【後編】「仕事は“手段”でも“目的”でもどちらでもいい。大切なのは自分を締め付けずに生きること」ジョン・カビラ (2018/11/28 マネたま)
失敗ヒーロー!
華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。前編に引き続き、J-WAVE(81.3FM)ナビゲーターとして30年、その創成期から活躍しているジョン・カビラさんにお話を伺います。ナビゲーターとしての仕事との向き合い方、そしてカビラさんの考える仕事観、マネジメントとは何かに迫ります。
プロの仕事は、リソースをチームでどれだけ共有できるか
――J-WAVEで番組が始まった当初と比べて、ご自身でよくなったなと思う点があれば教えてください。
ジョン・カビラ:放送時には今でも「このマイクの向こうで、一体何人の方々が聴いてくれているのだろう」と緊張する気持ちは変わっていませんが、対応力は格段に上がっていると思います。例えば、マイケル・ジャクソンが亡くなったとき、生放送の朝に情報が飛び込んできました。「マイケルの功績を称えつつも、彼の活躍した社会的な背景までを5時間半のなかでどう掘り下げ、リスナーにどう提示できるか?」を問われるわけです。
一方で、問われている側の僕らは、どんなリソースや術を持っているか。できれば、リソースは一人に集約させず、共有できていたほうがいい。たまたまリソースを持っている人が、今日はいないから仕事ができないというのは、本来プロの仕事ではないと思うんです。職人さんの世界は別かもしれないですが、共有されない限り、総和として番組のクオリティは上がりません。マイケル・ジャクソンの訃報を伝える時にはチームとして共有しているリソースを駆使して、現地の公共放送のラジオ局のミュージックディレクターにお願いして、マイケルがポップミュージック界において果たした役割と意義、そして彼の光と影の両面をきちんとお伝えすることができたのではないかと思います。
――伝え方で気を使われていることはありますか?
ジョン・カビラ:人には光と影がありますが、影をどう伝えるかというのはひとつのテーマです。いろんなスキャンダルがあったとき、どうしてそうなったのか。マイケルに限らずプリンスの時もそうでしたが、彼らのようにシンボリックな存在にいつも励まされてきた一方、残念なことが起こると、彼らも人間なんだと思い知らされます。たまたま僕は情報源に近いだけで、僕よりマイケルやプリンスに詳しい人はいくらでもいらっしゃいます。だから、権威をもって語るということはないですし、たまたまマイクの前にいるという気持ちで話しています。伝え手として、気持ちを共有しているというのがこの仕事だと思いますね。
誰でもできる仕事。だから、「自分だからできること」を追求したい
――ゲストの方がたくさんいらっしゃいますが、事前にどの程度リサーチしたり、お話を伺ったりされているのでしょうか?
ジョン・カビラ:失礼があってはならないので、必要最低限のことはしますが、過去のインタビュー記事を熟読していくようなことはしません。その方に特化した5時間半なら必要ですが、5分しかない場合はテーマについての素直な疑問や質問をどうやって出すかの方が大事です。そしてゲストの方とはお互いの「前提」をあまり作らないようにしたいので、事前にお話はしないようにしています。ただし、ゲストの方にほとんどラジオの経験がなく、極度に緊張されている場合であれば、話は別です。和やかで朗らかなほうがいいですからね(笑)。
――これまでの経験のなかで失敗といえばどんなことが思い浮かびますか?
ジョン・カビラ:単純なミスですね。以前、アメリカでそろばんと電卓が一緒になったものを商品化した方がいて、ラジオでお話を聞いてみようということになりました。そこでお電話したところ、明らかにアルコールの影響下にあると思われる感じで「その話はいいんだけどさ、妻に逃げられてさ」と突然、切り出されまして。こちらも「お辛い状況かと思いますので、日を改めます」と電話を切りました。生放送でした。後日、一度電話してみたら「待っていたよ!」と別の方が出られまして……間違い電話だったんです(笑)。
――培われた対応力が発揮されましたね(笑)。
ジョン・カビラ:奇跡的な間違い電話でちょっとした語り草になりましたよ(笑)。こういう話をすると職業倫理的に憤慨される方もいらっしゃるかもしれませんが、「命」の現場で奮闘されている、例えば医療関係者や消防、警察関係者の方々とは違い、僕の仕事は人の「生き死に」には直接関わっていない「声」を使った仕事。もちろん日々、真剣勝負ですが、どこかで「どなたにでもきっとできる」と客観視しないと、自分が大層なことをやらせてもらっていると勘違いしてしまうかもしれない。だからこそ、この僕だから、このチームだからできることを、どこまで追求できるのかを俯瞰していないといけない。常に100パーセントの力で肩を怒らせながら困難を突破しようとしても頓挫しますし、仕事を成し遂げる前に自分が倒れてしまうと思うんですよね。
マネジメントとは、相手の身になって考え、組織を俯瞰できること
――カビラさんはマネジメントというキーワードを聞いて、何を思い浮かべますか?
