第9回マニフェスト大賞
官民共有のマニフェストで着実な復興―立谷秀清 相馬市長 (2014/12/12 福島県相馬市長 立谷秀清)
地方自治体の首長・議会の先進的な取り組みや、地域主権を支える市民の活動を表彰する「第9回マニフェスト大賞」のグランプリと各最優秀賞の発表が11月14日、東京・港区の六本木アカデミーヒルズで行われ、8部門17作品が表彰されました。政治山では受賞された皆様から、取り組みの概要や経緯、今後の展望などを寄稿いただきます。今回はマニフェスト大賞(首長部門)でグランプリを受賞された福島県相馬市長の立谷秀清氏による「2014マニフェスト大賞グランプリ受賞に寄せて」をご紹介します。
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11月14日。今年度のマニフェスト大賞グランプリの発表と表彰式があり、北川正恭審査委員長からグランプリを戴いてきました。以下、御礼と報告です。
マニフェストとは、もともと政治家が選挙の際に出す公約を有権者との「契約書」として提示し、後々その実現状態を検証・評価されるというものです。以前は公約というと、例えば、「教育の充実を目指します」とか「農業振興のために働きます」などと、後から検証・評価しようもない美辞麗句ばかりでした。
そこで、公約の具体性や、当選後の検証・評価の為に、マニフェストに条件を付けます。
(A)後々の検証のため、できる限り数値化する(たとえば待機児童をゼロにするとか)
(B)数値化が困難でも検証大会で評価の対象になるように(例えば学力向上が実を結んだかどうか)
以上のように、客観的な検証・評価の対象となり得ること、さらに再検討・実行を加えることによりPDCAサイクルによって改善とさらなる効果を生み出すことのできる政策をマニフェストと定義します。
2004年あたりからこの運動が本格化し、政党の国政選挙での政権公約をマニフェストと呼ぶようになりました。地方の首長選挙の場合はローカルマニフェストと言います。「検証可能な」という点で、具体性を有し、かつ数値目標を設定するように求められるようになりました。
今ではマニフェスト型選挙が一般的になりましたが、選挙の投票行動は結果を検証されるずっと以前に行われるので、誇大な公約に有権者は惑わされることもあります。2009年の政権交代のマニフェストがそうでした。子ども手当、高速無料化など、後になってみれば財源的に実現困難だった政策が有権者の判断材料となってしまったのです。
しかしながら、マニフェスト選挙という考え方により、選挙公約を「福祉に力を入れます」「農業振興に努力します」などど、アバウトに訴えるやり方から、検証可能な数値目標を明示して公約とする手法が一般的に普及したため、立候補する政治家の行政能力・政策立案能力が問われることになりました。
私はマニフェスト選挙という考え方は間違っていないと思っています。しかし有権者にも、マニフェストとして政策を提示する政治家やその政策が、果たして実行力や実現可能性を伴っているかどうかを判断する力が必要とされるようになりました。
今年度のマニフェスト大賞は、市民・議会・首長部門合わせて2,200件の応募がありました。市民・議会のマニフェストというのは、議員の政策やNPOなど市民活動も含めての活動方針とその実態が選考対象になりました。
相馬市の場合、被災当日の深夜に具体的な行動方針を策定して、災害対策本部でスタッフ一同が目的意識を共有しながら対策に当たったことや、2011年6月策定以後進めてきた復興計画を相馬市チームとして着実に実行している点など、選挙公約とは趣旨が異なるものの、未曾有の危機に直面しながらも冷静に具体的な政策を示し、スタッフ一同が共通の目的意識をもって復興に当たってきたことが評価されました。
被災者の人生とその生活の場である郷土を再建するために、直後の行動方針や中長期的な復興計画という「マニフェスト」として職員や市民に提示したのは市長ですが、これを不眠不休の疲れと闘いながら着実に実行していったのは市役所の職員たちであり、苦しさに耐えながら協力したのは消防団員をはじめとする市民です。
市内の2つの病院や老人施設の職員たちも立派でした。いつ悪化するとも分からない原発事故の心配と闘いながら病人や要介護老人を守りました。被災者も避難所、仮設住宅の厳しい生活の中で整然とコミュニティを維持してくれました。今日まで津波被災者のなかから孤独死・自殺者を1人も出さずに済んでいる要因は、人々同士の絆であり、市役所との意思疎通をスムーズに取り得る城下町・相馬の文化だと思っています。
故郷の再興のために自分たちにできることを団結してやろうと立ち上がった、「東部再起の会」のメンバーたちは、高台による災害公営住宅建設のための土地買収に協力してくれました。親戚・友人・知人の伝手を頼り、多くの仲間とともにお願いに行ってくれました。まさに市民との協働による復興加速でした。特筆に値すると思います。
その他、被災直後の友好自治体からの水・食料などの支援。復興事業に当たっては技術者の派遣をいただきました。自治体同士の日ごろの付き合いが、いかに大事かということも学ばせていただきました。またルイヴィトンや日本香堂をはじめとする諸企業から多額の援助を頂きました。日本サッカー協会のように、公認サッカーコートを4面も現物で戴くという「大技」で、交流人口拡大に大きな力になっていただいたところもあります。
グランプリという栄誉に輝いたのは、以上のように復興計画が着実に実行されてきた結果ですが、能力をフルに出して頑張った市職員をはじめ、市民や多くの関係者のお陰です。心から感謝の意を表したいと思います。
(相馬市長 立谷秀清メールマガジン 2014/11/21号 No.288より)
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