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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第56回 常総市を襲った水害の経験から生まれた「マイ・タイムライン」~いつ・誰が・何をするか、個人の防災行動づくり (2020/8/6 茨城県常総市役所 防災危機管理課危機管理係 松崎典子)

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「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

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 この記事を書いている最中も、熊本県球磨川の氾濫で浸水被害の報にふれました。被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。

 私は2018年に防災危機管理課に配属され、「マイ・タイムライン」というものを初めて知った。

 「マイ・タイムライン」とは、個人の防災行動計画であり台風の接近によって河川の水位が上昇する時などに、「いつ」「誰が」「何をするか」を記載するもので、行動のチェックリストや判断のサポートツールとして活用できる。これは2015年9月関東・東北豪雨がきっかけとなって行った取り組みである。

 この災害では常総市の約3分の1が浸水し、約4,300人の市民が逃げ遅れた。その後「逃げ遅れゼロ」を目指す鬼怒川緊急対策プロジェクトのソフト対策として「マイ・タイムライン」づくりが始まった。私も作成推進担当として、同年9月に講座を受け持つことが決まった。

マイ・タイムラインの作り方

 この講座を行うにあたり、実際に国土交通省 関東地方整備局 下館河川事務所の方の講座を受講して、自分自身でもマイ・タイムラインを作成した。

 マイ・タイムラインを作るためには、3つのステップがある。まず、想定浸水深(何m水がくるか)や浸水継続時間(何時間水が留まっているか)を調べて自分たちの住んでいる地区の洪水リスクを知る。次に洪水時に得られる情報(川が氾濫危険水位になると避難判断の参考になる等)を知り、タイムラインの考え方(遠足前日の準備を例にして、逆算して自分の行動を考えること)を知る。そして実際にマイ・タイムラインの作成をする。

 受講後、「私に講師ができるのだろうか…」と弱気になっているところを「大丈夫ですよ!」と励ましてもらった。そして約1カ月後に小学校の先生向けに初めて講座を行ったが、原稿を読むだけで精一杯であった。

 講座では「逃げキッド」という教材を使う。備えの行動が書かれたシールを貼って、小学生から大人まで誰でも簡単にマイ・タイムラインを作ることができ、「キッド」には3つの意味が込められている。1つ目は「道具」、2つ目は「子ども」、そして3つ目が「逃げ切るぞ」を茨城弁でいうと「逃げきっど!」となるからである(3つ目の茨城弁が文章では伝わらなくて残念である)。

 マイ・タイムラインをさらにたくさんの人の広めるために「マイ・タイムラインリーダー認定制度」があり、10回以上の作成指導をするとマイスターになれる。私は小学生や町内会の方々にお話しし、マイスターを取得して現在も啓発活動を行っている。

筆者が小学校で講座をしている様子

筆者が小学校で講座をしている様子

 講座の中では、備えの行動をどんな順番で行うか並べ替えてもらうのだが、自分の順番を答えてもらうと、人によって行動の順番が違うということが理解できる。例えば「避難するときに持っていく物を準備する」という行動は、不足品の買い物を雨風が強くなる前の早い段階で行う方もいるが、普段から備蓄品を準備しチェックしているため避難の直前に行う方もいる。この並び替えに正解はない。自分で考えてもらうことが大切だ。また「避難完了」を目標としているのは、「ありたい姿から考える」のと一緒である。

災害時には普段からの横連携が特に大切

 市内小中学校一斉防災学習で小学生に想定浸水深について伝える時は、「電柱に赤や青のテープが貼っているのを見たことあるかな?今見ているハザードマップと一緒で、この高さまで水が来るかもしれないことを表しているんだよ」と普段の生活に結びつけて話すように工夫した。聞きなれない言葉はできるだけ身近に感じてもらいたいからである。そして、「今日やったことをおうちの人に話してね」とお願いし、家族での話し合いのきっかけにもなる。

 「マイ=個人」の計画ではあるが、家族単位で作成し、また共助にも役立つものである。当時の河川事務所長によると、「ある方が『停電すると玄関の電動ゴンドラが使えず車いすの親を避難させられない』と話したところ、近所の方が『停電した場合は手伝う』と答え、マイ・タイムラインに『近所への声かけ』を書かれました」というように共助にも役立つものだということが分かる。

 このように災害時には普段からの横連携が特に大切だと感じる。多くの方がマイ・タイムラインを作成して見直すことで、災害を「わがこと」として考えてもらえるように、そして「逃げ遅れゼロ」を目指して行動していきたい。

茨城県常総市役所 防災危機管理課危機管理係 松崎典子さん

茨城県常総市役所 防災危機管理課危機管理係 松崎典子さん

参考資料
「マイ・タイムライン」
「まるごとまちごとハザードマップ」
小中学生向けマイ・タイムライン検討ツール~逃げキッド~
みんなでタイムラインプロジェクト

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■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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