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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第54回 建築家になりたかった公務員がデザインする「こと」。 (2020/1/30 千葉県茂原市都市建設部建築課 審査指導係長 篠田智仁)

関連ワード : ICT IT オープンデータ 公務員 千葉 茂原市 

「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

はじめに

 千葉県茂原市は、令和元年の台風15号、19号、10月の大雨により過去にないほどの甚大な被害に遭いました。まちの機能は、復興に向けて道半ばですが各方面の方々からの暖かいご支援と市民の皆様のご協力によって、少しずつではありますが災害前の状態に戻りつつあります。この場を借りまして全国の皆様から頂きましたご支援とご協力に感謝申し上げますと共に、今後とも茂原市職員一丸となってこの難局を乗り越えるべく力を合わせてまいりますのでよろしくお願いいたします。

    ◇

「技術屋さんなのに珍しいですね」

 私自身が、名刺交換をさせていただく際によく言われるフレーズである。私はこれまで自分が「技術屋か、事務屋か」という線引きを意識したことはないが、およそ「公務員の技術屋」と呼ばれる人のイメージとはかけ離れているのかもしれない。

 しかし、これからの時代に求められる自治体職員は、どんな業種でも高い水準で専門性を発揮できるのはもちろんのこと、他分野との壁を越え対話し、行政内部でもシナジーやイノベーションを生み出すことで地域経営をリードすることが求められている。教育も「文理一体」として変化しているように、自治体職員も“○○畑”のような専門分野屋的思考にこだわらない度量が必要だと感じている。

篠田 智仁さん

篠田 智仁さん
千葉県茂原市都市建設部建築課 審査指導係長 建築主事 一級建築士
LEGO®SERIOUS PLAY®認定ファシリテーター
SDGs de 地方創生カードゲーム認定ファシリテーター
NPO法人6時の公共 理事
市民活動団体シビックテックもばら副代表

きっかけ

 建築技術職として採用されてからのキャリアで目標としていた1級建築士の取得後、次の目標としていた建築主事を2010年に取得した。この時点で新卒採用から13年。個人的にはライフステージの変化もいろいろあった時期ではあったが、ずっと携わってきた建築行政用務において、これまでの懸案でもあった電子化による事務改善を行う覚悟を決めた。

 それにあたっては行政規模ではそれほど大きくない自治体であっても「接客の質を県内トップレベルに」という目標をかかげ、先進的な事例を調べることから始めた。こんな時、全国の自治体職員とのつながりは本当にありがたい。今考えると、その意識が自分の中で初めて具体的に起きた行動変容のきっかけだったといえる。

市職員としてICTとの向き合い方

 システムはあくまでツール。使うのは人。紙保存書類の電子化業務によって目指したものは、「サービスの質」を上げるための古い紙情報の整理、保存、管理。それによって「仕事のステージを上げる」というイメージで、以下のような効果を期待して取り組んだ。

■直接的な効果
1.紙情報の保存、保存書類の検索、取り出しスピードの減少による迅速な接客対応。
2.接客時間はこれまでより秒単位で短くするが、対応の質を上げ満足度を向上する。
3.保存した書類を「公文書公開請求」ではなく「原本証明」として写しの交付をする。
4.不動産取引等に使える公的な「証明文書」の交付による新規手数料歳入の確保。

■副次的な効果
1.接客時の質問にデータで答える人材の育成。
2.接客時間短縮によるデスクワーク時間の確保、時間外勤務時間の減少。
3.ニーズにダイレクトに答えられるデータの整備と分析的思考。
4.手書きの仕事をやめることによる生産性の向上、人件費の削減。
5.書類を電子化し限られた書庫の保存スペース縮減。

行政文書の電子化からオープンデータ活用の意識へ

 そして、今から約7年前の2012年、1950年から紙ベースで行っていた建築行政の業務を全て電子化する事業を提案し担当した。当該事業にて、約60年間、紙によって行政内部に蓄積された建築確認申請に関する情報を整理し電子化。スピーディーな物件の検索と書類の取り出しやすさを考えた保存方法を提案した。

