから~」をお届けします。

ネット選挙の効果

 2013年の参院選から「ネット選挙」が解禁になりました。候補者から発信される情報が格段に増えたことは評価できますが、政治家と有権者との間で、政策を中心とした双方向のコミュニケーションが行われていたかといえば、まだまだの状況です(連載第5回)。また、思ったほど、ネットを投票の参考とする有権者が少なかったといった調査結果もあります。しかし、候補者名連呼と握手攻勢、講演会回りが主体だった従来の選挙運動に、ネットによる政策のアピールが加わったことは、大きな日本の民主主義の進化でもあります。また、政策中心の選挙を目指すマニフェスト運動と「ネット選挙」の親和性は極めて高いです。あとは、いかに「ネット選挙」といったツールを政治家、有権者が使いこなすかにかかっています。

 今回は、有権者の立場から、「ネット選挙」解禁をチャンスと捉え、若者の政治への関心を高めるために活動する学生団体「選挙へGO!!」によるネット版政見動画“政治家tube”の取り組みを事例に、地方選挙、地方議員選挙における「ネット選挙」の可能性を考えてみたいと思います。

学生団体「選挙へGO!!」のメンバー

学生団体「選挙へGO!!」のメンバー

学生団体「選挙へGO!!」

 青森県内3大学10人で構成される、学生団体「選挙へGO!!」(代表・廣瀬陽史:青森中央学院大学4年)は、若者の政治意識と、選挙の投票率の向上を目的に活動している団体です。県内各地の選挙で政権動画の配信を行うほか、模擬選挙や政治家と学生との「居酒屋トーク」を展開。特定の選挙における単発の取り組みではなく、継続性と広域性、さらに多面性を持った取り組みを展開していることが評価され、2014年の第9回マニフェスト大賞で、最優秀マニフェスト賞(市民)を受賞しました。

 「選挙へGO!!」の発足の経緯は、2011年4月の統一地方選挙で、創設者の竹内博之君が初めて地元の弘前市議会議員選挙で投票した時にさかのぼります。その選挙の20代の投票率が約30%であったことに驚き、自分たちも学生として、政治や選挙に積極的に参加しなければならないと問題意識を持ったことがスタートです。

 その後、「選挙へGO!!」では、(1)政治家との「居酒屋トーク」、(2)弘前市長への学生目線の政策提言、(3)弘前市成人式での模擬選挙、(4)政治家と学生によるシンポジウム、(5)議会傍聴キャンペーン「議会へGO!!」、(6)ネット版政見動画サイト“政治家tube”の開設、(7)選挙時の未成年模擬選挙の実施など、若者と政治を結び付けるさまざまな取り組みを意欲的に行ってきました。

第9回最優秀マニフェスト賞(市民)を受賞

第9回最優秀マニフェスト賞(市民)を受賞

ネット版政見動画“政治家tube”の取り組み

 「ネット選挙」解禁を受けて、「選挙へGO!!」が現在一番力を入れているのが、ネット版政見動画“政治家tube”の取り組みです。学生たちにとって、インターネットから情報を得るのは当たり前。“政治家tube”は、そうした若者に向けて、新聞やテレビなどの既存メデイアからでは分からない、政治家の表情や話し方、そして1人ひとりの政策、思いを動画に乗せて伝えるツールです。撮影した動画は、政治情報サイト「政治山」の協力をいただき、特設ページ(https://seijiyama.jp/special/movie/seijikatube/)で配信しています。

 これまで、青森県内の地方議員23人のほか、選挙では、2012年の衆院選、2013年の青森市長選、参院選の立候補者の動画を配信。2014年にも弘前市長選、黒石市長選、五所川原市長選、むつ市長選などの首長選挙の立候補者の動画を配信しています。弘前市長選挙では、告示前の動画のほか、告示後の街頭演説の動画もアップしています。また、10月に行われた青森市議選(定数35人)では、8月に現職40人のうち30人に協力いただき、「任期4年間を振り返って」をテーマに動画を撮影して公開。告示前の10月には、全立候補予定者に声掛けをして、「自身の思いとマニフェスト」をテーマに44人中36人の動画を撮影、公開しました。議員を知る方法が、議会のHPや選挙公報に限られる中、青森市民にとっては、投票先を判断する有益な情報になったと思います。動画をテキスト化して掲載したことも、市民に喜ばれています。

 スタート時から“政治家tube”の活動を支援している「政治山」の市ノ澤充シニアマネージャーは、「この取り組みは有権者が候補者を選ぶ際の一助となるのはもちろん、取材する学生たちに主権者としての自覚と成長を促す貴重な機会でもあります。何より重要なのは、普段何をしているか分からないと言われがちな地方議員が、若者のまっすぐな視線を受けて襟を正すことです」と期待の言葉を述べています。

政治家tube撮影風景

政治家tube撮影風景

“政治家tube”を地方議員選挙の「標準装備」に

 東京都議会のセクハラ野次問題、兵庫県議会議員による政務活動費を不正に支出していた問題など、地方議会の不祥事が続いています。青森県内においても、2014年1月の市長選に際して、市議20人の内15人が公職選挙法違反の容疑で逮捕された平川市議会など、住民の議会、議員を見る目は厳しくなっています。

 有権者の地方議員に対するイメージは、裏で悪いことが行われていそうで「汚い」、情報公開や住民参加が十分でないため何をやっているのか「分からない」、ならば議会、議員なんて「いらない」というものが多いです。間違っている部分もありますが、こうしたイメージも、圧倒的に地方議員に対する情報が不足していることが原因です。

 地方議員側からの情報発信も当然必要ですが、有権者側からのアプローチも欠かせません。「選挙へGO!!」の廣瀬代表は、「ネット選挙は地方でこそ、政治家と有権者の双方に有効なツールです。政治不信が高まる中、これからも、有権者に政治家に関する情報をネットを通して発信していきたい」と語っています。情報が少ない地方議員選挙でこそ、“政治家tube”の果たす役割と可能性は大きいと思います。今後、さまざまな有権者が撮影者となって、“政治家tube”の取り組みが全国に広がり、地方議員選挙の「標準装備」になることを期待したいと思います。

政治家tube青森市議選版トップページ(左)、個人ページ(右)

政治家tube青森市議選版トップページ(左)、個人ページ(右)

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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