【後編】「マネジメントとは、部下の才能を開花させて、責任を取ること」はあちゅう(ブロガー・作家) (2019/2/13 マネたま)
失敗ヒーロー!
華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。しみけんさんとの事実婚発表も記憶に新しいはあちゅうさんに、明日から真似したくなるようなセルフマネジメント術をお聞きした前編につづき、後編ではそんな一見抜け目のない仕事人、はあちゅうさんの失敗談にも迫ります。
オンラインサロンは、会社や家庭から離れた場所で「自分の強み」を磨くサードプレイス
――運営されているオンラインサロンでは、はあちゅうさんはどういったお立場で仕事をされていますか?
はあちゅう:ファシリテーターです。トップは存在せず、中立でフラットな組織として、メンバーそれぞれの強みを生かしつつ活動しています。そうは言っても私の名前が付いたサロンなので私の意見が通りやすかったり、私が前に出ていったりすることもありますが、参加者それぞれの目的が違うなかで、実験的にいろんな活動をしてみましょうというのがうちのサロンです。2019年1月からイケダハヤトさんと正田圭さんとともに「脱社畜」サロンと合体するといった新展開も進めていますが、それ以前では裏テーマで「才能塾」と掲げていました。会社員として働いているなら、会社に寄り添った能力が花開くと思うんですね。私は会社にいたことでコピーライターとしての能力を培えたし、トレンダーズにいたときは後輩を育成したり、美容サイトを編集する能力が磨かれました。でも、オンラインサロンは会社や家庭から離れた場所です。自分ひとりでなんの後ろ盾もない場所に放たれたとき、「あなたは何が発信できますか?」と突きつけられる。そこで自分が貢献できることを見つけることで、会社や学校では開かなかった能力が花開するんですね。うちはオンラインサロンオーナーをたくさん輩出していて、才能に気づいてみなさんは巣立ちつつも、それでもうちに籍を置いてコラボレーションすることもあります。
24時間“株式会社自分”の社長をやっている感じ
――オンラインサロンが“サードプレイス”になっているんですね。「後輩を育てる力」とおっしゃいましたが、後輩に接するときに心がけてきたことはありますか?
はあちゅう:好かれようと思いすぎないことです。私自身はいい先輩に恵まれてきたと思うのですが、何年経っても覚えているような「大事なこと」を学んだのは、怖い先輩からだったなと思います。怖いから締め切りに遅れないようにしたり、怒られたくなくて頑張ったりしていました(笑)。私は、怖い先輩ではいたくないですが、好かれようとしてしまうと伝えるべきことが伝えられなくなってしまいます。だから、言いたいことはフラットに伝える。あとは背中で教えることも必要ですよね。一番大切なのは、仕事への態度だと思うんです。リーダーが適当に仕事していると、後輩もそんなものでいいやと思ってしまいます。情熱を持ってストイックにやっていれば、仕事はこういうものなんだと感じてもらえると思うので、自分が情熱を持って仕事に取り組む姿勢を見せることは、後輩にとってもすごく大事なことだと思います。
――すでに心構えが理想の仕事人ですね。フリーランスになって、オン・オフの切り替えは難しくないですか?
はあちゅう:フリーランスになってからはそんなにオン・オフを切り替えている意識がありません。それが苦痛にもならず、楽しいんです。平日も、人から見たらお休みみたいな過ごし方をしていたりするんです。ヘッドスパに行って昼は友人とランチして、買い物して、夜に仕事して。オン・オフの境目がないことで、フラットにオンにもオフにも向かえるんです。エンジンをかけることへの管理をせずに、自由にオンとオフを往き来しているほうが私には向いているんだと思います。
あとは自分の日常をコンテンツにすることがいまの仕事なので、休日だって素材集めの仕事をしているようなものです。24時間、“株式会社自分”の社長をやっている感じで、休みはないですが、一方でずっと休み続けているような感覚もあって。好きなことだから疲れないし風邪も引かなくなりました。
ストレスに感じたことこそ、いいコンテンツになる
――日常をコンテンツ化するにはどのような工夫が必要でしょうか?
はあちゅう:前編でお話しした通り、これは覚えておきたいと思うことはメモを取るようにしていました。あとは、ストレスに感じたことこそ、実はいいコンテンツになるんです。大人になると、日常で心が大きく動くことはそんなにないですよね。でも価値観の違う人と出会ったり、何かに怒ったりすると、感情が動きます。私はその揺れ動きが、もうコンテンツのようなものだと思っていて。嫌なことをしただけでは“損”になってしまうけど、それをコンテンツとして活用できたら、私にとってそれほどいいことはありません。嫌なことが起きたときこそ、何かにアップするようにしていますね。
――もはや抜け目を一切感じないのですが、そんなはあちゅうさんでも心に残っている“失敗”はあるのでしょうか?
