【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】
第24回 地域の最前線で地域担当職員として“まちづくり”に関わってきたこと、感じたこと (2016/10/26 熊本市北区役所北部まちづくり交流室地域担当 主幹 北野伊織)
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。
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2016年4月14日、16日に発災した熊本地震から半年が経過しても、今なお多くの皆様が避難所生活を余儀なくされておられます。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げますとともに、全国からまた海外からも様々なカタチで温かいご支援をいただき深謝申し上げます。
私が人材マネジメント部会に初めて参加した2014年度は、これまでの市役所人生の中で大きな影響を受けた年でした。部会では「考えることだけでは何も変えられない」「現実に変えていくためには、それを行動に現していく」ことが求められます。しかし、行動するにあたり一歩踏み出す勇気が必要になります。そのためには準備を入念にしておかなければなりません。そのようなシナリオを考えていく。私は今、この体得したことを発揮できる現場にいます。
地域担当として着任
熊本市は、2017年度より、地域力向上を図るため、区役所機能や地域のまちづくり支援を強化するための「地域担当職員」を配置する予定です。私は、その地域担当職員として熊本市北区の北部地域の出張所に先行配置されました。
私の役割は2つで、1つは新たに配属される地域担当職員の業務内容を確定させること、もう1つは担当する地域のまちづくりを推進していくことです。地域担当職員として様々な不安を抱えながらの異動ではありましたが、新たな地域でどのようなまちづくりに関われるのか楽しみでもありました。しかし突然、着任後間もなく、「熊本地震」が起こりました。
震災後の状況
地震直後、北区にある職場は直ちに避難所となりました。北区はほかの地域や区と比べると比較的被害も少ないようでしたが、それでも多くの住民が車で駐車場になだれ込むように避難してこられました。
このような中、私は避難所の運営、生活支援物資の搬送、苦情対応に従事しました。特に苦情対応については、「いつ水が出るのか」「ゴミステーションに震災のゴミがあるが、その中に生ゴミがあって異臭がする。早く回収してほしい」など相談あるものの、私たちではそのことについて担当課につなぐ、または伝えることしかできず、しかもその回答も期待するものではありませんでした。地域団体等の役員から支援物資の依頼などの連絡はあっても、地域担当職員として地域に出向くことができず、来所された役員の方々から地域の状況を聞くのが精一杯であり、地域の被害状況等の確認は困難を極めました。
復興に向けての地域・行政の取り組み
今振り返ってみると、地震直後にやるべきことはたくさんあったように思います。熊本市が開催した復興座談会においても、行政の初動対応のまずさに対する厳しいご意見が出される一方で、地域住民からは「災害避難訓練をしていたが全く思い通りにはできなかった」など反省すべき意見も出ました。独自に今回の震災の振り返りや、防災訓練を行うなどの取り組みをされた地域もあったようです。私の担当する地域でもしばらくすると地域の会合などで、「震災の振り返りが必要」「他の地域の実情も参考にしたい」など前向きな意見が出されました。このような意見を受け、私は「行政も地域も振り返る必要がある」と感じていました。
そこで地域の役員の方々からの声をどうにかして具現化できないかと考え、2016年9月末に同じ地域の会議の場で、今回の震災を振り返り、課題を整理して今後の地域の防災について検討していくことを目的とした「地域防災検討会」の発足を提案しました。この提案には、地域の役員の方々から「まずは役所がきちんと今後の対策をしてからすべきではないのか」との厳しい意見も続出しました。
しかし、そのうち、地震直後に炊き出しを公民館で行った話になり、ある役員は「隣の町内で炊き出しをしていたとは知らなかった」など、当時のことを語られました。そのような意見が出てくると、「そういうことをもっと知りたい」「だから振り返りが必要」と前向きな意見が出始めました。私は皆さんの意見を聞いているうちに、もう地域の役員の方々から「やらない」という選択肢は消えているのではと感じました。地域が主体となり、自然と論議が起こり、結論に持っていく様子を見守っていました。
検討の結果、提案は受け入れられました。提案した私としては、提案を受け入れるか否かは地域が結論を出すことだと思っていましたので、十分な論議ができた上での結果で良かったと思いました。このような経験を経て、やはり何かを提案する際には、十分な議論をすることが大事だなあと感じました。
行政にはどちらかというと、スムーズに事が運ぶように、波風立てない方がよいと思われている傾向があるように感じますが、それは間違いだと思います。そもそも人それぞれ考え方が違うので、多少なりとも意見が対立するのは当たり前のことですから。今後もこのように、地域の方々が対話しながら検討を行うことができる場づくりを設けて、地域の防災について検討していきたいと思います。
職場の避難所が閉鎖になった6月からは、地域の動向を知ると同時に、行政として何ができるのかを考えるために、地域の現状把握に取りかかりました。
地域の代表者や中心的に活動している方々から地域の現状を聞いたり、ある地域では町内自治会長全員から話を聞きました。その中で例えば、自治会のことでは必ず出てくる後継者問題。一般的には後継者不足といわれていますが、果たしてそうなのでしょうか。自治会長や各種団体をまとめる長からも、後継者不足が喫緊の課題といわれます。本当にそうなのかと思って、自治会長に聞いて回ると「高齢者しかいないから、後継者不足」という話がある一方で、「いや、やりたい方はたくさんいるよ」という話もありました。
こういう全く違うことがあるからこそ、現状把握をする際には、立ち位置を変えて、様々な視点で観察する必要があります。今後もより現状把握の精度を高めるためにすべての地域団体から話を聞いていきたいと考えています。
これから地域担当としてやるべきこと
これまでの活動から「地域担当が一番に何をすべきか」を考えると、それは地域の課題を解決していくことだと思います。地域からの声や動きをいち早く察知し、どこに課題があるのかを把握し、その解決に向けてイメージし具現化のための提案をします。しかし、あくまで主役は地域住民です。地域に主体性を持たせるためにはどうすればよいのか、どうすれば共感できるのか。今後も地域に寄り添いながら何ができるかを考えるとともに、自分自身もまちづくりの知識や技術の向上に努めていきます。
自主学習グループ
私が熊本市役所内で自主活動グループとして取り組んでいる「つながるカフェ」、区役所で行う「ゆるカフェ」があります。多くの職員が被災し、また避難所運営や被災者への対応等で、「余裕はないのでは」と躊躇(ちゅうちょ)していましたが、震災から半年経って、ようやく活動を再開しました。
10月19日に実施した今回は、2人の副市長をゲストに迎え、災害対応カードゲーム「クロスロード」を行いました。熊本地震時の職員としての対応を振り返り、今後どのように防災対応を行っていくのかを考える機会となりました。これまで職員も大変な状況の中で業務に関わってきました。この勉強会が日常を取り戻すためのよい機会となればと思います。今後も継続して勉強会を開催していきます。
参考:災害対応カードゲーム教材「クロスロード」(内閣府ウェブサイト)
今このように考えることができるのも、人材マネジメント部会とそこに携わる皆様との出会いがあったからこそだと思います。より多くの自治体の職員が人材マネジメント部会を経験され、地域に出て力を発揮し地域の役に立つ人になって、地域に笑顔を届けられるように願っています。
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- ■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
- 安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。