第17回 みんなで選挙を変えよう!!~早大マニ研 選挙事務改革フォーラム開催~  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第17回 みんなで選挙を変えよう!!~早大マニ研 選挙事務改革フォーラム開催~ (2014/7/10 早大マニフェスト研究所)

関連ワード : ICT 山形 愛媛 松山市 相馬市 福島 遊佐町 

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第17回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。掲載は、毎月第2木曜日。月イチ連載です。今回は、「みんなで選挙を変えよう!!~早大マニ研 選挙事務改革フォーラム開催~」をお届けします。

「コンマ1秒の改革」から始まった「選挙3事務改革」

 早稲田大学マニフェスト研究所では、2006年から「コンマ1秒の改革」をスローガンに、選挙の開票事務の迅速化の取り組みを提唱してきました。その後、開票事務だけではなく、投票事務、広報・啓発事務と合わせて「選挙3事務改革」を、全国の選挙管理委員会(以下 選管)に呼び掛けています。「選挙の開票には時間がかかる」「正確な開票のためにはスピードは後回し」「うちの自治体の開票のやり方が一番正しい」こういったドミナント・ロジック(その場を支配する空気、思い込み)が、全国の選管にはありました。

 そうした中、改革に取り組んだ小諸市(長野県)では、17分で開票作業を終える日本記録を打ち立てました(2010年長野県知事選挙)。従来の選管の仕事のやり方は「管理型」で、選挙を公平公正に執行することにのみ、意識が集中されていました。しかし、これからは「目標達成型」で、選挙を公正に執行するのは大前提、それ以外にも選挙を効率的に執行する、有権者の政治意識を高めるといった取り組みを積極的に実践していくことが期待されています。つまり、地域の民主主義を創造する重要な役割が、選管にはあります。

 2015年4月に迫った統一地方選挙を見据えて2014年6月20日、早稲田大学大隈記念講堂小講堂で、早稲田大学マニフェスト研究所主催による「みんなで選挙を変えよう 選挙事務改革フォーラム」が開催されました。総務省自治行政局選挙部によるネット選挙運動解禁をめぐる動きの講演のほか、選挙3事務に関連する全国の先進事例、ベストプラクティスの報告がありましたので、今回はその事例をいくつか紹介するとともに、選管のあるべき姿を考えたいと思います。 ⇒ 早稲田大学マニフェスト研究所:選挙事務改革調査

北川正恭 早稲田大学マニフェスト研究所所長の基調講演

北川正恭 早稲田大学マニフェスト研究所所長の基調講演

相馬市 疑問票判定にipadを活用

 選挙の開票事務迅速化のネックの1つに挙げられるのが、疑問票の判定です。特に参院選の比例代表の場合、投票は政党名でも個人名でも投票できます。2013年の参院選では、12政党、162人の候補者がおり、疑問票以前に、そもそも投票用紙に書いてある名前が候補者なのか分からないのが現状です。事前に覚えて頭に入れることはほぼ不可能なため、これまでは、総務省から送付される候補者氏名の五十音別一覧表を印刷し準備、不明の票が出るたびに、一覧表を確認する作業を全国の自治体では行っていました。

 しかし、小諸市と並ぶ開票事務改革のトップランナー相馬市(福島県)では、ICT(information communication technology:情報通信技術)を活用してこの問題を解決することを検討し、2013年の参院選から、タブレット型端末ipadを開票事務に導入することにしました。設置場所をとらない、簡単に使用できる、文字入力が少なくてすむ、マニュアルなどがなくても使えるなど、タブレットが持つ特徴が十分に活かされます。

 実際には、事前に簡易なデータベースソフトを作り、審査判定係にipadを2台配置しました。初期画面には、(1)姓(2)名(3)政党(それぞれ五十音)(4)一覧、のボタンがあります。例えば、姓で検索する画面では、姓の1文字目のボタンを押すと、候補者を一覧で表示、按分がある人はその旨も表示されます。該当する候補者が多い場合には、画面をスクロールして見ることができます。使用した担当者は、一覧表を見て候補者を探すよりは、断然ラクという感想を話していると言います。

相馬市の疑問票判定へのipad導入

相馬市の疑問票判定へのipad導入

相馬市 GISを活用したポスター掲示場の配置の見直し

 相馬市では、開票事務改革で培った業務改善力を横展開させ、従来、課税のための固定資産の管理などに利用していたGIS(geographic information system:地理情報システム)を、選挙事務、ポスター掲示場の見直しに活用しています。

 2007年の参院選に際して、GIS上の地図データにポスター掲示場をプロットし、半径200メートルの円で囲み、重複している場所を可視化しました。このデータを基に、近接箇所、有権者が少ない地区、新興住宅地などを勘案し、従前191カ所だったポスター掲示場を、見直し後151カ所に配置の見直しを行いました(削減45、新設5)。これにより利便性アップと、約40万円の経費削減効果を実現しました。

