【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】
第23回 フォーエバー・チャレンジ! (2016/10/3 福島県伊達市 健康福祉部国保年金課 八巻 真一)
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。第23回は福島県伊達市 健康福祉部国保年金課の八巻真一さんによる「フォーエバー・チャレンジ!」をお届けします。
◇ ◇
本稿では私を含む25人のフェローズ(※1)が今年度の「施策提案プロジェクトチーム」に取り組んだ軌跡、今後の展開などについて書きたいと思います。
なお、私・八巻、吉田友和、齋藤智子の3人が参加(参戦)した2015年度人材マネジメント部会での研究活動、市組織での取り組みなどについては共同論文をご覧ください。
※1 伊達市におけるマネ友の愛称。マネ友とは人材マネジメント部会修了生の通称名。
1期生が提唱した「施策提案プロジェクトチーム」事業
伊達市には「施策提案プロジェクトチーム(PT)」という人材育成プログラムがあります。施策提案PTとは2008年度 人材マネジメント部会修了生(伊達市1期生)が提唱した事業であり、2009年度から開始し2016年度で8年目となる長期事業です。当初は、合併間もないこともあって施策の検討・提案を通じて面識の少ない旧町職員間のコミュニケーションを深めることが狙いの一つでした。
PTの現状と現行制度を紹介すると、人事課としては若手職員の基礎研修という位置付けであり、活動期間は6月から11月の約半年間で実施しています。
参加方法は「立候補」、各部長が推薦する「部推薦枠」、そして今年度から好きなメンバーで参加する「チーム枠」が追加されました。約半年のチーム活動を経て市長、副市長、教育長、各部長ら市幹部へ施策を提案します。今年度は参加者26人を6~7人ずつの4チームに編成しました。
実施主体はあくまで人事課ですが、慣例的に前年度部会修了生は必ず参加し、事業の企画・運営にも関わっています。PTは部会修了生が提唱した事業ですが、PTのあり方については立ち位置により様々な考えがあり、歴代のフェローズがぶち当たってきた壁でした。
そういうわけで、2015年度の部会修了生である私たちは、昨年の早い段階から2016年度のPTについて話し合っていました。
PTの姿はどうあるべきか
話し合いの中で、施策提案PTの意義・狙いは次の通りだと仮定しました。これは私たちが思い描く「あるべきPTの姿」であるといえます。
- ▼私たちが思い描いた「あるべきPTの姿」
- (1)伊達市のありたい姿(夢・理想・未来)とそれを実現化するための策についてチーム内でとことん考える、話し合う。
- (2)話し合いの過程で、相手に自分の話を受け入れてもらうこと、相手の思いを受け止めること、つまり対話(ダイアログ)の必要性や有効性を実感できる。
- (3)質の高い対話の中から、市民・市職員の誰もが共感できる施策が生まれる。
- (4)PT活動を契機として、参加者自身が所属する組織や地域に「対話の風」が吹く。
また、私たちの分析では、「少人数の機動性を活かして部署の枠を超えた自主的活動を促すことができる」「他チームの動向に左右されずチーム独自の施策を考えることができる」ことがメリットとしてありますが、一方で「参加者のほとんどが部推薦のため、上司命令、いわゆる『やらされ感』での参加者が大多数と思われること」「PTの狙いやダイアログの有効性などについて参加者全員で話し合う、共有する機会がない」「チーム対抗のような過度な競争心や焦りが生まれ、メンバー間の思いの共有よりも提案施策の検討の方が優先される」「チーム間で交流する機会がほとんどないため、異なる意見・発想(多様性)を受け入れ自チームの施策に活かすことが困難」というデメリットがあると考えました。
私たちはこうした現状と課題を踏まえ「あるべきPT」に近づけるためのコンセプトを次のように考えました。
- PT参加者の考え方を変える
- 評価者(市幹部層)の考え方を変える
- 管理者層(課長、係長等)の考え方を変える
「八巻ひとりの思いから考え出されたものではないか?」
2016年5月中旬、私たちは人事課職員研修担当係長とPTの進め方について話し合いをし、PTの現状と課題をもとに今年度の実施事業案を提案しました。
