ALSなど難病患者の意思伝達を考える―コミュニケーション支援体制とは (2017/2/7 日本財団)
日本ALS協会、東京でシンポジウム開催
地域の実例を通して体制構築考える
筋萎縮性側索硬化症(ALS)など神経系難病患者のコミュニケーション支援体制の構築を目指して一般社団法人日本ALS協会(本部・東京、岡部宏生会長)は1月29日、東京・丸の内で、シンポジウムを開きました。全国から集まったシンポジストが各地域の実例や課題を順次発表し、コミュニケーション支援の輪を広げるための体制をどのように築いていくか、今の課題は何か、来場者・インターネット参加者計約400人が一緒に考えました。可能な限り最良の意思伝達方法と手段の提供を目指す日本財団助成事業の一環です。
日本ALS協会によると、ALSは全身の運動神経が侵されて筋肉が萎縮していく進行性の神経難病です。一般に60歳代を中心に1~2人の割合で発症し、日本には9,000人を超える患者がいます。症状が進行すると、手や足をはじめ身体の自由がきかなくなり、話すことも食べることも、呼吸することさえも困難になってきます。この病気は原因が不明で、有効な治療法はなく、国の難病に指定されています。しかし医療や介護、コミュニケーション機器などの進歩により、多様な支援が可能になってきています。国際的にもさまざまな治療研究が行われており、一日も早い原因究明と治療法の確立が待たれます。
同協会は「ALSと共に闘い、歩む」ことを趣旨とした非営利団体として1986年に設立。2012年に一般社団法人となり、16年に設立30周年を迎えました。16年現在の会員数は約5,000人、全国に41の支部を組織しています。会員は患者・家族・遺族が中心ですが、医療専門職、介護関係者、行政職員、研究者、一般市民も数多く加入しています。会員は、ALS患者が社会的に埋没・人間的に孤立することなく、共に暮らせる社会を目指して、各方面で活躍しています。
今回の催しは「難病コミュニケーションシンポジウム in 東京」と題して、JR山手線有楽町駅そばの東京国際フォーラムで開催しました。全国から多くの参加申し込みがあり、当初準備していた会場に加え、サテライト会場も用意しましたが、それでも、たくさんの人をお断りする事情も生じたそうです。当日は本会場の模様を映像と音声でサテライト会場に伝えました。参加者は本会場とサテライト会場合わせて約300人、インターネットによる参加者も約100人に上りました。
日本財団は2014年度から、日本ALS協会主催の「ALSなどにおけるコミュニケーション支援体制構築事業」に継続助成してきました。シンポジウムの冒頭、司会者から「この事業は日本財団の助成を受けて3年計画で進めてきました。今回の東京でのシンポジウム開催は、その総まとめになります」と紹介がありました。
日本ALS協会の平岡久仁子事務局長・常務理事が最初に「ALS協会は本年度30周年を迎えました。かつてはコミュニケーションができないということで絶望の淵に沈んだ患者さんがたくさんいらっしゃったと思います。さまざまな当事者の努力、家族の努力、そして支援者の方々の技術の向上によって、コミュニケーション支援がここまで発展してきたことに隔世の感があります。今日総括の場を迎えたことに、あらためて感動を覚えます」と開会のあいさつをしました。続いて橋本佳代子コミュニケーション支援委員が支援体制構築事業の概要を説明しました。
この後、シンポジストが順次、自分たちの地域の実例を伝えながら意見を発表し、これを受けて来場者からの質問を交え、ディスカッションが行われました。発表の題名と発表者は次の通りです。
- アイケアほっかいどうと支部の連携によるコミュニケーション支援の実際
- アイケアほっかいどう 佐藤美由紀さん
日本ALS協会理事北海道支部長 深瀬和文さん - 行政管轄によるコミュニケーション支援と見えてきた課題
- 仙台市障害者総合支援センター 後藤美枝さん
- 山梨のコミュニケーション支援の形について
- 甲州リハビリテーション病院リハビリテーション部部長 関谷宏美さん
- 伝わる喜び、理解する喜び、当事者として岐阜県のコミュニケーション支援を考える
- 前FC岐阜社長/(株)まんまる笑店代表取締役 恩田聖敬さん
- 近畿のコミュニケーション支援の現状と私の今
- 日本ALS協会近畿ブロック会長 増田英明さん
- 島根の今、一連のコミュニケーション支援活動を経て変化したことと課題
- 島根大学医学部付属病院リハビリテーション室 森脇繁登さん
- 佐賀県の入院時コミュニケーション支援、私が快適に過ごせる背景にあるもの
- 日本ALS協会佐賀県支部長 中野玄三さん
この間の活動総括として、患者でもある岡部会長の見解が支援委員によって読み上げられました。岡部会長は、3カ年計画で北海道を皮切りに山梨、宮城、島根、近畿、岐阜、愛知、佐賀とコミュニケーション支援の講座、シンポジウムなどの活動が実施できたことは、各地域の皆様のおかげだと感謝し「この3年で特に感じたことは、各地域で特色がある一方で、共通の課題もあるということだ」と述べました。その課題として岡部会長は、
- 地域のコミュニケーション支援活動を支えてくれている人たちの後継者の問題
- ボランティアに頼り、報酬どころか交通費さえ出ないことが普通になっていること
- 専門職に対する教育が大幅に不足し、体系的になっていないこと
- 行政と仕組みを構築できている地域がほとんどないこと
などの点を挙げ「まだまだ道は遠いことをしっかり受け止めないといけないと再認識した」と強調しました。
一方で岡部会長は「それでも前向きに捉えれば実にたくさんの成果があった」とも述べ、その例として
- 課題が明確になったこと
- 厚生労働省とコミュニケーションについて協議を重ね始められたこと
- 都道府県や市町村などの事業として位置付けられないかという検討が始まったこと
- 各地域の現在のコミュニケーション支援を支えてくれている熱い思いを持った方々がたくさんいること
- コミュニケーション支援について、いろんな角度で見られるようになったこと
などを挙げました。
その上で岡部会長は「私たち患者は機器だけでは、コミュニケーションはできません。そこには必ず人が介在しています。その意味で支援者をいかに発掘して、それをネットワークにできるかは、とても重要なことだとしてこの活動を実施してきました。そのことはこれからも変わりないことですが、私たち患者にできることも大いにあることに気付いた活動でもありました。患者が1人本気でコミュニケーションを求めて発信をしようとすることは、数十人の支援者の確保や育成に関わるということです。相互に協力しながらこれからのコミュニケーションをしていきたいと強く願っています」と訴えて、総括を結びました。
- 日本財団は、1962年の設立以来、福祉、教育、国際貢献、海洋・船舶等の分野で、人々のよりよい暮らしを支える活動を推進してきました。
- 市民、企業、NPO、政府、国際機関、世界中のあらゆるネットワークに働きかけ、社会を変えるソーシャルイノベーションの輪をひろげ、「みんなが、みんなを支える社会」をつくることを日本財団は目指し、活動しています。
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