働き方改革の目的達成において副業が果たす重要な役割と企業の反応 (2017/12/26 nomad journal)
働き方改革実行計画の中で「労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業を普及促進」との方針が出されました。一般的な労働慣行とは異なる方針です。副業に関する否定的な見方と肯定的な見方について、また副業によりどんな影響を受けるかを考えます。
働き方改革の中の副業の位置づけ
基本的に副業は解禁を奨励
平成29年3月に政府は働き方改革についての具体的な内容を働き方改革実行計画として定め、ホームページに公開しました。この中で副業については、第5章の「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の部分ではっきりと記述されています。
最初の囲みの部分を引用すると、「テレワークは時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となる。副業や兼業は新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、第2の人生の準備として有効」となっており、副業に対し非常に高い評価をしていることが分かります。
ただし、この文には続きがあります。そこでは、「他方、これらの普及が長時間労働を招いては本末転倒。労働時間管理をどうしていくかも整理することが必要。ガイドラインの制定など実効性のある政策手段を講じて、普及を加速」とあり、本業と副業を合計した場合の懸念についても盛り込まれています。
政府は副業によるリスクも把握しつつも原則として解禁を奨励しており、副業の効果に対して非常に期待を寄せていることがわかります。
就業規則の条文にも反映
働き方改革実行計画内第5章の「副業・兼業の推進に向けたガイドライン等の策定」の中で、就業規則についても言及されています。そこには、「副業・兼業を認める方向でモデル就業規則を改定」と記載されています。一方、厚労省が公開している「モデル就業規則」の2016年3月版を見ると、服務規律の第11条6項に「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」との定めがあります。
この2つを比較するとこれまでは一般的には副業は禁止されてきたが、それが原則として副業を容認するよう変化してきているということがわかります。
従来の多くの企業は否定的な見方
否定的になる理由とは
ではなぜ、企業は副業を禁じるのでしょうか。大きく2つの理由が考えられます。1つは競合他社で副業することによる情報流出を防ぐためです。経験があるということで競合他社に勤務する可能性はゼロとは言えません。
もう1つは本業に支障が出ることを恐れるためです。週末だけ、というような場合であればあまり心配しなくて良いかもしれませんが、本業の勤務時間が終わってから副業をしているという方がいると、会社としては疲労の度合いなどが気になってきます。
なお、前述の働き方改革実行計画では「これまでの裁判例や学説の議論を参考に、就業規則等において本業への労務提供や事業運営、会社の信用・評価に支障が生じる場合等以外は合理的な理由なく副業・兼業を制限できないことをルールとして明確化」とのガイドラインが示されています。原則としては副業解禁ですが、本業への支障がある場合は例外とするという意味です。ですから、副業に否定的な見方がこれまで大半を占めていたとしても、驚くには当たらないのです。
働き方改革の目的に逆行する可能性もある
前述の働き方改革実行計画には「他方、これらの普及が長時間労働を招いては本末転倒。労働時間管理をどうしていくかも整理することが必要。ガイドラインの制定など実効性のある政策手段を講じて、普及を加速」との記述もあります。
この記述から、副業を容認すると長時間労働を助長する危険もある、ということを政府が認識していることがわかります。
対策として同じ実行計画では、「長時間労働を招かないよう、労働者が自ら確認するためのツールの雛形や、 企業が副業・兼業者の労働時間や健康をどのように管理すべきかを盛り込む」と記載されています。
例えばスマホのアプリなどで時間管理ができるようになるのかもしれません。いずれにしても本来の趣旨からずれないよう、進める必要があります。
好意的な見方をする企業もある
本業にも良い影響が出るとの見方がある
上記のように情報漏えいや本業への支障、長時間労働などのデメリットへの対策が必要なのに、それでも副業を解禁するメリットはどこにあるのでしょうか。仕事に直結する点として、副業を通してスキルアップすることができます。これは働き方改革のポイントの1つである、労働生産性の向上に寄与します。
本業に関係のある副業であれば効果はもちろん期待できますが、全く関係のない業種でも本業と結び付けてイノベーションを生む可能性がありますので、必ずしも本業とリンクしていなくても企業にとってプラスになる可能性は十分にあります。
労働者本人への良い影響
労働者本人としては自分の進む道を自ら選んでいるわけですから、満足度も高いはずです。もし副業の解禁によりストレスをため込まないようになり、メンタルヘルスに役立つなら、休職や離職を未然に防ぐ効果も期待できるかもしれません。