提案内容を聞いた人事係長からは「独断性」「継続性」を鋭く指摘されました。つまり、「提案は八巻ひとりの思いから考え出されたものではないか?」「来年以降担当する修了生はこれと同じレベルのことをできるのか?」というものでした。一瞬、場が凍りつき言葉が出なかったことを覚えています。
「この1年間部会で学んだことは何だったのか?」「対話だ、多様性だと言いながら結局は自分の独りよがりな考えを押し付けているだけ?」「何もかもが終わった……」
すべてをあきらめかけていた時、隣の齋藤智子が言葉を発しました。
「これらの提案は私たち3人でこれまで話し合ってきたことです。」
私は思い出しました。
現状のPTをより良いものにするためにこれまで私たち3人で何度も話し合ってきたではないか!自分はひとりではない!1年間の活動は無駄ではなかったのだと実感しました。
斎藤のその言葉のあと、状況は一変しました。係長は私たちの思いを感じとってくれたのか、私たちの提案に概ね賛同してくれました。今となって考えれば、私たち3人での思いが共有されているか試していたのだと思います。
こうして、人事課の理解と協力もあり事業開始8年目にして大幅なPTのリニューアルを行うことができました。
そうして導入されたのが、「キックオフ・カンファレンス」と「全体研究会」です。
◇今年度の実施事業と内容
実施日(2016年) | 名称 | テーマ等 |
---|---|---|
6月1日 | キックオフ・カンファレンス | ・PTのありたい姿とは ・ダイアログの必要性 等 |
6月16日 | 全体研究会(第1回) | ・全体研究会のねらい ・やらされ感とは |
6月28日 | 全体研究会(第2回) | ・価値前提、事実前提とは ・価値前提で考えるようになるには |
7月22日 | 全体研究会(第3回) | ・市民憲章を「見える化」する ・ありたい姿から考える |
自らが考えるためのキックオフ・カンファレンス
2015年までは任命式後に実施していた「ダイアログ研修」をリニューアルすることにしました。今年度の内容を考える過程で私たち3人が感じたことは、昨年までのダイアログ研修は、その内容自体は正しいのだが、一方通行な講義形式のため、参加者自らが考える、気づくという効果は少ないのではないかというものでした。
そこで研修名を「キックオフ・カンファレンス」に改称し、約半年間続く活動のスタートダッシュであることを参加者に意識付けようとしました。
はじめに、参加者一人ひとりから「私は〇〇を〇〇にするためにPTに参加した」と宣言(コミットメント)してもらいました。
進め方は、講義形式による教え込みではなく「参加者全員で考える」、そして私たち運営サイドは参加者が考えるようになるためのヒントを与える、つまり種をまくようなものとしました。具体的には、PT制度そのもの(あり方)をテーマとしてダイアログしてもらいました。そして、ひと通りのワークを終えた後にダイアログの意味、有効性などを種明かし的に説明しました。
昨年と比べると考える時間は増えたため、参加者の負担は増えました。特にコミットメントには抵抗感があったようです。また、ここ数年の内容とは違うため(前例踏襲をしなかったため)運営サイドである私たち3人の負担も増えました。
しかし、部推薦枠、いわゆるやらされ感での参加者に対してはこれから始まるPT活動を「人ごと」ではなく「自分ごと」として捉え、主体的な活動を促すきっかけになりました。
参加者全員が参集し学習する全体研究会
キックオフ・カンファレンス後は各チーム活動が基本ですが、それと並行して参加者全員が参集し学習する場として、新たに全体研究会を3回実施しました。第1回では最初に全体研究会のねらい、進め方などを説明しました。
まず大前提として、全体研究会の目的を説明しました。
- 様々な考えを持つメンバーとの話し合いを通して、チーム活動のヒントとなる気づきを得る。
- ダイアログ、ファシリテーション、プレゼンテーションを実践する。
- 教わるのではなく、自ら考え学習する。研究する。
そして、参加者に対して次のことを明言しました。
- 全体研究会では・・・
- ダイアログ、ファシリテーションの技術を教える。
- かっこいいプレゼンテーションのやり方を教える。
- 三役、部長たちが納得するような政策立案のスキームを教える。
- ⇒ということはしない!!
