海洋人材の育成に向けて、国際シンポ開催 (2016/8/5 日本財団)
海を守るため活動中の50人報告
日本財団など主催、約300人参加
気候変動による海面上昇や乱獲による魚資源減少で、人類に恵みをもたらす海が未曾有の危機に見舞われています。このため、世界中で海を守るため活動中の人々が集い、実践の中から学んだ知見を発表し合う「海の人材に関する国際シンポジウム」が7月19、20日の両日、東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急で開かれました。日本財団、総合海洋政策本部、国土交通省が主催したもので、参加した約300人は熱心にメモを取っていました。
初日には開会式が行われ、まず日本財団の笹川陽平会長が挨拶しました。この中で海水面の上昇問題に言及し、「対応する法律の整備や政策の立案に至るまで、多くの専門分野で知見が必要だ」と述べ、地域住民、行政、NGOなどが協力して取り組む必要性を強調しました。さらに、今回のシンポジウムには、世界中で注目すべき取り組みをしてきた人たちが参加しており、世界初のショーケースともいえると指摘。「発表された事例が応用できるかどうかを積極的に議論し、海の危機に立ち向かうロードマップになるよう期待している」と述べました。
続いて土井亨・国土交通副大臣は「海運・造船などの海事産業は、今後一層の成長が見込まれる海洋資源、エネルギー開発への貢献も期待されている」と述べました。また、松本文明・内閣府副大臣は「海の恵みを次世代に引継ぎ、海洋の持つ潜在力を活用し、人類の繁栄を確かなものとしていくことが我々の責務である」と述べました。
この後、パラオのトミー・レメンゲサウ大統領が基調講演し、同国の地上面積は東京湾に入るくらいだが、排他的経済水域では日本の2倍もあると指摘、海を守っていく意義を強調しました。また、キリバスのアノテ・トン前大統領は「国連海洋法条約により、海の規制は守られるようになったが、特別な魚種が急激に減っている」と述べ、将来の世代のために乱獲を規制するよう強調しました。
開会式後、海洋人材育成の実践についてのシンポジウムに移りました。19日は海洋管理、20日は教育と連携のテーマで、世界30カ国で活動しているリーダー50人が実践例を発表しました。この中でも、注目されたのは、カキを巡る米国沿岸部と西アフリカのガンビア共和国のケースです。
米国の事例を報告したのは、オイスター・ゴールズ・プロジェクトのロバート・ブルームバーグ博士。同博士によると、カキ礁は海洋生育環境の中でも地球規模で最も危機にさらされていて、世界全体で85%が失われたということです。サンゴ礁では35%が失われたとされています。
ブルームバーグ博士は「カキが繁栄すれば人類も繁栄する」と語り、カキと人間との関係が深いことを強調、カキ礁の復元が米国沿岸部のコミュニティの重要な目標だと述べました。このため、米国海洋大気庁は復元プロジェクトを推進する能力をコミュニティに身に付ける手段として2001年、全国パートナーシップを創設しました。そのうえで、2001年から2015年までに民間資金に合わせて連邦資金を活用し、85件を超す復元プロジェクトへの支援が行われました。同博士は「カキ礁の復元には20年以上かかる。時間をかけてやるしかない」と述べ、長期的に取り組む考えを示しました。
一方、ガンビアの事例を報告したファトー・ブーさんによると、カキ漁は出稼ぎで家を空けた夫に代わって生活費を稼ぐための仕事だったそうです。しかし、川を漁ってカップ一杯カキをとっても50セントくらいにしかならなかったといいます。みかねたブーさんが「生活を良くするため一緒に頑張ろう」と働きかけ、「トライ・カキ漁業婦人協会」を立ち上げました。トライは文字通り、「やってみよう」という意味だそうです。
会員が40人集まり、まず資金集めのイベントを始めました。友人や親戚を集めてカキの大量販売を行い、資金を稼ぎ、舟を3隻購入しました。そして政府に働きかけて、カキ漁の排他的使用権を受けました。こうした権利を女性に与えたのはガンビアでは初めてだったそうです。こうして女性たちは月額25ドルから50ドルの収入を得ることができるようになったといいます。
だが、カキ漁が盛んになると、カキがなくなって来ました。そこで、マングローブを植え、カキの栽培に力を入れました。ブーさんは「健全な環境なしに、健全な生活はできない。不登校の子どもたちにも仕事を与え、子どもたちも自立できるようになりました」と述べ、胸を張りました。ブーさんの呼びかけが地域全体の生活向上を生んだのです。
続いて、わが国の教育関係者によるパネルディスカッション「次世代を見据えた海洋教育のあり方」が行われました。葛西臨海水族館の天野未知・教育普及係長は「スタッフ20人が教育活動に携わり、年間200件以上の学習プログラムをこなしています。子どもたちを海につなげるようにしたいと思ってやっているので、水族館をもっと利用していただきたい」と話していました。永松健次・国交省海事局次長は「産官学が連携して海洋教育に取り組む組織『ニッポン学びの海プラットホーム』を立ち上げ、各分野の海洋教育の情報を集約・促進させたい」と意欲を燃やしていました。
この後、2つのテーマのモデレーターを務めた太田義孝ブリティッシュ・コロンビア大上級研究員、バレリエ・ヒッキー世界銀行環境・天然資源マネジャーらが総括セッションを行いました。太田氏は「コミュニティと政府のつながりがなかなか実現しない。法令が整備さていないからだと思う」と述べました。ヒッキーさんは「プロジェクトは15~30年の長期で考えないといけない。うまくいかない場合はやめるべきだ」と語りました。
最後にオルソン・スウェーデン環境・エネルギー省環境大使、デピペーレEU海洋・水産資源管理局部長、ジュモー・セーシェル気候変動・島嶼開発途上国問題に関する大使らがシンポジウムの意義を強調する「まとめ」を発表して2日間の幕を閉じました。
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