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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第11回 ICTを活用した新しい議会の姿 ~逗子市議会「クラウド文書共有システム」導入による議論の深化~ (2014/1/9 早大マニフェスト研究所)

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第11回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。掲載は、毎月第2木曜日。月イチ連載です。今回は、「ICTを活用した新しい議会の姿 ~逗子市議会の「クラウド文書共有システム」の導入による議会の議論の深化~」をお届けします。

◇         ◇         ◇

御用聞き議員はICTに代わられる

 情報通信技術(ICT Infomation and Cominication Technology)は、日進月歩で進化しています。行政の分野でも、「オープンデータ」「ガバメント2.0」などと呼ばれる言葉が出てきています。これは、ICTの技術を活用して、行政が保有しているデータを再利用しやすい形で公開し、住民の力を行政サービスに活かしたり、住民が政策形成に参加する取り組みなどのことを指します。

「オールタブレット議会」の議場全景

「オールタブレット議会」の議場全景

 千葉市では、外灯の破損や落書きなどの地域での課題について、市民からスマートフォンなどを使った位置情報つき写真レポートを送ってもらい、web上で市民と市役所が情報を共有し、解決策を探る取り組みが行われています。議員の仕事が地域の御用聞きだけであれば、ICTに取って変わられる時代が確実に来ます。議会、議員もこの流れに取り残されてはいけません。

 今回は、昨年の12月議会で、議員、執行部ともに、議案などの資料を紙ではなくタブレット端末で見る取り組みを本格的に開始し、全国初の「オールタブレット議会」を実現した神奈川県逗子市議会の取り組みを紹介するとともに、議会のICT化について考えたいと思います。

※逗子市議会の取り組みは、第8回マニフェスト大賞で、優秀ネット選挙・コミュニケーション戦略賞を受賞しました。

「オールタブレット議会」実現までの経緯

 逗子市議会では、これまで紙を使うことにより、定例会ごとに1議員当たり1000枚以上の資料が印刷されたり、その資料の差し替えがある場合の職員の労務負担は過大なものでした 。また、カラーコピーが禁止のため、分かりにくい白黒の資料を使ったり、資料のコピーに時間がかかり、資料請求のたびに委員会審議が中断するなどの課題がありました。

 そうした中、タブレット端末導入の議論のスタートは、2011年の12月議会の一般質問、行政におけるタブレット端末導入の提案が行われた時にさかのぼります。翌年、議会活性化推進協議会で、議会でのタブレット端末導入の検討が開始され、2012年の12月議会では、デモ品による実証実験が行われました。併せて、導入効果の検討も行われ、導入コスト(220万円)が議会費の見直しの範囲内で収まること、それ以外にもペーパーレスによる行政コストの削減、効率化が見込めると判断し、2013年度からのタブレット端末導入方針が決定されました。そして、2013年の6月議会で、まず議会が運用を開始、それに続いて12月議会から執行部も使用を開始し、全国初のオールタブレット議会が実現しました。

ICT推進部会のメンバー

ICT推進部会のメンバー

 逗子市議会が、オールタブレット議会を実現できた理由はいくつか考えられます。まずは、30代40代の議員が9人(議員定数20人 現在欠員1人)と全体の47%、当選3期までの議員が14人と全体の74%といった、比較的若い議員構成になっていたことが挙げられます。また、有志議員で発足させた「逗子市議会ICT推進部会」も大きな役割を果たしました。部会のメンバーが、勉強会などを開催して、電子機器が苦手な議員に対しても、その習熟度に合わせて個別に丁寧に対応してきました。つまり、ICTの活用の必要性を感じた若手議員が中心になり、丁寧な合意形成を積み上げながら、議会が主導する形で導入を進めたことが成功の要因として考えられます。

「クラウド文書共有システム」の特徴

 逗子市議会で導入した「クラウド文書共有システム」の特徴は大きく3つあります。

カールアニメーションで見た予算書

カールアニメーションで見た予算書

 1つ目は、データ管理をすべてクラウド(インターネットのサーバーを使って作業を行い、作成したデータもインターネット上に保存する仕組み)上で行うため、最新の情報を常に全議員で共有できることです。2つ目は、実際の紙をめくるような感覚で資料の閲覧ができる「カールアニメーション」操作が可能なアプリケーションを採用し、年配議員の違和感を少なくしているところ。3つ目は、タブレットの仕様をセルラーモデル(通信キャリアの無線電波を利用してインターネットに接続可能)として、議会内だけではなく、自宅や外出先、視察先などでも利用できる点です。

 また、導入に際しては、「逗子市議会会議用システム用端末機使用基準」を作成し、禁止事項や遵守事項、使用範囲(会議における使用、情報伝達における使用、情報収集における使用)などを取り決めています。

システム導入によるメリット

 システム導入のメリットは、紙の使用量の削減や、印刷などに関わる職員の労務負担の軽減などといったペーパーレスによる直接的な効果だけではなく、議会における議論の深化といった副次的効果も現れています。

タブレットホームページ

タブレットホームページ

 何といっても、印刷の負担が少なくなったことで、行政から出てくる資料が圧倒的に増えました。更に、クラウド上に情報をアップするだけなので、資料が提供されるまでの時間が概ね30~60分かかっていたものが数分にと格段に短縮され、実際の審議に時間を割けるようになり、議事運営の効率化が図れています。また、曖昧な事項に関しては、会議中でもその場でタブレットを活用して調べられるので、感覚的ではなく、具体的な数字、資料に基づいた議論が行なわれることになり、議論に深みが出てきています。議員提案の条例作成などに際しては、議会でのリアルな議論以外でも、クラウド上での意見の蓄積、上書き、集約が可能になりました。市民とのコミュニケーションにおいても、タブレットを活用して政策や事業を分かりやすく説明出来たりなどと、利用の可能性が広がっています。 ICT推進部会の会長である君島雄一郎議員は次のように話しています。「逗子市議会の特徴は、タブレットの導入だけではなく、クラウドを活用しているところです。それにより、議会の議論の深まりとスピードアップ、効率化が図れています」。

ICTが議会を変える

 逗子市議会以外にも、ICT化に積極的に取り組む議会が全国に現れています。千葉県の流山市議会では、2010年、スマートフォンによる電子採決システムを全国で初めて導入しました。これにより、情報発信のスピード化と議決の透明性が確保されました。また、2011年には、「流山市議会ICT推進基本計画」を策定し、議会でのICT技術の積極的な活用を目指しています。

 三重県鳥羽市議会では、4つの有人離島を抱える地域性から、本会議、委員会、全員協議会などほぼすべての会議を動画共有サービス、ユーストリームを活用してインターネット中継しています。また、全議員にタブレット型端末を配布、議場にも端末を持ち込み、一般質問では、議場に設置されたモニターに、スライド、写真などを送り表示しながら議論をしています。

 議会をサポートする議会事務局の中にも、ICTの活用に積極的なところがあります。神戸市会事務局では、ソーシャルネットワーキングサービス、フェイスブックを活用し、積極的に議会の情報を発信、市民と双方向の交流を行っています。

 議会改革、ICT化は手段であって目的ではありません。目指すは住民自治の実現です。ICTを活用することで、議会の姿は大きく変わります。行政の視える化、住民参加の促進を促すツールとして、議会、議員は、ICTを食わず嫌いにならず、積極的に活用していくべきだと思います。

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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(早大マニ研連載「週刊 地方議員」)
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