これは、答え合わせをして終わりといういわゆる「研修」ではなく、正解のない課題に対して自分の頭で考え自分なりの答えを探すという「研究」の場にしたいという思いがあってのことです。
研究会の進め方は、キックオフ・カンファレンスと違いはありません。「ありたい姿から考える」「やらされ感」「価値前提」など、いわゆる「部会用語」をいきなりは使用せず、それらを何とな~く感じ取れるようなテーマでダイアログをした後に種明かしをすることで、参加者自ら気づきを得ることを促すような流れとしました。
また、研究会には毎回先輩フェローズたちがオブザーバー(※2)としてスポット参加し、参加者にアドバイスをしてもらいました。
正直、このような進め方が人事課と参加者に受け入れてもらえるか、始まる前はものすごく不安でした。特に、施策を提案するプロジェクトといっておきながら、施策検討に直接役立つことは教えないという点です。
実際、このプログラムを見た人事課の担当者はかなり困惑していましたが、後日「係長を含めた係員3人で読み進めたら全体研究会の狙いや意図が分かってきた」といってもらえました。
私たちの思いが届いたと実感できた瞬間でした。
※2 第1回研究会には2016年度の人マネ部会参加者もオブザーバーとして参加
賛否両論もフェローズを巻き込むことに成功
参加者からいただいた意見は賛否両論がありました。「困惑している、同意できない」「ダイアログの進め方が分かった」「他チームの考えが参考になった」というものです。
運営サイドとして参加者の意見を真摯に受け止め、後半の内容や来年度以降のPTに活かしていく必要があります。
そして、参加者からの意見の中に、「先輩フェローズからのアドバイスが良かった」というものがありました。先輩たちの経験に裏打ちされたアドバイスにより理解が深まったものと思われます。
実は、昨年まではフェローズとしてPTの運営に関わるというシステムはありませんでしたが、今年は人事課の理解と協力もあり公式にPTに関わることができました。
また、当日オブザーバー参加ができなくとも、私たちの呼びかけ(ヘルプ)に応じて、研究会の進め方についてアドバイスしてくれました。
PT参加者の考え方を変える目的で実施した全体研究会ではありますが、なにより結果として先輩フェローズたちを巻き込むことに成功できたと言えます。
「考え方」を身につけるための気づきを得る場
キックオフ・カンファレンスと全体研究会の実施は、参加者がPT活動の意義、ダイアログの必要性と有効性についてある程度の理解・納得を得ることができた点では一定の効果があったと言えます。
しかし、あくまで参加者の意識、考え方を少しだけ変えたにすぎません。
今後は参加者のみならず評価者と管理者層をターゲットとした仕掛けが必要であると感じています。
なぜなら、提案施策に込められた「思い」を評価者側が受け止めることができなければ、評価者と提案者の思いは乖離(かいり)してしまうからです。
ある意味仕方がないことですが、評価者はPT活動のプロセスに関わっているわけではありませんので、発表会で提示された成果品でしか評価できません。
人材マネジメント部会では、ありたい姿から考えること、そしてありたい姿を考え、話し合い、チーム内で共有することが重要であるとしています。
これは何も部会特有の考え方ではなく、自治体職員として必要な考え方です。
ありたい姿を市役所と市民で話し合う、共有することをせずに事業を実施しても、市民の共感は得られないからです。
私は、PTとはこのような「考え方」を身につけるための気づきを得る場であるべきだと考えます。
従って、評価者には成果品(提案施策)の完成度だけでなく、提案に至った経緯、ありたい姿が共感できるものか、などの視点で評価してもらいたいと思っています。
2016年10月3日に、施策提案PTの中間発表会が開催されます。
そして、その前段には部会関係者を講師として、部長・課長を対象とした研修が行われます。
事業の実現にあたっては色々とありましたが、この事業が後半戦第1弾となります。
最後に
本稿執筆の依頼を受けた際に私は考えました。私ひとりではなく伊達市フェローズとして取り組んでいこうと。
というわけで、伊達市フェローズから全国のマネ友、自治体関係者、政治山愛読者の皆様に対する「コミットメント」です。
- 本気で動けば、何だって変えられる。(鈴木健光・2010年)
- たとえ小さな一歩でも、勇気を持ってこれからも踏み出し続けます!(宮口剛・2012年)
- 「できない理由は探さない」2015年1月30日、9期最後の研究会でのコミットメント。当時の気持ちを今でも大切にしています。(斎藤一司・2014年)
- 「愚者の自覚」を持ち、日々、「気づき」自分が変わり、周りを巻き込む。(安田和浩・2016年)
- 現実を恐れずに、常に一歩前へ(長谷川徳也・2016年)
- ※カッコ内は氏名と部会参加年度
ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために!
伊達市フェローズ25人の挑戦はこれからも続いていきます!
One for All,All for One!Forever Challenge!
- ■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
- 安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。