ジョン・カビラ:「当事者」に立ち返るということですね。こういうことを言われたら自分ならどう思うかと想像すること。それはチームメイトが相手でも同じです。そして、無理なものは無理と言える「俯瞰力」。俯瞰して見る力がない、無理と言えないカルチャーを連綿と続けてしまうと組織として大変な事態になってしまう可能性がある。そういう事態に陥らないよう、人として当たり前のことができているかと振り返ること。自分が言われたくないことは相手にも言わない。こんな幼稚園から言われることでも、人はつい忘れてしまうものなんですから。
――今悩んでいる人に対して、カビラさんだったらどのような言葉を掛けますか?
ジョン・カビラ:基本は“You’re OK”、“I’m OK”の精神だと思うんです。「君は君のままでいいし、僕も僕のままでいいんだよ、まずそこから始めよう」ということ。でも本当は、そのままではいけないわけですが(笑)。
物事をよくしようと思っていたほうが、人は幸せになれると思うんです。「ここが問題だ!」と声高に叫ぶより、「ここをこうすればいいんじゃない?」と提案してみた方がいい。例え今いる状況や環境に不満があったとしても、その理由を考えながら、まずはよいところを探して、状況を変えていく努力をしてみる。それは、オフィスに花や和めるアイテムを持って行くという簡単なことでもいいんです。それでも、もし探し出せないのなら、環境を変えるしかない。ものすごく苦労して頑張り抜いて心に怪我を負うよりは、環境を変えた方がいいと思います。
今思うと、CBS・ソニーには本当にいろいろなドアや可能性があったと思うのですが、当時はノックもしていなかったし、そのドアを探そうともしていませんでした。組織としての可能性やドアを見逃したかもしれないな、と思います。反省点のひとつですね。
――30歳そこそこで可能性に気づいたり、ノックしたりというのも大変ですよね。
ジョン・カビラ:20~30代は大変ですよね。仕事を覚え、スキルを磨きながら、将来像を描いていく。「就社」だと厳しいものがあると思います。でも会社にはいくつものドアがあるかもしれないし、フラットな組織なら自己申告制度だってあるかもしれません。もしそれがあるならば、活用しない手はないですよね。だから、飛び出す前に「今の島(セクション)にしか自分の居場所はないと思っていませんか?」と自分自身に問いかけてみて欲しい。
仕事は手段でも目的でも、“It’s OK”。
――おっしゃる通りだと思います。
ジョン・カビラ:あとは、仕事が糧を得るための「手段」なのか、自己実現のための「目的」なのか。理想は両方ですよね。しかし、残念ながら手段と目的を両立できている人は少ない。でも、仕事は手段でも、“It’s OK”。9時に会社に行って18時までいる、仕事で得た糧で人生のバランスを取るというのでもいい。「仕事を通して自己実現するのが当たり前、人間の成功」という価値観もありますけど、そうでない俺も“It’s OK”。もちろん、仕事を通して自分の価値を証明したいという目的の君も、“It’s OK”。いろんな生き方があっていいじゃん、と思うんです。「知らず知らずのうちに世間的な重しや常識みたいなものに、振り回されてない?」と思うんですね。その重しを外して、もっと幅広い視野やオプションを持って人生を考えられた方が楽しく生きられるのではないでしょうか。それに手段と目的が入れ替わったっていいんです。人生、今は長いですから。
――本当にそうですね。カビラさんにとって仕事は手段と目的のどちらに当たりますか?
ジョン・カビラ:僕はありがたいことに、両方です。どこかで割り切らなければならない仕事もあるし、同じ仕事のなかでもシーンが分かれるわけです。「金曜の番組だけは目的だ! 徹底的に磨き上げる!」というモードで入ることもあれば、「ここは抜いてもいいんじゃない?」という部分もある。「こうあらねばらなぬ」と思って仕事することは苦しいですよね。手段と目的を自由にやわらかく出たり入ったりできた方が、後で自分を締め付けなくて済むと思います。
取材協力:J-WAVE(81.3FM)
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