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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第55回 自治体の総合計画をみんなで読んでみる~未来型読書法「ABD」の可能性 (2020/5/15 長野県伊那市役所 総務部総務課職員係 小松慎)

関連ワード : 人材育成 伊那市 公務員 長野 

「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

2018年10月 人事異動により生活保護のケースワーカーから、総務課人事係へ

~心の準備は整っていました~

 4年間、生活保護受給者の皆さんの自立のお手伝いをするケースワーカーとして、それぞれの人生にどっぷりと寄り添ってきました。これからは、全ての市民が安心して安全に生活できるようにするための職員を育成する立場となります。とは言っても、そのためには何をすれば良いのか。

 結果、1年間はほぼ前例踏襲となりました。が、ただの前例踏襲ではありません。毎日、自身と業務を振り返るために簡単な日記を書き続けました。研修等を行えば、良かったことや反省すべきことをいろいろと書き出しました。

 そして、1年が経過。少し成長した私は、一歩踏み出すことになります。

伊那市 未来型読書法「ABD」

2019年10月 取り組みまで、あと4カ月

~足りないものは、何?~

 2020年度の新規採用職員宛てに内定通知を発送する時期となりました。これに合わせ、内定者研修の計画も本腰を入れる時期となります。

 2018年度は異動後初めての担当ということもあり、これまでの内定者研修を紐解くことから始めました。

 本研修は、内定者が伊那市職員になるための準備として、心構えと最低限必要な知識を習得するために、採用されるまでに何をすべきか自覚することを目的に実施しています。

 しかしながら、内定者はどういう思いで受講しているのか?何を学び知りたいのか?等々、内定者の気持ちや想いも大切にしなければ、内定者の腹落ちや内定者のためのという目的を達成することはできません。そこで、さらに数年分の研修アンケートを読み返し、若手職員にも内定者研修を受講した時の様子を聞くこととしました(一人称で捉え語る)。

11月 取り組みまで、あと3カ月

~思い込み(ドミナントロジックを転換する)~

 見えてきたのは、残念ながら内容をほとんど覚えていないということ。

 …無理もない。

 採用後、一生懸命職務に専念し、その間にいろいろな研修を受講。そのすべてを覚えているのは難しい話。内定者は忙しい中、一生懸命に受講してくれていました。

 むしろ残念な結果にしてしまっているのは、「担当者の『この研修内容で目的を果たせている!』という思い込みじゃないのか?」

 では、どうすればいいのか…。

 若手職員から研修に何を期待するかを聞き取ると、「伊那市外からの採用だったので、伊那市のことを知ることから始めました」「市役所が何のために仕事をしているのか知りませんでした」「保育士採用だったので、他の職種や部署がどんな仕事を行っているのか知りたいと思いました」「同期とのつながりが欲しかった」など、さまざまな生の声を聞くことができました。

12月 取り組みまで、あと2カ月

~伊那市のありたい姿を学ぶために~ 

 内定者は4月1日付けで入庁し、各部署に配属されます。配属先では、未知との遭遇が続く日々を過ごすことになるため、入庁前に「伊那市」について、ある程度の知識を共有し、共通した基盤を作ることが大切だと気づきました。

 では、どうすれば「伊那市とは」の知識を共有し、共通した基盤を作ることができるのか…。

 ピコーン!総合計画か!?

 とは言っても、私自身が私に関係するところ以外はほとんど読んでいない(お恥ずかしい限りです)状況で、大切な内定者研修に総合計画を取り入れていいのか? 取り入れるにしても、どうすれば内定者の腹落ちと行動変容につながる研修を行うことができるのか?

 そんな時、持つべきものは、良き同僚と良き上司(組織)。まずは、部会修了生(マネ友)でもある当市の北原教正さんに相談することとしました。

 「良いじゃん!」

 …その言葉に背中を押され、大船に乗った気持ちで総合計画を取り入れることに。しかし課題は、「どうやって」というところ。

 そこで思い出したのが、遡ること1年前に佐藤淳幹事がファシリテーターを務めたスキルアップ研修会で体験したABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ)でした。ABDは、事前に読書せずに、1冊の本をみんなで分担して読み要約を発表しあうことで、1冊を読んだ効果を得られる手法です。読んだ本をもとに参加者同士が対話をすれば、より深い気づきを得ることができます。 

 それから月日は流れ、内定者研修まであと2カ月。マネ友がABDファシリテーターとして活躍していることを知り、再びABDに興味を持つようになりました。そして、改めて「ABD」を知ったとき「これだ!」と衝撃が走りました。そしてまた良き同僚、良き上司の元へ。

 「総合計画を題材にしようと思っています」
 「…良いね!」
 「これまでの内定者研修の受講者から、こう言った感想や課題をいただいているんです。その気持ちを少しでも解消や改善するために、ABDで伊那市総合計画を題材にしたいんです!
 「…良いね!」

