【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】
第26回 思いを口にすることからすべては始まる~新潟市を「住んでよかった」といわれるまちに (2016/12/22 新潟市石山地区公民館 野口美奈子)
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。
◇ ◇
新潟市は、近隣13市町村との合併を経て政令指定都市に移行し、2017年4月で丸10年を迎えます。合併により行政区域は広くなり、また、8つの区に分かれたことで、それぞれの区での施策、市全体での施策と業務も多様化し、区ごとに違いもある住民のニーズにもきめ細かい対応が求められています。
そんな中、職員数は年々減少し、職員1人あたりの業務量が増えることによる「余裕のなさ」を感じている職員が多く、私が人材マネジメント部会(以下、部会)に参加した2014年度までは超過勤務も増加の一途をたどっていました。
私自身も例外ではなく、じっくり考える時間がないまま業務に取り組み、仕事が「作業」になっている感じがしました。
このままではいけないと思っていた時、時間あたりの生産性を最大にし、短い時間で成果を上げ、仕事以外の生活時間も充実させることで仕事と生活の相乗効果をもたらす『ワークライフバランス』という考え方に出合いました。
これこそ自分が求めていたものだと思い、まずは自分自身と係全体の超過勤務削減に取り組みました。また、それを新潟市役所全体に広められたらと思い、そのための方法がつかめるのかもしれないと考え、2014年部会に参加しました。
部会でありたい姿を考えていく中で、2013年度のマネ友(部会修了生)3人に、「新潟市民が住んでよかったと思えるようなまちのするための政策は、新潟市職員が自分自身の生活に、そして仕事に満足していなければ考えられないし、実行できるはずがない。そのために必要なものの1つがワークライフバランスと考えている」また、「ありたい姿を実現するためには、自分たちだけでは到底できない。一緒に取り組んでほしい」と思いを伝え、「働きやすさを考える研究室=はたラボ」を立ち上げることができました。
また、部会最終日には「わたしたちは新潟市に住んでよかった・住みたいといわれるまちにします。そのために職員満足・市民満足の向上を目指す仲間を増やし、組織への取り組みとつなげていきます」と宣言もしました。
その宣言を実行していくため、現在もはたラボの活動を続け、「はたラボ版ワークライフバランス(以下HWLB)」=「働きやすさのためのコミュニケーションが職場全体で取れている状態&ワークとライフの相乗効果」の推進に取り組んでいます。
これは、「職員同士でコミュニケーションを取ることで、仕事がしやすくなり早く帰れるようになる」「仕事以外の生活時間も充実させ、よいインプットを行うことが、結果的に短い時間で仕事の成果を上げる質の高いアウトプットと充実感につながり、ワークとライフの相乗効果を持ち続ける」というものです。
これをより多くの職員に伝え、仲間を増やしていくための具体的な手法として次のことを行っています。
- キーパーソン(組織内で影響力の大きい人物)へのインタビューなど、考え方やHWLBへの取り組みを広めるツールとして「はたラボ通信」を発行
- 「昼会・夜会」開催を通じ、職員同士の横のつながりを深めて、情報の共有や部署間での連携を図りやすくすることで、業務の効率を上げる。ダイアログ(対話)の手法の拡散で、職員の意識に変化をつくり出す
はたラボの取り組みの成果
現在ほぼ月に1度、メンバーで各自の取り組みの報告や、テーマを決めた自主勉強会(定例会)を実施しています。「はたラボ通信」は2014年から現在第10号まで発行し、夜会は番外編を含め3回開催しました。初回は20人近い参加があったものの、2回目は5人と極端に減りました。それを踏まえて、3回目はもう少し気軽な「今まで『はたラボ』にご登場いただいた部長級キーパーソンを囲んでの夜会番外編」を開催したところ、25人の参加があり、職員と部長級のキーパーソンが部署を超えた交流を図ることができました。また、その中から2016年度部会参加者が現れ、「はたラボ」に新たに加入するメンバーが今年度から3人増えたことは大変うれしいことでした。2017年1月にまた夜会番外編を開催するため、今は準備をしているところです。
