第78回 逗子市議会が導入した「クラウド文書共有システム」について  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第78回 逗子市議会が導入した「クラウド文書共有システム」について (2014/3/26 逗子市議会議員 君島雄一郎氏/LM推進地議連会員)

関連ワード : 君島雄一郎 神奈川 逗子市 

政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第78回は、神奈川県逗子市議会議員の君島雄一郎氏による「逗子市議会が導入した「クラウド文書共有システム」について」をお届けします。

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元祖「電脳自治体」だった逗子市

2013年10月、全国初の「オールタブレット議会」が実現

2013年10月、全国初の「オールタブレット議会」が実現

 神奈川県三浦半島の根元にある逗子市は、面積約17キロ平方メートル、人口約5万8000人のコンパクトシティです。その逗子市が、米軍住宅建設反対運動の盛んだった1992年、全国初のクライアント/サーバー型の内部情報システムを構築したことをご存知でしょうか。クライアントにMacintosh、サーバーにUNIXワークステーション、リレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)にはSYBASEを活用して自治省から表彰された元祖「電脳自治体」が逗子市でした。ところが当時はまだ、クライアント/サーバーシステムが不安定で高額な維持費も影響し、2000年を機に方針転換。その後は一転して電子化に消極的となりました。

議会活動の電子化に向けた模索

完全ペーパレス化が実現した議席(議員私物を含む)

完全ペーパレス化が実現した議席(議員私物を含む)

 私が2012年4月の議会運営委員長就任を機に、定例会で1000~2000枚もの書類が配布される事態を電子化する「パソコンの活用」を提案すると、(1)議員間でのスキルが異なる、(2)キー入力音が不快、(3)電源確保の問題等から賛否が真っ二つに割れました。そこで打開策に「タブレット端末」に着目、個人的にもOS別で複数台購入して議会で活用する模索を始めました。

「SideBooks」が課題を解決した

 ビューア方式は、PDFと電子書籍の配布形式であるEPUBとを比較しました。PDFは、印刷物データを転用できますが、見開き表示の機能はないため予算書や決算書の閲覧は向かず、ページ繰りもスライド操作のため違和感があります。

カールアニメーションで自然なページ繰り

カールアニメーションで自然なページ繰り

 一方のEPUBは、ページ繰りが実際の紙のように行えて見開き表示も可能ですが、データをEPUB形式に作る手間と、リフローなので表示が崩れることが欠点でした。

 双方の課題で悩んでいた際に「SideBooks」というアプリを偶然見つけ、これが、電子データを紙のようにページ繰りが行える(カールアニメーション)ことや、見開き表示もできたためアプリ提供元に議会向けの開発を打診。この協力が得られたことから一気に流れが加速し始めました。

「実証実験」が全会一致の承認につながる

カラーマーカーやメモも書き込める

カラーマーカーやメモも書き込める

 アプリに続き、携帯キャリアとソフトウェアメーカーからデモに向けたiPad(計9台)と、ネットワーク(クラウド、LANサーバー)の協力を得ました。その上で、電子化には議会運営委員会で賛否拮抗だったことを考慮し「実証実験」の名目で、2012年9月議会は議員全員でiPadを使ってみたのです。

 すると、「パソコンより使いやすい」「紙の資料と同じような感覚」と大変好評だったため、2013年度からの導入方針が議会運営委員会の全会一致で承認されました。

「クラウド文書共有システム」の採用

 導入仕様は、(1)通信はセルラー式、(2)データ化の範囲は議員に配布するすべての書類、(3)ネットワークは災害に強いクラウド、としました。なお、「セルラー+クラウド」を採用した理由は、議員にiPadの使用を義務付ける以上、自宅にインターネット環境がない議員にも配慮する必要があったためです。

 また、クラウドの採用は全国の地方議会で例がなく、タブレット端末の単独運用との違いを明らかにするため「クラウド文書共有システム」という名称がつけられました。

全国初の「オールタブレット議会」が実現

カラー資料も充実

カラー資料も充実

 2013年6月議会から運用が始まり議案書等がPDF化されると、分かりやすいカラー資料が充実、資料の追加や修正が簡単になって議会運営の効率化が進み、会期中の職員残業代も急減しました。

 そこで、導入に消極的だった行政でも同年10月、市長以下の幹部職員等にiPad(30台)が配布され、全国初の議会と行政の「オールタブレット議会」が実現。資料作成費は更に低減し「定例会2回で元が取れる」(財政課職員)と言わしめる効果が発揮されています。

タブレット1つで資料管理も便利に

タブレット1つで資料管理も便利に

同時並行で進められる議会改革

地方議会で3番目にLINEを活用開始

地方議会で3番目にLINEを活用開始

⑴ パソコン使用の実証実験

賛否が分かれていた「パソコン持ち込み」に向けた実証実験を行っています。

⑵ プロジェクターの積極的な活用

傍聴者に分かりやすい議会運営とするため、プロジェクターを積極的に活用することを心がけています。

⑶ ソーシャルネットワーキングサービスの活用

Facebook(ICT機器の活用情報)、LINE(会議の日程と結果)、Twitter(会議当日の進捗状況)の独自アカウントから情報発信中です。

⑷ 「ちいき本棚」の設立

自治体の広報誌を公開クラウドで情報共有する「ちいき本棚」を「SideBooks」提供元と設立。自治体のエントリー費用は無償にして、幅広く呼びかけを行っています。

むすび

逗子市議会議員 君島雄一郎氏

逗子市議会議員
君島雄一郎氏

 逗子市議会では、「ICT推進部会」を発足させ、運用改善や電子機器が苦手な議員へのフォロー、そして、視察に来られた44団体に説明員として対応するなど、議員が主体的になって電子化を推進することで「議会の和」という気風と、「まず、やってみよう!」という活力があふれるようになりました。

 なお、2014年3月23日に逗子市議会議員選挙が行われましたが、「クラウド文書共有システム」導入で得られた改革マインドは、改選後の逗子市議会にもしっかりと受け継がれることを確信いたしております。

著者プロフィール
君島 雄一郎(きみじま ゆういちろう):1969年10月生まれ。44歳。桃山学院大学社会学部卒業。メーカー営業マン(13年間)、国会議員秘書(2年間)を経て、2006年3月の逗子市議会議員選挙初当選、2期目。議会運営委員長に就任して議会の電子化と議会基本条例制定を実現。また、ICT 推進部会(初代会長)を発足させて第8回マニフェスト大賞優秀賞受賞。なお、2014年4月の任期満了を機に、再び営業の世界へ戻る。
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