 …なんて素敵な上司(組織)や同僚に恵まれているんだろう。早速、総合計画の担当課へ内定者研修の題材にしてもよいか相談したところ、快諾でした。

 ABDを経験したことのある同僚に様子を聞いたり、自身でも勉強をする日々が続き、何度も何度も構想を練り直しました。

2020年2月 内定者研修当日

内定者研修

~どんとこい内定者研修!からの「ABD」は失敗した!?~

 準備は万端整いました。

 では、研修日程に沿って「伊那市を知る」、内定者の研修を始めます。

 今日は、「参加者で協力して本を読み、同じレベルの知識を共有し、共通した基盤を作るため」にABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ)という方法で取り組んでいただきます。チェックインとして、自己紹介をして場を和ませ、続いて、伊那市や伊那市役所が「どのような未来を想像して計画や目標を立てて仕事をしているのかを、みんなで協力して学んでほしい」とABDを行う目的を伝えました。そして、選定本の発表。「第2次伊那市総合計画です!」

 …期待した通り、「なにその本!?」というキョトンとした表情でした。そこで、「総合計画とは、伊那市のまちづくりを進めていくための道しるべみたいなものですよ」と簡単に説明。

 ウオーミングアップとして、総合計画の序論と市の概要部分を1人2ページずつ要約していただきました。初めて目にする言葉や初めて経験するABDに、「難しい」というつぶやきが聞こえてきました。

 そして、要約した内容をグループ内で発表。同じテーマで取り組んだにも関わらず、限られた時間の中で的確に伝えることの難しさやキーワードやまとめ方などが異なっている状況を目の当たりにし、驚きを感じている様子でした。

 いよいよ170ページに及ぶ伊那市総合計画を読み解く旅の始まりです。担当は1人7ページ前後、サマリーを作るまでの時間は30分と設定しました。

 時間を10分延長し何とかサマリーが完成。リレープレゼンに向けて、1人4枚のサマリーを連結し、ホワイトボードに貼ります。

 そして、リレープレゼン。1人1分から1分半で要点をプレゼンとしましたが、予定時間をオーバー。結局、リレープレゼン後に気づきの共有を行うためのダイアログは実施できず。感想や疑問について話を深めるには至りませんでした。

 …失敗した!内定者の皆さんに申し訳ないことをしてしまった…とお詫びをしました。そして、反省しました。

 チェックアウトとして、「ABDという手法により実施前と実施後で、伊那市や伊那市役所がどのような計画や目標に基づいて仕事をしているのか、しようとしているのかなど、伊那市のありたい姿が少しでも想像できるきっかけになっていればうれしい」「入庁まで2カ月弱となったこの時期に、今回のABDで深堀りできなかったことを自主勉強として深掘りし、不安を解消した上で入庁を迎えることをお勧め」しました。

3月 入庁まで1カ月。第2回内定者研修

~2回の内定者研修を通しての感想から~

 3月の第2回内定者研修の後、2月及び3月に実施した内定者研修の感想を求めました。

 そこには、ABDによって、「総合計画をみんなで読んだことにより伊那市の目標を知ることができました」「話を聞くだけの研修ではなく、自ら意見を考えプレゼンする機会となり充実した研修でした」「自ら学ぶことが必要だと思い、総合計画を改めて読んでみました」「伊那市のことを知らず不安に感じていましたが、不安が減りました」「同期と交流することができて良かった」「他の部署や職種がどのような仕事をしているのか知ることができました」「みんなで読んだことで、同じ話を一緒に聞き、同じように学ぶことができて良かった」など、多くの感想をいただきました。

 失敗したと思っていたABDが、内定者の気づきや行動変容のきっかけになっていたことを知り涙が出ました。内定者の皆さんのおかげです。

これからの展開

~内定者の取り組みを無駄にせず、発展させる~

 当市には、職員の自己啓発学習「SUI(すい)ゼミ」という学習の場があります。そこでは、退職者から後輩へメッセージをいただいたり、国県等へ出向していた職員が経験から得た気づきを共有したり、働き方改革などテーマを設定した学習を行ったりしています。

 学習会後のアンケートから、「同じ職場で働いているのに、他の職場がどんな仕事をしているのか知らない」といった、内定者と同じ感想を目にすることがあります。

 そこで、内定者の皆さんに取り組んでいただいたABDのサマリーが役に立ちます。サマリーを掲示し、各部署の事業等を伊那市役所全体で共有及び深掘りする機会を設ける。また、対象を職員のみとせず、市民や議員等を含めたものにすることで、総合計画を作成した側の思いが市民に伝わっているかどうか、市民の側からの気づきや想いを共有する機会にもなるのではないか(立ち位置を変える)とも思っているため、様々なバリエーションで展開していくことができればいいと考えています。

 ABDと出会うきっかけをくれた人マネ&佐藤幹事、私の気持ちを受け入れてくれた職場の上司や同僚、真摯にABDに取り組んでくれた内定者の皆さんのおかげで、今後もいろいろなことにチャレンジできそうです。

 「微力ではあるが、無力ではない」と経験から学ぶことができたABDは、計画のとおり実施することで得られるものもありますし、私のように実施中にサマリーを描き切ることやプレゼンを優先することもできる柔軟性と発展性あふれるツールだと思います。これが正しい方法だというものもないと思います。ぜひ、皆さんが取り組まれているABDを教えてください。ともに頑張りましょう!

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■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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