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負の「社会的相続」―貧困の連鎖を断ち切るため「第三の居場所」づくりを (2016/7/4 政治山)

一人親世帯の増加や非正規雇用の増加、格差社会…家庭環境や社会構造の変化が、子どもたちに深刻な影響を及ぼしています。昨年12月、日本財団は子どもの貧困がもたらす経済的影響が1学年あたり2.9兆円に上るとの推計を発表し、衝撃を与えました。日本では、6人に1人の子どもが貧困状態にあるとされ、その社会的損失は日本の将来そのものに暗い影を落としています。

現状シナリオと改善シナリオ

子どもの貧困対策を行わない現状シナリオと、行った場合の改善シナリオにおける、所得の合計額の差

100か所の拠点づくりへ50億円拠出

5月23日、日本財団は「子どもの貧困対策プロジェクト」の事業発表会を行いました。50億円の予算を拠出し、全国100か所に「家でも学校でもない第三の居場所」を設ける計画で、第1号拠点は埼玉県戸田市に決まりました。11月の事業開始に向けて現在、準備中です。

対象は小学校低学年。教師や保護司のアドバイスを考慮しつつ参加者を募り、学校が終わった後の14時から21時までを独りぼっちで過ごすことなく、仲間と一緒にご飯を食べたり、学生ボランティアから勉強を教わったりして、コミュニケーションや社会の基本的なマナー、ルールなどを学びます。利用料は各家庭の所得に応じて設定します。

自立に必要な正しい「社会的相続」を伝える場所に

日本財団が注視しているのは、子どもの「自立する力」。子どもは身近な大人を見て育つため、親がお金を浪費したり不規則な生活習慣を続けていると、負の「社会的相続」が子に受け継がれ、貧困の連鎖をまねくと言われます。「第三の居場所」では、自由に遊んだり勉強したりできるだけでなく、特定の学習プログラムや夕食の提供も行います。大人の見守りの中で仲間と食事をすることの楽しさや正しい箸の持ち方なども伝えていき、社会的相続を補う役割を担うことを目標としています。

社会的相続のイメージ

5月23日の事業発表会には株式会社ベネッセホールディングスも参加しました。同社が長年培ってきた子どもの生活と学習のノウハウを提供するとともに、子どもが読書に夢中になるための「ベネッセグリムスクール」の実施を通じて子どもたちの自立をサポートします。「ベネッセグリムスクール」は、単なる読み聞かせだけでなく、そこにかるたや日記、本の帯を作るなど多くの仕掛けを用意しており、全ての学力の土台となる「国語力」を鍛える独自カリキュラムです。

発表会では、福原賢一・代表取締役副社長が、創業から60年以上にわたって教育現場の課題に向き合ってきた実績を紹介。「壁を抱える子どもたちの課題解決にも取り組んできたが、貧困の子どもたちの課題は一企業では手に負えない。(事業を通じて)新たなステージで子どもの貧困問題に取り組む機会を与えて頂いた。国民的広がりのある取り組みにしていきたい」と抱負を語っています。

事業発表会の様子

事業発表会の様子。子どもの貧困問題に対するメディアの関心の高さもうかがえました

目標は教育行政のモデル事業、すでに複数の自治体が関心

第1号拠点に選ばれた戸田市は、子どもの数が増え続けており、経済的に厳しい家庭も多く、神保国男市長は「子どもたちに夢を持って進んでいく気持ちを持ってもらえるような場所にできれば」と期待しています。

日本財団は、今後5年をめどに全国100拠点を整備し、子どもサポートのモデル事業として行政にノウハウを提供し、子どもの生きにくさをなくす社会づくりを広げていきたい考えです。すでに複数の地方自治体が拠点の誘致に手を挙げており、行政側の関心の高さがうかがえます。

少子高齢化が進む日本で、今回の試みは将来の教育行政に大きな役割を果たす可能性があります。次回インタビュー記事では、これまでの経緯や今後のビジョンについて、日本財団の担当者にお話をうかがいます。

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