【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】
第57回 伝えることにこだわる~自治体職員とデザイン (2020/11/4 新潟市西区役所 農政商工課食と産業振興室 平賀恵一)
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。
まえがき
「平賀さん、部会のポスターセッションの件どうします?私作りましょうか?」
「俺が作ってもいいけど、壇上にあがることになるよ」
2020年1月の人材マネジメント部会の最終回。ここまでの1年間の取り組みを大きなポスターにまとめる課題が出されていました。一緒に部会に参加していた山田さんとのそんなやり取りから3週間後、私たちは実際にポスター発表会の壇上にあがっていました。
正直なところ、私たちが部会で取り組んだ内容は、他の自治体のものに比べて特別秀でているものでもありません。そんな私たちがなぜ他の参加自治体から評価されたのか。そして、なぜ宣言通りに壇上にあがることができたのか。今回はデザインの力についてお伝えしたいと思います。
デザインとは
皆さんは資料を作る際に、「デザイン」を意識していますか?
そもそも、デザインとはなんでしょうか。かのスティーブ・ジョブズは、「Design’s fundamental role is problem solving.(デザインの基本的な役割は、問題を解決すること)」と言っています。
資料とは、相手方に説明し納得してもらうために用意するものです。つまり、資料にとってのデザインとは、「相手に伝わるように設計すること」であり、デザインされた資料というのは「相手に伝わるように創意工夫された資料」ということだと理解しています。
相手に伝わる資料
資料を読んでもらう相手は上司や同僚だったり、市民や事業者だったり、様々です。
○上司や同僚(内部)
→「概要や専門的な用語をある程度理解」「説明を聞く姿勢や時間がある」
○市民や事業者(外部)
→「概要や用語はあまり理解していない」「そもそもゆっくり話を聞く余裕がない」
全く違う相手に、同じ資料を使って、同じように伝わるわけありません。それなのに、公務員が用意する資料は、たとえ市民に伝えるためであっても内部で説明する資料のままであったり、文字数だけを割愛しただけの簡易版という名の資料の多いこと。
「もしかして伝える気ないんじゃないの?」
回想2008年~画像編集スキルの取得
2008年の春、在職4年目の私はIT部門に配属されました。IT部門では、システム事業者の説明を、分かりやすく職員に伝えなければなりません。これがまた難儀な仕事で…。「専門用語が多すぎて文字だけじゃ説明できない」ということが多々ありました。
そこで、職員説明用の分かりやすい資料を作るために、必然的にイラストや写真などの画像を編集するスキルが必要になりました。
「JPEGとPNGの違いってなんだ??」
「画像はレイヤー構造??どういうこと??」
悪戦苦闘しながら、全くの素人が独学でスキル習得に励み、“自治体職員にしては割と頑張ったレベル”の画像編集スキルを得ることができました。
回想2014年~デザインセンス獲得
2014年、私は本市の外郭団体に配属され3年目を迎えていました。主に市内の中小企業者等のビジネス支援を行っているその団体において、私はビジネスパーソン向けのセミナーの企画・運営を任されることになり、そこでまた壁にぶち当たります。
「セミナー受講生募集のチラシを作らなければならないのに、圧倒的にセンスが無い」
外部の人や、内容について全く知らない人に説明する必要がある場合、相手に伝わるように資料を作る必要があります。そのために参考になるのが、民間企業などが作っているチラシやパンフレットなどの「デザインされた資料」です。イラストや写真、グラフが抜群のバランスで並んでいるチラシ等は、自然と目を引くし、内容もすっきりと頭に入ってきます。
私は、センスを磨くために様々な企業や団体のチラシやパンフレットを見まくりました。さらに、カラーコーディネーターや、デザイナーが講師のセミナーも受けました。
「ありきたりのキャッチコピーじゃ響かないんじゃないか」
「インパクトのない資料は手に取ってすらもらえないらしい」
試行錯誤しながら、センスがない男が独学でセンスを磨き、“自治体職員にしては割と頑張ったレベル”のデザインセンスを得ることができました。
