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離職率100%を目指す会社の狙いとは (2018/1/31 瓦版

関連ワード : 労働・雇用 

なぜ定着率に全くこだわらないのか…

(株)メイプルシステムズ取締役で人事部長の鴛海敬子氏

<離職率100%>。そう聞くとたいていの人がこう思うだろう。「どれだけブラックなの?」。社員がどんどん辞めていく職場――。そこには、居心地や雰囲気、待遇が悪いなどの良からぬイメージしか湧いてこない。だが、それはどうやら大きな勘違いのようだ。耳を疑う異例の目標を掲げる(株)メイプルシステムズに、その真意を直撃した。

定着率100%が本当に社員にとっていいことなのか、が起点

社員の定着率100%を目指す企業は少なくない。社員が定着するということはそれだけ居心地がいい。居心地がいいから最大限に能力を発揮する。優秀な人材が集まる。会社への帰属意識が強いから、より献身的に働いてくれる…。どうみてもいいことづくめの様に思える。だが、同社の捉え方は真逆だ。

職場のムードは明るく良好。とても離職率100%を標ぼうしているようには見えない…

職場のムードは明るく良好。とても離職率100%を標ぼうしているようには見えない…

「会社と従業員の関係においては、帰属意識が重視されがちです。忠誠を誓うことが、会社への貢献、みたいな部分がありますよね。でもそれって、本当に社員のためになるのか。企業側の価値観の押しつけではないのか…。そうした問題意識が、この離職率100%というメッセージに込められています。会社は、社員のスキルアップをできる限りサポートする。その結果、さらに上を目指して離職となるのも大いに結構。本当の社員のスキルアップ支援を考えたとき、自然に行き着いたのがこのスタイルなのです」と同社取締役で人事部長の鴛海敬子氏は説明する。

企業の価値観押しつけに対するアンチテーゼ

要するに離職率100%とは、売上げ以上に社員がスキルを磨ける環境を優先し、さらに結果として巣立っていくことを容認する制度なのだ。会社は社員を雇ってやっている。社員は会社に雇ってもらっている。そうした関係をハナから否定し、対等に向き合う。どこまでも働く側に寄り添った形が、この離職率100%の真意だ。

従来の会社―社員の関係を覆すこの制度。会社が最初から「辞めていいですよ」とオープンにすると一体、何が起こるのか…。健全に解釈すれば、自分を中心にキャリプランを構築できるということだ。例えば、同社へ中途で入社を検討する人材にとっては、入社前から数年後の自分のことを会社側と話し合える。もちろん、独立や転職についての話をだ。その意味では、同制度は働く側にとって“究極のインターンシップ”といえるかもしれない。

専門知識を持つ担当者(左)が定期的にストレスチェック等を行うなど、職場環境はすぐれている

専門知識を持つ担当者(左)が定期的にストレスチェック等を行うなど、職場環境はすぐれている

成長に飢える人材にとって、理想といえそうな環境を提供する同社。正式稼働に先立ち昨年末、約2か月お試し期間(制度自体は2018年1月10日から正式稼働)を設けたが、その間だけでも通常の10倍の応募があったといい、同制度は早くもエンジニア人材のハートをガッチリと捉えている。

逆張り採用で入社した社員が明かすその魅力

トライアル中に応募し、現在社員として活躍するある社員は、その経緯をこう明かす。「前職で将来的に起業を考えていました。ただ、このままここにいても成長できないと感じていました。そんな時、『離職率100%』という文言をみて、それなら面接で辞めることを公言しても大丈夫と思い、すぐに応募しました。コレだ、と思いましたね」。ビジョンにほれ込んだ同氏は、なんと離職して面接に挑み、わずか15秒で採用を勝ち取っている。

