【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】
第5回 組織成長のための「一点突破・全面展開」実践 (2015/3/26 福島県相馬市建設部 建築課 課長補佐兼住宅管理係長 伊東充幸)
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的にリーダー育成する、自治体職員のスキルアップ研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。第5回は福島県相馬市建設部 建築課 課長補佐兼住宅管理係長の伊東充幸さんによる「組織成長のための『一点突破・全面展開』実践」をお届けします。
私と部会の出会い、同じ想いの仲間
相馬市は早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(以下部会という)に参加して2014年度で6期目となり、私は今年度6期生のベーシック参加者として部会に参加しました。
実は、私がこの部会に関わり始めたのは7年前にさかのぼります。当時私は総務課職員係長の職にあり、「人材育成基本方針の見直しと改訂」「人材育成型評価制度の構築と試行」などに取り組み、たった一人で組織変革活動の真っただ中であり、一人で組織を変えることの壁の高さに、頭と心を悩ませていました。
そんな折、「自分たちの組織の現実の問題を洗い出し、それを解決するための具体的課題解決行動を実践する研究会がある」……この部会の存在を知り、組織変革の可能性を見出し、近い将来、同じ想いの仲間と組織変革に取り組めると夢見ました。そして2008年度に1期生3人を派遣して以来、派遣する立場として部会とともに相馬市役所の中で歩んでまいりました。
相馬市では、部会経験者や彼らの考え方に賛同する職員でつくる、相馬市人材マネジメント研究集団「チーム絆」という、「つながり」「存在」があります。現在は今年度参加の私たち3人を含め19人のメンバーで構成されています。
「チーム絆」は2010年度末に部会3期目の参加者によって結成されました。職場にいろいろな良い影響を与え始め、組織変革の手ごたえを感じたまさにその時、あの東日本大震災に見舞われました。その後、相馬市職員は復旧復興業務に忙殺され、職員の意識改革や組織変革に取り組む時間を失いました。
2011年度はさすがに部会への派遣を見送りましたが、復旧復興業務の多忙な中にあっても、その翌2012年度に4期生を派遣できたことは、職員の意識改革や組織変革に取り組む姿勢と、「チーム絆」への想いが消えることなく続いていたこと、そして組織として部会への参加意義をきちんと認識してもらえていたからだと、私自身振り返ります。
今年度、私は相馬市役所の中にある「チーム絆」という高い意識を持ち合う仲間、派遣当時に夢見た仲間たちと、「どうしたら職員意識と組織の改革に一体となって取り組めるのか」、その答えを見つけるために、これまでの派遣側の立場から、実際に部会に参加する立場になる決心をしました。
組織変革は個人(少数)の意見ではなく一同(多数)の意見で取り組む
今年度部会に参加した3人は、組織の現状を把握した結果、人材としてはある一定の水準に達しているものの、「組織としてはまだまだ成長できる」と判断し、組織がもっと効率的かつ横断的に機能するためには、各職層の役割や、職層にあった行動指針が明確化される必要があると考えました。なぜなら現在の相馬市役所には、明確な職層の役割や行動指針が定義されていないからです。それらを各職層の職員全員でつくり上げようと企画しました。
外部のコンサルタントがつくったものや、他市町村で採用されているものをまねたものでは相馬市役所の組織には当てはまらないと考えました。職員が「他人事」ではなく「自分事」ととらえる度合いを高くし、納得感をもって実践できるようにするためには、職員自らつくり上げることが必要であると思い至りました。
さらにそれらをつくるためには、職員同士が何度も話し合い、自分の意見やほかの職員の意見を交錯させる「対話」が絶対的に必要です。対話することでさまざまな気づきが得られるとともに、対話の良さや必要性を感じることで、相馬市役所の中に「対話する文化」を定着させたいと思い至りました。
外部のコンサルタントに委託すれば単年度でつくれるのかもしれませんが、私たちの考えた手法でつくるとなれば短い期間でつくり上げることはできません。3年間かけてつくり上げ、同時に対話文化の定着までをもくろむ“欲張り”なプランを打ち出しました。
しかし、これだけ壮大なプランになると、私たち3人だけで成し遂げるのは難しく、特に組織への影響や職員への負担が大きくなることから、組織に認可された取り組みにしなければなりません。
そこで、組織に認可してもらえるように知恵を絞りました。これまでの経験から、組織において個人(少数)の意見はつぶされやすいが、一同(多数)の意見になるとつぶしにくくなることを知っています。私たち3人は同志である「チーム絆」を巻き込み、個人(少数)の提案ではなく、同志一同(多数)の提案とするために、組織の中の同志に働きかけ、賛同してもらうことに骨を砕きました。
3カ年計画という壮大なプランを、「チーム絆」に理解し賛同してもらうに至るまでには多くの時間がかかりましたが、メリットやデメリットを出し合い、取り組むことの意義や熱意も伝えながら対話を大事にしていきました。その甲斐があり、「チーム絆」の賛同を得ることに成功し、同志一同の提案とすることができたのです。
一点突破・全面展開の実践は組織としての成長の一歩
組織変革には、真正面から対面すべき「本丸」があります。組織としての取り組みにするかどうかを判断する部門「総務課・総務部長・副市長・市長」組織の「本丸」を一点突破すべく、この「本丸」に対し、組織の現状分析結果と問題と課題を明確にし、なぜ取り組まなければならないのかの理由と提案に対する熱意を、時間を惜しまず丁寧に説明しました。同志(チーム絆)一同の提案とすることで、組織の理解と取り組みの認可をいただきました。
プランを実践する段階において、チーム絆から提案のあった取り組みの必要性を組織として認識し、組織として取り組むことを「本丸」が職員に伝えた上で、実践者を「チーム絆」が担うスタイルとしたことは、職員側にもクッション作用が働き、本丸が直接取り組むことよりも、職員側も受け入れやすさがあったのだと想像しています。
部長職層も課長職層も、さらに課長補佐職層も係長職層も同時に全面展開していくことは、組織にとっても主体的に運営する側にとっても非常に骨の折れることではありますが、組織変革の効果を発揮するためには有効な手段だと感じています。この「一点突破・全面展開」が始まった時に、組織は大きく成長に向け一歩動き出すのではないかと信じています。
相馬市役所では、これまでも部会に参加したメンバーが組織変革のためのさまざまな取り組みをしていたものの、個別の活動に終始し、一過性の効果や変化しかつくってこられなかったと振り返ります。しかし、これらの活動が下地となり、この度、同志一同の活動に発展することができたと思います。
相馬市役所と言う名の機関車の車輪が動き出した
今年度の部会に参加した私たち3人の提案は、組織内の同志を巻き込み、共に取り組もうと団結したことから「本丸」に認可され、各職層全体への展開に発展できました。今年度開催した対話型研修のアンケートでも、これまでなかった取り組みに、多くの参加者が新鮮さを感じ、職層全員で役割や行動指針をつくることの意義を理解してくれており、向こう3カ年の計画のレールが敷かれ、相馬市役所という名の機関車の車輪が動き出した実感があります。
部会を振り返れば、周囲を巻き込み、「本丸」を攻め落とし、全面展開していくという教えを実践できた気がしています。
- ■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
- 安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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