再犯防止は「ひと創り」―山下貴司法務大臣政務官に聞く (2018/7/17 政治山 市ノ澤充)
平成28年12月に「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」が公布・施行されてから1年半、政府や自治体、民間では様々な取り組みが行われています。再犯を防ぎ、新たな被害を生まないようにするためには、一人ひとりの理解と協力が必要です。7月の再犯防止啓発月間にあたり、山下貴司法務大臣政務官にお話をうかがいました。
――はじめに、「超党派で再犯防止を進める議員連盟(再犯防止議連)」について、設立の背景と目的をお聞かせください。
私はかつて検事として、多くの刑法犯と向き合ってきました。検事の仕事は裁判とともに終わりますが、その人が再び犯罪を起こさないように支援する体制が十分に整っていないことは課題として認識していました。
近年の傾向としては、刑法犯の検挙人員の全体数は減り、初犯者数も大きく減少していますが、再犯者の数はあまり下がらず、その割合は増加しています。統計を取ってみると、再犯者の7割が無職であることが分かり、仕事ができる環境を提供し、自分の手で稼ぐ力を身につけ、やり直そうという思いを育むような再犯防止の枠組みが必要であると考えたのです。
そこで、平成26年2月、再犯防止施策を支援し、「世界一安全な国、日本」の実現を目的として、議員連盟を発足しました。
――超党派の議連を運営していくなかで、各党の協力は得られたのでしょうか。
再犯防止の取り組みには、切れ目のない、シームレスな支援が必要です。それを実現するには与野党を超えた全会一致の議員立法であることが望ましく、法案作りのワーキングチームから超党派で構成し、全員で考えて議論を進めました。
平成28年2月に「再犯の防止等の推進に関する法律案」を検討するためのワーキングチームを設置し、同年5月に法律案を取りまとめましたが、すべての党から理解を得ることができました。
――超党派議連が取りまとめた「再犯防止推進法」が制定されるまでの過程と、その概要をお聞かせください。
同法は第192回臨時国会に提出され、平成28年12月、本会議で全会一致で可決成立し、公布・施行されました。再犯の防止等に関する施策に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、再犯の防止等に関する施策の基本となる事項を定めることにより、再犯の防止等に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的としています。
再犯防止推進計画の策定にあたっては平成29年2月、法務副大臣を議長として、関係省庁や有識者で構成された「再犯防止推進計画等検討会」が設置され、以後、同検討会において継続的に議論が重ねられ、同年12月15日に閣議決定されました。
同計画は、5つの基本方針のもと、7つの重点課題について、115の施策を掲げており、重点課題には、「就労・住居の確保」や「民間協力者の活動の推進」などを掲げています。
特に重要なポイントは、この法律は再犯防止に関する初めての総合的な法律であること、そして再犯防止推進計画を閣議決定したことです。閣議決定は内閣全体に影響を及ぼすもので、各省庁をまたいで総合的に取り組むという、大きな法的なスキームとなります。
この計画策定の責務は、努力義務ではありますが地方公共団体にも課せられており、すでに鳥取県では再犯防止推進計画が策定されています。
――再犯防止の推進には、省庁をまたぎ、自治体とも連携していく必要があるということですね。
再犯の防止には、就労支援や職業訓練、住む場所の確保に加え、人によっては依存症対策なども必要です。検察や警察、厚労省に自治体と、行政挙げて立ち直り=リエントリーを支援する体制を築いていかなければなりません。
再犯防止推進計画策定の際も各省庁から担当者が検討会に参加し、元厚労省事務次官の村木厚子さんや元千葉県知事の堂本暁子さんなど幅広い視点から意見をいただきました。現在は法務省の企画再犯防止推進室が計画の進捗状況を集約し、事務局的役割を果たしつつ関係機関等と情報共有しています。
――再犯防止における民間の企業や団体の役割を、どのようにお考えでしょうか。
再犯防止活動に協力する民間の企業団体は、地域社会における「息の長い」支援を実施していく上で欠くことのできない存在です。民間ならではの創意と工夫により、国・地方と一体となった再犯防止の取り組みを期待しています。