 また、この事業にかかわる事によって、行政でただ保存されるビッグデータを「オープンデータ(※1)」とすることの大切さを実感すると同時に、「シビックテック(※1)」によって利活用される流れを意識することになる。

 日本でもオープンデータを活用し、地域の課題をITによって解決する「一般社団法人コード・フォー・ジャパン」という組織が2013年に立ち上がり、2019年で6年となっている。コード・フォー・ジャパンの「ともに考え、ともにつくる」という理念に触れ、自分起点で地域に目を向けて考える機会に接し、データを活用し実際に行政とともに地域課題を解決しているシビックテックの市民活動チーム「CODE for X(Xは地域名、総称をブリゲードという)」が全国各地に立ち上がっていることを知ることになる。となるとやはり「自分がやらなければ」という気持ちの変化が生まれ、小さな一歩を踏み出すことになる。

CODE for JAPAN SUMMIT 2019 in Chiba(神田外語大学)

CODE for JAPAN SUMMIT 2019 in Chiba(神田外語大学)

シビックテックへの一歩

 シビックテックを動かすには、オープンデータが必要不可欠である。オープンデータには大きく分けて二つの立場が存在する。

1.オープンデータを提供する側(行政)
2.オープンデータを使う側(企業や市民活動団体、学生など市民)

 2のオープンデータを使う側のブリゲードに目を向けると、各地のCODE for Xには、アプリ開発などのできるITエンジニアがかかわっているケースが多いことに気付く。自分自身でその活動を立ち上げようと考えるも、IT不毛の地である茂原では一緒に活動してくれるエンジニアに未だ出会えていない。

 そこで、あえてチームの名称をITアウトプットをつくり出せる「CODE for X」とはせずに、シビックテックの「テック」の部分を広義にとらえ、まずは市民のもつ「強み」によって課題を解決する市民活動団体「シビックテックもばら」を2016年夏に小さく立ち上げた。

地域経営視点で対話できる人材の育成から協働へ

 一方、2016年は早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会に参加したこととも重なり、これからの地域経営に向けた自治体の組織変革について学び、そのための組織内外における対話の促進と実践の必要性をいままで以上に感じていた時期でもあった。部会に参加することで、「未来の茂原のために地域との対話を今すぐにはじめなくては本当に必要となる時期に手遅れになってしまう」という危機感から、当時まだあまり知られていなかった財政シミュレーションゲーム「SIMULATION福岡2030」を福岡市の今村寛さんを講師に迎えて実施することを提案した。

SIMULATION福岡2030を開催

SIMULATION福岡2030を開催(写真右から今村寛さん、篠田、和田あずみさん)

 このシミュレーションゲームとの出会いは、2015年にVLED(※2)で受講した自治体職員オープンデータ研修で対話型自治体経営シミュレーションゲーム「SIMULATION熊本2030」を体験したことがきっかけであった。

 提案理由は「対立を対話で乗り越える」というワークショップのテーマを、対話が苦手な職員に伝え、行動変容を促すことが硬直化した行政組織をほぐしていく鍵であり、その共感を内部に広げることが10年先の組織に必要だと感じたからに他ならない。後にその開発者の1人が、同じ人材マネジメント部会修了生である熊本県庁の和田大志さんだと知ることになる。

 このワークショップのインパクトは凄まじく、実施後、「茂原市のご当地版の制作にかかわりたい」という熱意ある若手職員が15名集まり、翌年の2017年夏に「SIMULATIONもばら2030」を制作、実践、2018年も職員向けに実施した。2019年にも対象を変えて対話の共鳴を広げたいと考えている。

SIMULATIONもばら2030初回の開催写真

SIMULATIONもばら2030初回の開催写真(茂原市職員研修)

誰のため何のためのSIMULATIONか

 山形県酒田市職員の松永隆さんの監修によって完成した茂原版の特徴は、「市民協働」を強く意識した内容となっていることである。行政用語をできるだけ少なく、中学生くらいの年齢からでも参加できることをイメージしている。

 その理由は、職員だけにとどまらず、「これからの地域の未来を行政も市民とともに考え、ともにつくってゆきたい」というメッセージを発信したいと考えているから。そしてこの理念は、先のCODE for JAPANの理念にも通じ、シビックテックにも通ずるものと理解している。