現在、社内エンジニアとして活躍する同氏は、会社側と話し合い、キャリアプランとして2年後の離職を設定。スキルを磨きつつ、自身の夢である起業へ向かいイキイキと働いている。鴛海氏が解説する。「離職率100%を目指していますので、社員とは毎月キャリアプランを確認しています。ちゃんと目標へ向かえているのかをチェックすることで、方向性にぶれがないことを定期的にすり合せることで社員が着実に成長し、離職できることを後押しするためです」。徹底して社員の成長にコミットする姿勢は、神々しささえ感じさせる。

離職率100%はSES変革への布石

もっとも、育て上げるといっても、充実の研修や教育システムがあるワケではない。エンジニアを、必要な期間クライアントへ提供する常駐型技術支援サービスのSES(システムエンジニアリングサービス)をベースに社員へ案件をあてがう同社。その判断を会社都合でなく、可能な限り社員の希望をベースに常駐先をアサイン。あくまで社員のキャリアプランに合わせた案件へのマッチングを実現することで、実践を通してそのスキルアップをサポートする。

離職率100%を目指す狙いを明かしてくれた採用担当の鴛海氏

離職率100%を目指す狙いを明かしてくれた採用担当の鴛海氏

「私どもはともすれば会社都合で案件をあてがいがちなSESを変えたいという思いも持っています。社員が向上させたいスキルを磨ける案件を適切に選別し、そこへ的確にアサインすることでその成長を後押し。報酬についても可能な限り社員の取り分が多いよう配分し、評価は人の主観をできる限り排除しています」と鴛海氏。まさにフリーランスの自由さと正社員の安定のいいとこどりのようなシステムで、同社は働く側にとって理想に近い環境を提供している。

辞めることが前提の採用で拡がる労使関係の可能性

売上げを犠牲にしてまで社員の成長を優先するとなれば、逆に経営の心配もしたくなる。だが、案件は豊富にあり、人材は多ければ多いほどいい。そもそも、社員とは“完全円満”で離別するので、離職後もそのつながりが途絶えることはない。情けは人のためならず、ではないが、離職率100%は同社にとって、ネットワークの拡大でもあり、デメリット以上に多くの恩恵をもたらす。それこそが同社が同制度を導入する最大の理由といえるだろう。

強烈でネガティブな印象ばかりが先行する離職率100%という目標。同社がビジョンとして「逆張り」を掲げているからこその取り組みだが、結果的にエンジニア最優先になっているというのがポイントだ。つまり、従来の働き方は、エンジニアにとって何かと不都合が多いということの逆説的な証明でもあるということだ。こうした発想が生まれるのは、同社代表が現役のエンジニアであることも、大きく影響しているだろう。

経営側にとって、社員より利益優先となるのは資本主義である以上仕方がない側面はある。だが、その結果、働く側の成長が阻害され、キャリア設計が委縮し、人材として価値を上げられないとすれば、働く側にとって片翼をもがれたも同然で不幸でしかない。働き方改革はそうした状況の改善も担うが、働く個人の幸福までには結び付きづらい。一方で同社の取り組みは、大胆にみえて現場を軸にしており、劇薬並みの有効性が期待できる。会社と従業員の関係を根底から覆す同社の取り組み。果たして、それがどんな成果を生み、そして外部へも波及していくのか注目だ。

<SES>システムエンジニアリングサービス。ソフトウェアやシステム開発、保守・運用などの業務運営に必要なエンジニア(技術者)を、必要な期間提供するサービス。派遣と似ているが、SESでは指揮命令系統が派遣先でなく所属企業となる。

【会社概要】
設立:2009年4月
従業員数:正社員40名
主な業務:技術者常駐型の技術支援サービス(SES)
システム開発における技術教育・コンサルタント
iPhone(iOS)・Android端末向けアプリケーションの企画・デザイン・開発・運営・販売・保守
PC・スマートフォン向けサイトの企画・開発・運営・保守
ロゴ制作、名刺、カタログ、封筒、フライヤーなどの印刷物デザイン制作
各種セミナー運営(就活生・技術者教育)
URL: http://www.maplesystems.co.jp/

提供:瓦版

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