 また、東日本大震災で市沿岸部が壊滅的な被害を受けた相馬市では、選挙関係では、投票所が流出したり、災害危険区域の設定により人が居住しないエリアが発生したり、逆に仮設住宅など人が新しく住むエリアができました。こうした震災の影響に対しても、2007年の経験を活かしてGISで検討を実施し、被災地域を中心にポスター掲示場の配置見直しを行いました。

相馬市ポスター掲示場のGIS地図データ

相馬市ポスター掲示場のGIS地図データ

松山市 大学構内に期日前投票所を設置

 松山市(愛媛県)では、他の年代に比べて依然低いものの、2013年の参議院議員選挙(+2.72ポイント)、2014年の市議会議員選挙(+0.63ポイント)と、2選挙連続で20代前半の投票率が上昇しました。

 この上昇の要因の1つが、大学キャンパス内への期日前投票所の設置です。設置までには、学生からのアンケートによるニーズ調査、学生以外にも大学周辺には多数の有権者が居住していることを確認しました。また、これまでスーパーや百貨店で実施してきた期日前投票所の運営ノウハウを活用することとし、松山大学に期日前投票所開設を依頼、参院選から実施することが決まりました。

 大学キャンパス内で期日前投票所を開設するにあたり、一番ネックになったのが、どうやって名簿対照するかでした。投票所内に専用回線を引くことができなかったため、投票所にはパソコンと携帯電話を用意、選管本部に派遣社員を待機させ、携帯電話で二重投票の確認と、投票情報の更新を行いました。通常より投票までの時間が30秒ほど余計にかかり、派遣社員の人件費が発生しましたが、参院選で652人の有権者が大学内の期日前投票所で投票し、うち4割が20代の投票者でした。また、松山市選管では2014年の市議選から、松山大学の学生と連携、学生を「選挙コンシェルジュ」として認定し、協働して大学の期日前投票所の環境づくりや、啓発活動の実施を行っています。

若者の投票率アップに成功した松山市選管

若者の投票率アップに成功した松山市選管

遊佐町 少年町長・少年議会の取り組み

 選挙啓発は、選挙時啓発と常時啓発の2種類がありますが、常時啓発の取り組みとして報告されたのが、遊佐町(山形県)の少年町長・少年議会の取り組みです。遊佐町では、2003年から教育委員会が中心になり、少年町長・少年議会事業を実施しています。きっかけは、人口減少、特に若者の減少が深刻であったことで、若者自身に地域社会の一員であることを自覚してもらい、その若者たちの活躍の場所を用意し、若者の力・意見を取り入れたまちづくりを推進したいという思いからでした。

 実際には、町内在住・在学の中学生、高校生を有権者として選挙が行われ、少年町長1人、少年議員10人を選出します。その後、6月~12月まで、3回の少年議会が開催され、所信表明、一般質問、政策提言、議会報告が行われるほか、議会外でもさまざまな活動を経験します。

 遊佐町の少年議会の特徴の1つが、独自の政策予算を持つことです(2014年度45万円)。つまり、少年議会での議論の結果、提案された政策提言が、町の政策に反映されることになります。これまで、ゆるキャラ「米(べえ)~ちゃん」が誕生したり、「芋煮コロッケ」などの特産品開発などが政策として実現しています。

遊佐町の少年議会の報告

遊佐町の少年議会の報告

みんなで選挙を変えよう!!

 選挙事務改革フォーラムでは、以上のように、全国の選管の先進事例、ベストプラクティスが紹介されました。すべてに共通するのは、「選挙とはこんなもんだ」といったドミナント・ロジックを打ち破り、選管のあるべき姿に向かって、目標達成型の組織への意識変革に取り組んでいるということです。選挙管理員会が、「民主主義向上委員会」に名前を変える。それぐらいのアグレッシブな発想が必要です。来年の統一選に向かって、選管が中心となり、政治家、そしてわれわれ有権者の間に、「みんなで選挙を変えよう!!」そうした機運が高まることを、期待するとともに、私も頑張りたいと思います。

閉会のシュプレヒコール「みんなで選挙を変えよう!!」

閉会のシュプレヒコール「みんなで選挙を変えよう!!」

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
早大マニフェスト研究所 連載記事一覧
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第15回 職員の意識変革の第一歩として、職員自主勉強グループの立ち上げを!! ~佐賀県庁職員 円城寺雄介さんの活動から~
第14回 住民との距離を近づける「議会報告会」のあり方 ~福岡県志免町「まちづくり志民大学」による「議員と語ろう!ワールドカフェ」の取り組みから~
関連リンク
選挙事務改革調査[2014.06.24]
早稲田大学マニフェスト研究所ホームページ
Twitterアカウント(@wmaniken)
第8回マニフェスト大賞 政治山特設ページ
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