 シビックテックもばらでは、行政と市民の間の通訳、橋渡し役としてこれまでに、市民ワークショップ2回、千葉県内の大学で2回、それぞれSIMULATIONもばら2030を開催している。このゲームを通じ学べることは沢山あるが、それはぜひ茂原で体験してほしい。

SIMULATIONもばら2030大学生と開催写真(千葉商科大学)

SIMULATIONもばら2030大学生と開催写真(千葉商科大学)

原動力

 時々、地域や自分の子どもたちを見ていて思うことがある。

「このまちを子どもたちに胸を張って引継ぎ、渡していくことができるだろうか」

 例にもれず人口減少のフェーズに入った日本の地方都市において、生活している我々大人の世代が、持続可能な地域やまちを意識して時代にあった形にデザインしていく責任を負っていると思う。自治体職員としてその最前線を見ていると、ことさらにその責任を強く感じる。

 私たちは、生活の中で地球の資源を日々消費し、社会インフラとしての道路や橋梁、公共施設など、まちの資源も消費している。使い古したまま残されていくまちの姿は、次世代を担う彼らの目にどのように映っているのだろうか。ハード面だけでなく、ソフト面でも従来の古い制度や仕組みをこれからの社会の変化に適応させずにいたら、将来、まちの中心を担う世代はどう思うだろうか。

 未来へのまちづくりは今ここで日々進んでいる。にもかかわらず、将来のまちの中心を担う世代に、未来への希望にあふれた「価値ある生活」を提供できているかどうかは不確かで明確な答えもない。

「このまちの未来に、日本に、そして世界に、満ち溢れる希望を抱いてくれているか」

 大人たちが楽しく真剣にまちの未来を語り、いきいきとそこに向かっている背中を見て、次世代を担う彼らと対話しながらともに創っていく。その危機感と共創の意識が私を突き動かす原動力となっている。

「あなたの原動力はどこにありますか?」

 それはもちろん、あなた自身のためでも、あなたの家族のためでも、愛する人のためでも、地域や社会、地球、環境のためでもいい。そこにきっと価値がある。

SIMULATIONもばら2030市民ワークショップにて開催(シビックテックもばら)

SIMULATIONもばら2030市民ワークショップにて開催(シビックテックもばら)

これから

「職種やその領域に縛られることなく広い視点で課題の解決を担うことができる人材に向けて、あなたは退職まで残り何年ありますか?」
「それまでに地域や組織にどのような価値を発揮できますか?」

 業務内容は、ITによって効率化する一方で、人にしかできないものを担う人材が求められる時代に突入する。地域に飛び込み、そこで暮らす人々の思考を引き出し、共創していくための適切な問いかけや、市民協働の場をファシリテートする能力はますます必須となってくる。こういった自治体職員を育成する仕組みは行政内部にないが、「それは自分に関係ない」と切り捨てることができない状況も目前に迫っている。

 では、どうすればよいか。

 公務員でもあり、市民でもあることを区切ることなく、両方の立場を行ったり来たりしながら視点を変え、視座を変え、つながりを発見し、どちらにもわかりやすくそれぞれの考え方を伝えることは限られた人にしかできない。協働に向けた伝え方の技術は様々あるが、地域の未来に向けて自分は、好きなことを楽しみながら掛け合わせ、その行動で価値を発揮していきたい。

オフサイトミーティング/キックオフイベント(シビックテックもばら)

オフサイトミーティング/キックオフイベント(シビックテックもばら)

※1 オープンデータ/シビックテック
今日では、個人情報を含まないビッグデータを2次利用可能なものとして国や地方自治体が無償で公開している。今や地域の課題解決は行政だけで行うものではなく、どんどん市民や学生が参画し知識やアイデアを結集して取り組んでいくものとなっている。そのために行政が保有するビッグデータを課題解決の材料として使ってもらえるように「開く」、すなわち「オープンデータ」として公開し、ITによって市民、学生や企業が行政と一緒に解決することを「シビックテック」、行政がそれを促進しようとする動きを「オープンガバナンス」と呼んでいます。
※2 VLED
一般社団法人オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構

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■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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