職を通じて居場所を提供し、親代わりとなって見守ることで再犯を防ぐ、日本財団の職親プロジェクトを初めて知ったときは、正直に言ってハンマーで頭を殴られたような気がしました。元検事であり国会議員でもあるのに手が届いていなかったこと、思いが至らなかったことに気づき、政治が遅れていると思いました。
「職親」というのは本当に良い言葉で、彼らにとって協力雇用主は、まさしく親なんです。先般、愛媛県今治市の開放型の刑務所から受刑者が逃亡した事件がありました。そういったケースへの対応はもちろん必要ですが、立ち直りを支える人たちは「あの子たち」と呼んで子どものように思っています。
協力企業が不利益を被るようなことがないか、自治体などの支援は十分か、正当な社会的評価を得られるような環境が整っているか、といった視点からの検証も必要ですし、何度裏切られても信じて継続している人たちを支える制度作りというのは、政治の役割でもあります。
――法務省の協力雇用主に対する奨励金制度は、日本財団が独自に実施してきた内容に似ていますね。
民間の取り組みからは多くのインスピレーションを得ましたし、今も多くの方に支えていただいています。協力雇用主への支援は、社内外の理解を得たり、過剰な負担を軽減するためのもので、決してお金のためではありません。
議連の検討会では、日本財団の担当者からもお話をうかがいましたし、特別矯正監を務めていただいている杉良太郎さんのお話もうかがいました。議連として提出した提言や法案は政治家だけで進めたものではありません。多くの方に支えられ、勇気づけられて議論を進め、検討を重ねてきたものなのです。
再犯防止の目的は新たな被害を生まないことにありますが、やはりリエントリーの可能な社会であってほしい。一度の過ちで取り返しがつかないような風潮もありますが、そうではないんだ、立ち直れるんだという思いを持ってほしいし、それをあたたかく見守れる社会になればいいと願っています。
――インターネット上の情報が立ち直りを妨げることもあるのでは?
これは通信の秘密や表現の自由にも関わってくることで法務省だけの問題ではありませんが、法律以前に常識レベルで、きちんとしたネットリテラシーを身に付けるのは急務と考えています。
もちろんネット上でも人権侵害には毅然とした対応が必要ですし、ネット上だから許されるとか、罪が軽くなるとか、そういったことはありません。罪を償い、立ち直ろうとしている人が、不当に貶められるようなことは防いでいかなければなりません。
――再犯防止推進法の施行から1年半、推進計画の策定から半年が経過しましたが、その進捗状況をお聞かせください。
私たちは今年を、再犯防止推進元年と位置付けています。各省庁でも政策づくりや予算化の検討も進み、骨太の方針にも反映されています。
先述の通り鳥取県ではいち早く再犯防止推進計画が策定されており、兵庫県の明石市では条例化を検討しています。また、6月には矯正施設が所在する自治体の首長が集まって、「矯正施設所在自治体会議」の設立発起人会議が開催されました。
これらの動きを支援し、情報を発信していくことで、各地域の実情に即した再犯防止推進計画の策定と実施を、加速していきたいと考えています。
――直近で、法務省として具体的な行動は予定されていますか?
まずは再犯者が置かれている現実と、再犯防止の取り組みを多くの方に知っていただくことが大切です。再犯防止推進法では7月を「再犯防止啓発月間」と定めていますが、これは犯罪や非行からの立ち直りを支援する更生保護の取り組みとして長年続いている「社会を明るくする運動」の強調月間と同じ月となっています。
法務省としてはこの7月にシンポジウムの開催を予定しており、自治体の首長や議員、職員にも理解を深めてもらい、各地域での計画策定に役立ててほしいと考えています。
犯罪者というと怖さや偏見があるかもしれませんが、再犯防止は人の立ち直りを助ける、いわば「ひと創り」のプロジェクトです。なぜ被害者ではなく加害者を支援するのかといった声もありますが、新たな被害を生まないために必要な取り組みですし、加害者が手に職を付けることは、賠償などの被害回復に資する面もあります。
被害者救済と加害者の立ち直りを車の両輪として進め、安心安全な日本を実現していきたいと考えています。
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