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災害時要配慮者の命と暮らしを守る(下)日常の見守り必要―別府市 (2017/1/24 日本財団)

仕組みづくり、地域づくり、人づくり
人の温かい気持ち、日常の見守り必要

別府市危機管理課・村野淳子さんインタビューの続きです)

――避難訓練を始めたころ気付いたこと、勉強になったことの例を。

3階に住むAさんは車椅子ごと避難したいと言ったので、マンパワーを地元の高校生や大学生に頼みました。移動させようと思ったのですが彼らは日常、車椅子に触っていないので、どうしたらいいか分からない。介護福祉士会のボランティア登録者にレクチャーしてもらって、車椅子に乗っている人が安心するにはどういうふうにしたらいいか、教えてもらいながら1階まで降ろしました。

東日本大震災の時の村野さん。避難所の改善のために福島県の大きな避難所を調査し、今後どのような支援が必要なのか協議している様子(写真提供:村野さん)

東日本大震災の時の村野さん。避難所の改善のために福島県の大きな避難所を調査し、今後どのような支援が必要なのか協議している様子(写真提供:村野さん)

5階に住むBさんは重さ200キロぐらいある電動車椅子に乗っていて車椅子ごと下すことは無理でした。本人はその当時、体重が90キロあり、背負うことも無理。だから私は担架を準備しました。高校生が7人がかりで彼を下まで降ろして避難所まで行く手はずを整えました。そうしたら彼自身が、この担架はどこで買えるのか、と聞くから、ここよと言ったら、僕を避難させるためにこれが要るのだったら自分で買っておいて玄関口に置いておく、救難に来てもらったら済みませんけどこれでお願いします、と伝えるからと。自身でどこまでできるのか、自分たちは何をやらないといけないのか、どういうことをお願いするのか、というようなことを知ってもらうためには、やっぱり積極的に訓練に参加してもらうことが、すごく大事だと思いました。

別府市千代町での訓練の様子(写真提供:村野さん)

別府市千代町での訓練の様子(写真提供:村野さん)

7階に住む車椅子利用者のCさんは体重45キロ。背負ったらいいなと思い大学生1人だけ行かせました。でもみんなが下で待っているのに彼が降りてこない。体重は軽いし、背負われてきているはずだから、すぐ降りてくると思っていました。ところが車椅子利用者の人にも程度がいろいろあって、Cさんは腕の力があまりない。背負われるということは背負う人だけじゃなくて、背負われる本人も抱きつく力が必要で、その力がない。だから大学生が背中を向けても背負うことができなかった。Cさんの支援に慣れている人が『駄目だ背負うのは、抱っこだよ、抱っこをしないと』と言って実践して見せてくれた。抱っこをするということは7階だと1人では無理で2人は要る。やってみて初めてそういうことが分かった。このように課題を見つけて、それに合わせて支援の方法を組み立てていく。具体的に個別の計画が必要だということを、みんなで学びました。

――訓練の成果は。

避難訓練を行ったその自治会は380世帯ぐらいのところでした。訓練開始前に役員さん約50人に説明会を行いました。その中で訓練参加者にはアンケート提出をお願いしたいと。すると『その調査はどうするのか』とおっしゃるので『それを一応集計して、どんな課題があったのか、ということを来られた皆さんに配布します、お返しします』と言ったら『全戸配布してほしい、たまたま今回参加できなかった人もいるかもしれない。自分たちは訓練するのが目的ではなくて、訓練から浮かび上がった課題をどうするか、全ての世帯にこの状況を知ってもらって、それに対してどうするか、ということを地域で考えていかないといけない』と言ってくださいました。

訓練が目的ではなくて、その先も自分たちでちゃんとやっていく、ということを地域の人たちがおっしゃってくださったのが、すごくうれしかったですね。ただそのときに一つ言われたのは「でも日常はね、そんな大学生や高校生は地域にいないから、本当に訓練をするのだったら、地域の人がそれを担わないとおかしい」と言われたので、次の避難訓練の時には、実際の個別避難計画をつくった後に、その必要な人やものをきちんとまとめて、それを地域の人たちに渡して、地域で全部手配してもらうようにして、要配慮者のところには全て地域の人が支援に行く、という形で行いました。

別府市千代町での訓練の様子(写真提供:村野さん)

別府市千代町での訓練の様子(写真提供:村野さん)

――その後の動きは。

国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内の動きとして、06年に千葉県が「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」を施行させたことから、別府市でも条例づくり運動が活発になり、防災のことも含めて障害者の災害対応を条例にきちっと織り込もうよというような動きが始まりました。最終的に皆さんたちの働き掛けで、防災のことも全部入れた「別府市障害のある人もない人も安心して安全に暮らせる条例」が14年4月に施行されました。

大分県社会福祉協議会に在職していた村野さんはこの条例施行に委員として関わり、条例を具体化するために16年1月から別府市の職員となり、個別支援計画のモデルづくりを進めています。

――今後の目標は。

災害時要配慮者といわれるような人たちの命と暮らしを守るための仕組みづくり、地域づくり、人づくりです。多様な団体に働きかけて仕組みにできるところは仕組みにしたい。でも仕組みだけでは命と暮らしは守れません。人の温かい気持ち、日常の見守りや関係性、そういうものが必要です。そのような地域と人をつくり、仕組みにできるところまでは行政の中で仕組みにしたいと思っています。

村野淳子(むらの・じゅんこ)さん
2003年宮城県北部連続地震災害で被災者の支援活動をしたのをきっかけに、その後全国で発災する被災地で支援活動を行う。このころから障害のある人や家族、支援者とともに「障害者の防災を考える」をテーマに勉強会や避難訓練などを始める。東日本大震災では避難所の改善に取り組み、被災者が“自分の命と暮らしを守る”ために、避難所運営を行えるための訓練などを続けている。2000年~2015年 大分県社会福祉協議会専門員。2004年~2015年内閣府防災ボランティア検討委員。2012年4月~2013年3月南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ委員。2013年4月~中央防災会議防災対策実行会議委員。2007年~大分県防災会議委員。現在、別府市企画部危機管理課所属。53歳。東京都出身。

●被災者支援拠点運営人材育成事業(日本財団ウェブサイト)

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