「健康寿命の増加>平均寿命の増加」目指し、健康・医療・介護データの利活用等を推進―未来投資会議 (2018/6/5 メディ・ウォッチ)
社会保障制度の持続可能性確保に向けて、「勤務先や地域も含めた健康づくり、疾病・介護予防の推進」などによって健康寿命を延伸するとともに、「効率的・効果的で質の高い医療・介護の提供、地域包括ケアに関わる多職種の連携推進」を進めて少子化による人材不足に対応する。さらに、健康・医療・介護データの利活用を推進し、効率的なだけでなく、「効果的」なサービス提供を目指す―。
6月4日に開催された未来投資会議で、こうした内容を盛り込んだ『未来投資戦略2018―「Society5.0」「データ駆動型社会」への変革―』(素案)が示されました。
「健康寿命の増加>平均寿命の増加」を目指す
我が国には、「技術力・研究力、人材、リアルデータ、資金といった豊富な資源がある」ことと、「人口減少、少子高齢化、エネルギー・環境制約など課題について、いわば先進国である」といった特徴があります。未来投資会議では、これらを「我が国の強み」と捉え(後者についても課題の克服により、諸外国のモデルとなることが可能)、新たな国民生活・経済社会の姿を提示するとともに、従来型の制度・構造を一気に改革する仕組みの構築に向けた検討を行っています。
社会保障に関しては「持続可能性の確保」が最重要課題と言え、次世代ヘルスケアシステムの構築を提言しています。高齢化によって「受益者」が増加する一方で、少子化により「支え手」が減少しており、「若年世代が高齢者を支える」という従来よりある社会保障制度の存立基盤が脆くなってきています。次世代ヘルスケアシステムでは、健康寿命の延伸によって、「医療・介護」の受け手の増加を抑制していくこと、さらに膨大なデータを連結・利活用し、質の高いサービス提供を目指すものと言えるでしょう。
未来投資会議では、従前(未来投資戦略2017)の目標「国民の健康寿命を、2020年までに1歳以上、2025年までに2歳以上延伸する」(2010年時点の健康寿命は男性で70.42歳、女性で73.62歳、2016年時点では男性72.14歳、女性74.79歳)に加え、新たに「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」という目標が設定されました。
2020年度からオンライン資格確認、健康・医療情報の活用・連携を本格稼働
さらに、社会保障の持続可能性を確保することに加え、医療・介護技術による経済的発展も目指し、次の5本の柱に沿った施策を推進するよう提言しています。
▽個人にあった健康・医療・介護サービス提供の基盤となるデータ利活用の推進
▽勤務先や地域も含めた健康づくり、疾病・介護予防の推進
▽効率的・効果的で質の高い医療・介護の提供、地域包括ケアに関わる多職種の連携推進
▽先進的医薬品・医療機器等の創出、ヘルスケア産業の構造転換
▽国際展開等
まず1つ目の「データ利活用推進」は、より効率的・効果的なサービス提供を目指すものと言えます。具体的には、マイナンバーカードを健康保険証として利用できる「オンライン資格確認の仕組み」を2020年度に導入することで、医療機関や保険者(健康保険組合など)の事務負担を減らすとともに、2020年度から「医療機関等における健康・医療情報の連携・活用」を本格導入し、より効果的な診療や健診・指導につなげます。後者については、費用対効果を十分に踏まえたうえで、国民1人1人の「健診」「診療」「投薬」情報を医療機関等の間で共有できる全国的な「保健医療情報ネットワーク」を2020年度から本格稼働させる(このための工程表を2018年末に策定する)ことを改めて宣言しています。
また規制改革推進会議でも提言された「電子処方箋」について、円滑な運用ができる仕組みを、2018年度中に検討し、結論を得るよう要請しています。
さらに少子高齢化の中で、最も人手不足が心配される「介護」分野について、ICT化・情報連携を全国ベースで進め、「介護関係者の効率的・効果的な協働を可能とする」ことを打ち出しました。具体的には、▼2018年度中にケアマネ事業所と介護サービス事業所間において「情報連携の標準仕様」を検討し、結論を得る▼2018年度中に「ICTを活用した医療・介護連携」の実証事業をお行い、標準仕様作成に向けた検討を開始する▼2020年度までに「介護分野において必要なデータ連携」を目指し、2018年度中に総合的・抜本的なICT導入を進める―よう求めています。
このほか、▼2020年度からマイナポータルを通じて、国民本人へ「予防接種歴(2017年度提供開始)」「特定健診、乳幼児健診等の健診データ(2020年度提供開始予定)」「薬剤(2021年度以降の提供開始予定)」などのデータ提供を行う▼本人の許諾を受けた民間事業者もデータ活用可能な仕様とすることを検討する▼ウェアラブル端末等(例えば、腕などに装着し、24時間心拍数などを計測する機器など)のIoT機器を用いた効果的な生活習慣病予防サービスの確立に向けた実証を進め、糖尿病以外の生活習慣病や介護予防等の分野にも拡大する▼2018年度中に乳幼児期の健診・予防接種等の健康情報を一元的・電子的に確認できる仕組みを検討する▼2020年度から行政・保険者・研究者・民間等が、健康・医療・介護のビッグデータを「個人のヒストリー」として連結・分析できる解析基盤を本格稼働する(2018年度から詳細なシステム設計に着手する)―ことなども提言しました。
