第119回 地方議員の「多様化」について考える~幅広い民意を政治に反映するために~  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第119回 地方議員の「多様化」について考える~幅広い民意を政治に反映するために~ (2015/1/21 東京都江東区議会議員 鈴木綾子/LM推進地議連会員)

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政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第119回は、東京都江東区議会議員の鈴木綾子氏による「地方議員の「多様化」について考える~幅広い民意を政治に反映するために~」をお届けします。

◇        ◇        ◇

 地域社会は、年齢、性別、職業など幅広いバックグランドの住民により構成されており、地域の声を民意として政策に反映していくためには、地域と行政、政治を結ぶ架け橋となる地方議員にも多様化が求められている。しかし、地方議会の議員の年齢、性別や職業構成などには偏りがあり、一般社会と懸け離れた構成となっており、特に若い世代、女性、会社員などの層の議員はまだまだ少ないのが現状である。

 本稿では、地方議員の多様化の現状と課題について、筆者が活動する東京都江東区の例も挙げ、論じていく。

江東区の現状と課題

 私が議員活動をしている江東区は、下町エリアと急速に開発が進む臨海地域からなり、伝統と未来が融合するまちである。特に臨海部では高層マンションの建設により、子育て世代を中心に人口が急増し、2015年度には築地市場と豊洲新市場への移転整備、2020年東京五輪開催の中心区となるなど、新しいまちづくりへの機運があふれている。その一方で、児童数と高齢者がともに増加する「多子高齢化」による待機児童問題や、学校施設、高齢者施設の不足など、社会インフラの整備という課題も同時に抱えている。

地域課題の解決と議員構成の関連性

 このような課題を解決するためには、子育て世代、高齢者世代など、多様な住民意見を集約し、政策に反映させる役割を議員がしっかりと担っていくことが重要である。

 私は、会社員としての経験や、高層マンション住民としての生活実感を踏まえ、働く若い世代、特に女性が仕事と子育てを両立しづらい環境を変え、男女ともにワークライフバランスのとれた生活を送れるまちにすることを目指し、2011年に会社員在職中に区議会議員に立候補し、当選後、会社を休職して議員活動をしている。保育園の新設や地域での子育て支援環境の充実などを主要政策とし、地域での議会報告会やワークショップの開催など、住民との意見交換を通じ、働く若い世代の声を集約し、区政に政策提言することを心がけている。

 議会では、それぞれの議員が、自らのバックグランドや地域、関わりのある団体などの意見を反映するためにさまざまな働きかけ、議会質問を通じた政策提言の活動などを行っている。

 しかし、地方議会の議員の年齢、性別や職業構成などには偏りがあり、一般社会と懸け離れた構成となっている。似た属性を持つ議員の数が多いほど、議会での発言力や、影響力が大きくなる。

 高齢の議員が多ければ高齢者政策が、子育て世代の議員が多ければ子育て世代の実情にあった政策が推進しやすくなる。民意を政策に反映するためには、憶測や想定ではなく、それぞれのターゲットの実情を踏まえた形で政策を推し進めていくことが本来求められる姿である。

 現在の江東区議会の議員構成は、44名の議員定数のうち、70%を占める31人が50歳以上の議員であり、30代の議員は3人と全体の1割に満たない。女性議員の比率は25%。特別区議会の女性議員比率の平均である24.8%とほぼ同じである。特別区議会の女性比率は、市議会の平均12.4%の2倍であるが、それでもまだ女性の声を区政に反映するためには十分とはいえない。

 また、職業構成についても私が江東区議会に立候補した前年の平成22年度の状況では、現職議員以外の候補者は、会社役員、会社社長などの経営者側、議員秘書や党職員など、政治経験がある者がほとんどで、会社員は私一人であった。立候補時に若い世代、女性、会社員出身などのバックグラウンドを持つ議員は少なく、彼らの声を同じ目線で代弁できる存在はわずかである。

江東区議会議員の男女比と平均年齢(平成19年4月 改選時)

全体 男性 女性
男女別 44 33 11
男女比 100% 75% 25%
平均年齢 54歳 54歳 55歳

江東区議会議員の年齢構成(平成23年4月 改選前)

年齢(歳) 全体 男性 女性
人数 割合 人数 割合 人数 割合
25-29 0 0% 0 0% 0 0%
30-34 3 7% 3 9% 0 0%
35-39 0 0% 0 0% 0 0%
40-44 7 17% 4 13% 3 30%
45-49 1 2% 0 0% 0 0%
50-54 9 21% 8 25% 1 10%
55-59 8 19% 5 16% 3 30%
60-64 10 24% 7 22% 3 30%
65-69 0 0% 0 0% 0 0%
70-74 2 5% 2 6% 0 0%
75-79 2 5% 2 6% 0 0%
41 100% 31 100% 10 100%

江東区議会議員 当選者の年齢構成と当選確率(平成23年4月 改選後)

年齢
(歳)
全体 男性 女性 立候補者数 当選者数 当選確率
人数 割合 人数 割合 人数 割合
25-29 0 0% 0 0% 0 0.0% 3 0 0.0%
30-34 2 4.5% 2 6.1% 0 0.0% 7 2 28.6%
35-39 2 4.5% 1 3.0% 1 9.1% 2 2 100.0%
40-44 8 18.2% 6 18.2% 2 18.2% 11 8 72.7%
45-49 3 6.8% 2 6.1% 1 9.1% 3 3 100.0%
50-54 10 22.7% 8 24.2% 2 18.2% 14 10 71.4%
55-59 11 25.0% 7 21.2% 4 36.4% 11 11 100.0%
60-64 5 11.4% 4 12.1% 1 9.1% 7 5 71.4%
65-69 0 0.0% 0 0% 0 0.0% 0 0
70-74 2 4.5% 2 6.1% 0 0.0% 2 2 100.0%
75-79 1 2.3% 1 3.0% 0 0.0% 1 1 100.0%
44 100% 33 100% 11 74% 61 44 72.1%