なお、これらが本当に「市民満足・職員満足の向上を目指す職員の増加」につながっているのかについての検証は不十分ですが、部会の講演で特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス理事の鬼丸昌也さんが話されたように「微力ではあるが無力ではない」と思っています。実際に市全体の超過勤務縮減の方針により、2015年度は前年度と比較し約7,000人で38,567時間の超過勤務が削減されました。HWLBは組織が取り組む大きな流れとうまくリンクさせながら、推進に力を入れたいと考えています。
三者協働による「お互いさまと助け合いのある地域づくり」
また、2015年から公民館勤務になったことで、仕事の面からも宣言の実現に取り組むことができました。
公民館は、事業を通じて「自らが考え課題解決のために行動を起こす人、自分の住んでいる地域は自分たちで良くするという思いを持つ人を育て、一緒に地域を良くしていく」のが目的であり役割と考えます。
そのありたい姿を考えたときに、今よりもっと地域課題に密着し、本当に必要とされる事業ができないかを、「地域の茶の間創設者」として「実家の茶の間」を運営し、全国的に知られる河田珪子さんにご相談しました。すると、超高齢社会で安心して暮らしていくためには「お互いさまと助け合いのある地域づくり」が不可欠で、そのためには「地域の茶の間」という誰もが集える居場所を作ること、その「茶の間の作り方」を講義しましょうと提案をいただきました。それが市の地域包括ケア推進課(以下市担当課)が進める事業と合致するため、そちらも巻き込み、2016年度、三者協働による「茶の間の学校」が実現しました。
この事業の大きな特徴は、「三者協働」にあります。
通常、公民館では福祉的な事業は目的が違うから福祉の担当部署に任せるべきと言われがちです。しかし、「福祉」を「暮らし・生きがい」ととらえ、お互いがそれぞれの強み(公民館は講座運営のノウハウ・場所の提供、市担当課は予算と人員・施策の説明、実家の茶の間は茶の間の運営のノウハウ)を持ち寄り活かす。
三者ともに「地域を良くしたい・安心して暮らせるまちにしたい」という思いを持っているからこそ、目指すものの実現のためには目的を共有し、協働することでより良い成果がもたらされると感じました。
春・秋の2回の講座ともに40人の定員を超え、20代から90代まで幅広い年代の方に受講いただきました。
また、この講座をきっかけに地域の茶の間を自分で立ち上げたいという方、実家の茶の間に関わるようになった方、公民館・地域活動に積極的に参加するようになった方が増えたことなど、三者それぞれに成果をもたらす「お互いさまと助け合いのある地域づくりができる人材の増加」ができたと考え、「新潟市に住んでよかった」と言われる取り組みへつながったと感じています。
また、この三者協働の取り組みが目にとまり、2016年12月に佐賀県で行われた「学びを通じた地方創生コンファレンス」において他県の方へもお話しさせていただくことができました。
一人でできる行動の第一歩は「思いを口にすること」
今回、部会に参加してから2年以上経過し、それができているのかふりかえるチャンスをいただきました。正直、お引き受けしてよいのか迷いましたが、出馬部会長の「すべてのものごとは必然である」という言葉がずっと心に残っていて、それに後押しされる形でこの文章をつづっています。
「はたラボ」も「茶の間の学校」も「ありたい姿」を考え、その思いを人に伝えたことから始まりました。願いは叶うといいますが、心の中で願っているだけで何も行動を起こさなければ叶うはずがありません。自分がこうしたいと思ったことを口に出す。行動を起こす。それに対して同じ思いを持ってくれる人が、理解をしてくれる人が必ずいるはずです。
「あなたが言うなら」と動いてくれる人をどんどん巻き込んでいく。部会という場を離れても一人ひとりが変革の意識を持ち続け、行動に移していくことで、組織が変わり、地域が良くなり、「住んでよかった・住み続けたい」と実感できる。まだまだ道のりは遠いですが、「ありたい姿」を持ち続け、その思いを口にし、巻き込める力をつけて、いつかたどり着けるよう行動することが部会に参加した者の使命だと信じています。
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- ■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
- 安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。