若年世代のうちから「健康寿命の延伸」を意識、認知症対策なども強化
また2つ目の柱である「健康づくり、疾病・介護予防の推進」は、若年世代のうちから「健康寿命の延伸」を目指すものです。
例えば、「総合的な認知症対策」として▼関連データベースやレジストリの更なる連携による「病態等の解明」「早期発見・予防法・診断法の確立」▼2018年度からの「超早期予防から発症後の生活支援・社会受容のための環境整備」等に向けた研究―を、「高齢者の社会参加促進等対策」として▼高齢になっても社会的役割を担い、健康を増進し、要介護を予防・進行抑制するための「仕事付き高齢者向け住宅」等の実証▼高齢者やケアマネジャーが、地域の予防・介護等サービスを把握・利用し易くなるような「介護サービス情報公表システム」の活用―が進められます。
また、「保険者によるデータを活用した予防・健康づくり」「健康経営の推進」「健康管理・予防に資する保険外サービスの活用促進」(ケアプランに保険外サービスを積極的に位置づけやすくするためのインセンティブ付与等も含めて)、「ヘルスケア分野で民間ノウハウを活用するための成果連動型民間委託契約方式の活用と普及」なども進めるよう提言しています。
エビデンスに基づく介護サービスを目指し、2020年度から科学的介護データベース稼働
3つめの柱である「質の高い医療・介護提供、多職種連携」に関しては、(1)自立支援・重度化防止に向けた科学的介護データベースの実装(2)ロボット・センサー、AI技術等の開発・導入(3)書類削減、業務効率化、生産性向上(4)オンラインでの医療・多職種連携等の推進―が打ち出されました。
このうち(1)では、2020年度から「高齢者の状態、ケア内容等のデータを収集・分析するデータベース」を本格運用させ、自立支援等の効果が科学的に裏付けられた介護の実現を目指します。さらに「効果が裏付けられた介護サービスは、2021年度以降の介護報酬改定で評価する」ことを明言しています。
また(2)に関連して、2018年度から「コンサルティングによりIT化・ロボット導入等による生産性向上のモデル事例を創出し、その横展開に資するようガイドラインを策定する」考えを打ち出しました。
また(4)では、オンライン診療・オンラインでの多職種連携(協同カンファレンスなどをテレビ会議で実施するなど)を推進することで、「患者の利便性の向上」「医療職の働き方改革」が促進されるとし、▼服薬指導、モニタリング等を含めたオンライン医療全体の充実に向けた、2020年度以降の診療報酬改定での対応▼オンライン医療の有効性・安全性等に関するデータ収集と、それに基づく2020年度以降改定での評価▼介護リハビリにおけるICT化に向けた2021年度以降の介護報酬改定での対応▼医薬品医療機器等法改正も視野に入れたオンライン服薬指導の解禁▼在宅医療における医師から看護師・リハビリ専門職・薬剤師等へのタスクシフティング―などを検討する要請されています。
我が国の優れた医療・介護サービスを海外でも展開
また4つめの医薬品・医療機器等の創出、5つめの国際貢献は、医療・介護の高度化を通じて我が国の健康推進を高めることに加え、外国をも市場と見据えて「経済的発展」を目指すものと言えるでしょう。
具体的施策として、▼「クリニカル・イノベーション・ネットワーク」と「医療情報データベース」(MID-NETとの連携▼産学官連携による医療機器開発の重点化と、AMEDによる開発支援の選択・集中▼創薬・バイオをはじめとするベンチャーの支援▼医療系ベンチャーと大手製薬企業等とのマッチングや、知的財産等の専門人材の確保▼がん・難病分野のゲノム医療推進▼AI技術、ゲノム情報等を活用して開発された革新的医薬品等の早期承認▼8K等高精細映像技術の内視鏡や診断支援システム等への応用の実用化▼患者・個人を中心とした、予防から治療後モニタリングまで含めた生活全体の質の向上を目指す総合的なヘルスケアソリューションの創出▼2016年に決定された「アジア健康構想に向けた基本方針」の改訂▼アジア健康構想に基づく、我が国の医療、介護(自立支援・重度化防止等)、予防、
健康等に関連するヘルスケア産業等の海外展開▼メディカル・エクセレンス・ジャパン(MEJ)や日本貿易振興機構(JETRO)等を中核とした医療国際展開▼渡航受診者・外国人観光客受入能力向上の推進―などを掲げています。
このほか、▼病気の治療と仕事の両立に向けて、「主治医と企業の連携の中核となり、患者に寄り添い支援する人材」の養成、「企業・医療機関に向けた マニュアルの作成」、「がんや難病の患者等に対する地域における相談支援体制の構築」等を進める▼オンライン服薬指導は、国家戦略特区の実証等を踏まえつつ、医薬品医療機器等法の次期改正に盛り込むことも視野に検討する―方針も示されています。
- 関連記事
- 女性が働きやすい企業は男性も働きやすい!健康経営は成熟市場を生き抜く経営戦略―経産官僚に聞く(前編)
- 「健康」と「経営」の対立概念が解消した先に、世界が求める経営モデルが完成する―経産官僚に聞く(後編)
- 女性アスリートの健康管理と低用量ピルの正しい服用
- 働く女性と生理~その負担軽減と生理休暇について~
- 定年制の廃止はなぜ難しいのか