「魅せる資料」への昇華
いま私は、獲得した「スキル」と「センス」を駆使し、対象者に伝えるための資料ではなく、自発的に見てもらえるような資料作りを心掛けています。ここではそれを「魅せる資料」とします。「魅せる資料って何?」と聞かれると非常に抽象的な表現になってしまうので、私なりに「魅せる資料」をつくる際に気を付けているポイントを少し紹介します。
(1)ターゲットによってデザインを変える
当たり前ですが、読み手(ターゲット)によってデザインを変える必要があります。不特定多数に見てもらう必要がある場合は、とにかくインパクトが重要です。手に取ってもらえるようなキャッチ―なコピーで惹きつけましょう。逆に、内部関係者に見せる資料であれば、分かりやすさが重要になります。経験上、自治体職員には文字7割、画像(イラスト・グラフ)3割が最もウケるようです。
(2)メインビジュアルを作る
その資料のキーとなる画像(メインビジュアル)を作りましょう。何を伝えたい資料なのかパッと見ただけで分かるような画像があれば、あとはその周りを文字で補足するだけでそれなりの見栄えになります。また、メインビジュアルはそのままウェブサイトなどにも活用できます。
画像編集にあまり自信がない人は、インターネットなどでイメージに合った素材を見つけると良いと思います。今は無料で使用できるフリー素材などたくさんありますが、使用する際は著作権などに気を付けてください。
(3)フォント選びは重要
チラシにしても、プレゼン資料にしてもフォント選びは重要です。柔らかい雰囲気を与えるゴシック体や丸文字は上司や事業者向けの資料には向きませんし、明朝体や行書体だと逆に文章に堅さが出てしまいがちです。TPOによって使い分けが必要です。また、フォントはなるべく統一し、重要な部分だけフォントを変える程度にした方が見やすいと思います。
(4)とりあえず作ってみる
とりあえず作ってみることが重要です。作り始めは納得いくようなものでなくても、最後まで作ってみると意外とうまくできていたりします。ちなみに、私の資料は「文書」がメインのものでない限り、ほぼ9割方マイクロソフト社のパワーポイントを使って作っています。自由なレイアウトができる非常に優秀なソフトウェアです。
魅せる資料さえ作れれば、説明の手間が省けるだけでなく、伝えたい相手方の納得感が格段に違います。職場でも、あの人が作る資料なら間違いないと一目置かれるはずです。
「そんなこと言っても、しょせんアマチュアの言うことでしょ。眉唾もので根拠もない」と思う方が大半だと思います。だから私は、とある場所を借りて「魅せる資料」が、本当に効果があるのか実験してみました。そう、それが冒頭の部会の発表会の舞台です。
「魅せる資料」づくりをした。これが、私たちが宣言通り壇上にあがることができたカラクリです。
あとがきとこれから
部会で大切だと学んだ2つのキーワードに沿って、これからについて書きます。
「部会に終わりはない」
部会に終わりがないように、私にとって「伝えることにこだわる」姿勢はこの先も変わることがないと思います。そして、これからも今以上に追及していくつもりです。それが自分にとって、また組織にとってもプラスになると信じているから。
「一歩前に踏み出す」
魅せる資料作りは、そこそこの「スキル」と「センス」があれば誰でも作れます。そこで、私は今「魅せる資料作り」の継承に力を入れています。部会での学びの一つである「一歩前に踏み出すことが大事」ということに共感し、これまでは自分の仕事のためだけに使ってきたものを、今度は後輩などが使えるように教えています。
稚拙な文章に最後までお付き合いいただきありがとうございました。これを読んでいる自治体職員やマネ友の皆さんで、もし「伝えること」の壁にぶち当たってしまった方がいれば、その時はぜひご相談ください。“自治体職員にしては頑張ったレベル”の私が力になります。共に「伝えること」にこだわっていきましょう!
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- ■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
- 安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。