はあちゅう:逆に“失敗だらけ”です。発言はネットにすべて残ってしまうので、なんであんなこと言ったんだろうとか、対処の仕方を間違えたなと思うことは多々ありますよ。でも時間は戻せないので、あまり考えないようにしています。あらためて「失敗」と聞いて思い出すのは、電通の新人時代に、ある打ち合わせに何も持っていかなかったことです。その打ち合わせは参加スタッフが考えてきたアイデアを見せ合う場所だったのですが、当時は受け身だったし、そもそも「打ち合わせ」の意味をよくわかっていなかった(笑)。そのときはとても恥ずかしかったですね。とにかく「話を聞いているだけで時間がいっぱいになりますように」と祈り続けたら、本当に私が話す時間がなくなったので、「後でメールで送ります」と切り抜けました(笑)。
――想像すると胃が痛いシチュエーションですね(笑)。トレンダーズ時代は何かありましたか?
はあちゅう:トレンダーズのときは、胃薬を5種類飲むほど体調が悪かったんです。スケジュールもぎちぎちの状態で、どうやっても無理でしょ、という量のタスクが降ってきたんです。そのときは本当に頭にきて、「こんなに仕事できません!」と先輩に言いました。すると、先輩から「その仕事量をこなすということも、仕事なんだぞ」「できませんと逆ギレするのではなく、どうやったらできるかを考えるのが編集長の仕事でしょ」と言われたんです。
そのとき、「たしかに」と思うと同時に、自分の体は自分で守らないといけないし、何かをやれと言われても、何をやらずに何を優先させるかと業務整理をすることも、先輩任せではダメで、自分の仕事なんだと気づいたんです。だから先輩に相談に乗ってもらって、タスクを整理しました。そうした結果、自分がイヤイヤやってきたことを削ることができたんです。
どんな人にでも「適材適所」は必ずある
――拒絶ではなく、管理。それこそマネジメントですね。
はあちゅう:それまで私には「マネジメント」の考え方がなかったんです。編集長という立場も実は“名ばかり”で、使われる立場に自分からなってしまったんだな、と思い当たりました。いまの仕事に疑問を持つことも大切な仕事なんですよね。
――いいお話ですね。言われるがまま仕事している人って、結構多いと思います。電通のような大きな会社とベンチャーとではマネジメントもまた違いそうですね。
はあちゅう:大企業だと年功序列の考えで、上を立てたり、意向を汲むことに時間を使うことも多いと思います。私もコピーを考えるときに、上からのハンコをもらわないと外に出していけないので、クライアントに正面からぶつかっていくというより、「まずは先輩が気に入りそうな案にしよう」とか、先輩や上司に寄せていくことがありました。いわゆる忖度的な振る舞いはあったと思います。「その案じゃ絶対バズんないけどな」と本音じゃ思っていても自分からは言えなくて、「伊藤はどう思うんだ」と聞かれて初めて口を開く感じでした。嫌われる覚悟もなく、当時は気に入られたいという気持ちが強かったんです。でも、天才と言われるクリエイターは空気を読まずに発言していたように思います。
ベンチャーでは人数が少ないところも多いからか、人間関係のもつれが思った以上に仕事に影響します。「この人とこの人は仲が悪い」という状態は、直接的に仕事がやりにくくなったりして、逃げ場がないんですね。大きな会社なら異動すればいいですが、小規模な会社だとそれも厳しい。
――向き不向きは飛び込まないとわからないかもしれませんね。では最後に、はあちゅうさんの考えるマネジメントとはどんなことですか?
はあちゅう:責任を取ることと、才能を開かせてあげることですかね。上司やマネジメントに携わる人には、自分の部下に合う部署でその人の適性に合った仕事を振ってあげることで個性や能力を引き出した上で、チェック体制などをきちんと組み立てて、欠点を補える環境を構築して「失敗しない」仕組みづくりを行うことが必要だと思います。
そもそもお仕事は、「できる・できない」ではなく、「合う・合わない」だと思うんです。だって、「仕事ができない」と言われている先輩が飲み会ではひときわ輝いていたり、転職した先でエースになっていたりすることなんてよくあることじゃないですか。「適材適所」というのは絶対あります。でも「合う・合わない」は、運命めいたものでもあると思いますね。
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