前述の働き方改革実行計画には「副業・兼業を希望する方は、近年増加している一方で、これを認める企業は少ない。労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業を普及促進」との文言があります。
この中に「労働者の健康確保に留意しつつ」とあるように、副業をしたために健康を損なう結果となっては非常に残念です。むしろ副業を始めて生き生きとし始めるような、そのようなものとして活用して行きたいものです。
公務員の副業は評価されるか
公務員にも副業の波が押し寄せています。その一例として神戸市を挙げてみましょう。神戸市では社会性や公益性が高いといった独自の基準により、NPO法人などでの副業を許可することになりました。
公務員ができる副業と言えば、これまでは不動産投資や駐車場経営、家業の農業の手伝いくらいでしたので、本業以外で収入を稼ぐことに違和感を感じる人もいるかもしれません。ですが異なる組織での勤務経験は、本業の公務員としての業務に役立つことでしょう。
特に公務員独特の組織内でのしがらみというのでしょうか、「縦割り組織で横のつながりがない」などと批判されています。しかし、個人レベルで他の組織での勤務経験を積むことで、国や地方自治体の組織を良い方向に変化させる力が蓄えられる可能性もあります。
副業の解禁により、働き方改革に拍車がかかる
多様な働き方のできる社会
副業を認めるということは、会社にとっても慎重な判断が求められるところです。ということは副業が許される会社というのは、おそらく全体的に柔軟な働き方を認めている職場になっているはずではないでしょうか。
そのような会社が増えれば、より多くの人が労働市場に参入できるようになるでしょう。時間も場所も多様な労働が可能になれば、ワークライフバランスもとりやすくなります。また、いろんな事情を抱えた人々が可能な範囲で労働し、家庭での責任を果たし、生活の質の向上を目指せるようになることが期待されます。これは働き方改革のもう一つのポイント、労働力人口の増加につながることでしょう。
パラレルキャリアの構築
副業に関する語句として押さえておきたいものに「パラレルキャリア」というものがあります。これはあのピーター・ドラッカーが提唱した概念で、本業を持ちながら第二のキャリアを築くことを意味します。
これを構築するためには、何らかの形で本業に結び付けることを意識した社外活動を選ぶ必要があります。もちろん、すべての副業がパラレルキャリアにつながるわけではありません。ですが、本業に結びつくような副業をあえて選択することでスキルアップできれば、一層生産性の高い労働者になることができます。これは働き方改革の目的に合致するものです。
「いつから副業OK」なのか?
2017年12月にモデル就業規則の改定案が厚労省の検討会で公表されました。このモデル就業規則は企業が就業規則を作成する際の見本として用いることができるものです。もちろんそのままではなく、個々の事情に応じて調整しなければなりませんが、どのような項目を網羅すべきかを押さえておくために必要です。
また、就業規則は労働基準監督署に提出するものですが、その窓口において内容を確認される担当者は、当然このモデル就業規則を念頭に置いていますので、無視することのできない資料となっています。そのモデル就業規則に、副業解禁の文言を入れようという改定案が出されました。
具体的には副業を禁止できる理由を「(1)労務提供上の支障がある場合、(2)企業秘密が漏洩する場合、(3)会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合、(4)競業に当たる場合」に絞り、これらに該当しなければ原則許可することになっています。このように具体的な形になっていることは、副業解禁が間近に迫っている証拠です。引き続き、動向を見守る必要があります。
まとめ
副業を単なる収入アップの手段として捉えるのはもったいないです。知識を深め、スキルを磨くチャンスでもあるのです。そのためには、本業と相性のいい副業というものを探す必要があります。一番楽なのは本業で勤務している企業自体が幾つかの副業を推奨してくれることですが、従来の慣行を考慮するとそこまで企業が寛容になるのはまだ先のことでしょう。
ただ、働き方改革実行計画で「副業・兼業を希望する方は、近年増加している一方で、これを認める企業は少ない。労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業を普及促進」と定められているように、全国的な副業解禁の流れが止まることはなさそうです。自分はどうするのか、どうしたいかをよく吟味しておきましょう。
執筆者:木本 こかげ
社会保険労務士。翻訳家。専門知識を背景に社会保険・労働保険・助成金・年金に関する記事を多数執筆。「日本語力」を生かして就業規則・契約書・医学論文・機械取扱説明書・オンラインゲームシナリオの英文和訳を多数手がける。
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