江東区民の年齢構成(2010年1月 住民基本台帳データ)

年齢(歳) 総数 男性 女性
人数 構成比 人数 構成比 人数 構成比
0-4 20,263 5% 10,295 5% 9,968 4%
5-9 17,545 4% 8,975 4% 8,570 4%
10-14 15,520 3% 7,961 4% 7,559 3%
15-19 15,156 3% 7,754 3% 7,402 3%
20-24 21,391 5% 10,958 5% 10,433 5%
25-29 30,745 7% 16,042 7% 14,703 7%
30-34 38,706 9% 19,801 9% 18,905 8%
35-39 45,254 10% 23,188 10% 22,066 10%
40-44 37,756 8% 20,215 9% 17,541 8%
45-49 28,660 6% 15,220 7% 13,440 6%
50-54 25,206 6% 12,838 6% 12,368 6%
55-59 29,683 7% 15,215 7% 14,468 6%
60-64 33,115 7% 16,669 7% 16,446 7%
65-69 28,977 6% 14,054 6% 14,923 7%
70-74 22,714 5% 10,533 5% 12,181 5%
75-79 16,933 4% 7,205 3% 9,728 4%
80-84 10,552 2% 3,927 2% 6,625 3%
85-89 5,493 1% 1,597 1% 3,896 2%
90-94 2,102 0% 518 0% 1,584 1%
95-99 548 0% 99 0% 449 0%
100歳以上 74 0% 8 0% 66 0%
446,393 100% 223,072 100% 223,321 100%

江東区議会議員の職業構成(2011年4月 統一地方選挙時)

有職の者内訳 無職の前職内訳
全体 男性 女性 全体 男性 女性
現職議員(区議会) 22 14 8
会社員 1 1 0 2 2 0
会社役員 4 4 0 0 0 0
会社社長 3 3 0 0 0 0
議員秘書 2 2 0 0 0 0
教師・講師 2 1 1
政党団体勤務 1 1 0 0 0 0
団体役員 1 1 0 1 0 1
不明 1 1 0
合計 34 26 8 6 4 2

議員の「多様化」のハードル

 本来はもっと意見を反映されるべき若い世代、女性、会社員などの層は、立候補自体がまだ少なく、若年投票率の低さもあいまって、当選する割合が低い上に、当選後議員活動を続けていく際にも、多くのハードルが存在する。多くの要因から一例を挙げると――

(1)「地盤」「看板」「カバン」のハードル
 議員となるために一般的に必要だとされている「地盤」「看板」「カバン」を持ちづらいこと

(2)立候補のために会社を離職するリスク
 会社員が選挙に立候補する場合は、会社を辞めるケースが大半である。議員休職制度などがある企業はごく一部のため、落選後の生活のリスクを考えると立候補に踏み切れない。特に、女性の場合は再就職が難しいことからさらに立候補のハードルが高い

(3)社会保障・経済面の課題
 議員になってからは、国民年金や国民健康保険の適用となり、社会保障関係費用の負担が大幅に増大し、福利厚生制度もない。

(4)女性の両立支援のための制度不足の課題
 女性の場合は産休、育休などの制度が保証されていないので、議員生活と子育ての両立が会社員の場合に比べてさらに難しいこと、などが考えられる。

 これらのハードルにより、議員を志したとしても立候補に踏み切れない会社員、若者、女性などがまだ多いのが現状である。地方議会に、多様な年齢、性別、職業などを持つ議員が多く活躍する環境をつくることは、政治に民意をより反映させるために必要不可欠である。

 私自身、30代で当選した会社員出身の女性議員であり、議員を志した際には、会社員出身の地方議員、若手地方議員、女性議員などからさまざまなアドバイスをいただき、大変励みになったのを覚えている。また、議員になってからは、議員志望の方からの相談を受ける機会もある。地方議員の多様化のため、現在の立場からできることはやっていきたいと考えている。

 地方制度調査会においても、年齢や職業、性別など議員構成の偏り、良識ある多様な住民が議員となることを可能とする制度のあり方等が審議されているが、まだまだ議論がし尽されているとは言い難い状況である。

 地方政治に幅広い住民の民意が反映される状況を生み出すためには、「議員の多様化」とその重要性について社会全体で真剣に考え、時代にあった解決策をできるところから講じていくことが重要である。

鈴木綾子氏著者プロフィール
鈴木綾子(すずきあやこ)
1975年生まれ。成城大学文芸学部卒業後、通信会社で法人営業に従事。仕事と子育ての両立に関心を持ち、2009年、早稲田大学大学院公共経営研究科でワーク・ライフ・バランスを研究。2011年、同研究科修了後、東京都江東区議選で初当選。通信会社出身のバックグラウンドを生かし、「ICTを活用した住民サービスの向上」「ICTを活用した議員活動の見える化」などを推進。SNSと連動した区政報告座談会「あやこcafe」などの開催を行っている。
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「政策実現のためのコミュニケーション戦略」~ICTとリアルな対話の融合~(2013/11/29)
「議員活動の見える化」とインターネット活用(2013/3/27)
私の議員活動の道しるべ~マニフェスト大賞への思い~ (2012/6/27)
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LM推進地議連の連載コラム
第118回 村議会にも会派を(福島県西郷村議会議員 佐藤厚潮氏)
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関連リンク
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