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Ruby生みの親と面白法人が語る“東京に負けない”生き方―OFF TOKYO MEETUP 2017 (2017/11/16 70seeds

シビレる環境で最高の技術を―。シビレ株式会社が目指すのは「都会」と「地方」の垣根を越えて、モノやヒトが自由に行き来する社会だ。同社が主催する“東京にこだわらない働き方”を体感するイベント「OFF TOKYO MEETUP 2017」が、11月11日に都内で開催された。70seedsを運営する株式会社am.も、TEAM OFF TOKYOの一社として参画している。

イベントでは、地方に拠点を置く企業やIT先進自治体によるブース出展だけでなく、プロレスリングZERO1の選手によるタッグマッチや「ご当地お酒フェス」、イノベーションの火を起こすエンジニアによるプレゼンテーションなどで盛り上がりを見せた。

本記事では「地域を変えたイノベーター対談」として行われた、プログラミング言語「Ruby」生みの親・まつもとゆきひろ氏と、面白法人カヤック代表の柳澤大輔氏によるトーク内容を紹介する。ファシリテーターは、前衆議院議員の宮崎謙介氏。

OFF TOKYO MEETUP 2017

時間がゆっくりと流れている地域の暮らし方

――まつもとさんは島根県に移住して20年、柳澤さんは鎌倉に本社を置いています。どのような経緯で拠点となる地域を決めたのでしょうか? (宮崎さん、以下省略)

まつもとさん:昔から東京が嫌だったので、20年前は名古屋に住んでいましたが、当時働いていた会社が東京に拠点を移すことになり、みんな引っ越したんです。

私は東京が嫌だったので、転勤を拒否したんですよ。だから週に1度東京で打ち合わせして、名古屋で他のチームの一角に机を借りて開発していました。でもやっぱり居心地が悪かったので、キリが良いタイミングで転職しようと考えていたときに、友人の友人が島根で起業するという話を聞きました。

その会社が、今フェローを務めているネットワーク応用通信研究所(NaCl)です。20年前にLinuxやフリーソフトウェアの開発で起業するのは、全国を探してもほぼなかったので、島根県への移住を決めましたね。隣の鳥取県出身で実家が近いというのもありましたが、別に「島根県を愛しているから」という思いがあったわけではありません(笑)。

柳澤さん:私は出身が鎌倉でも何でもなく、鎌倉に何か原体験があったわけでもありません。だから直感的に選んだ部分が大きいのですが、鎌倉の魅力は、行政も発信していますが「歩いていける距離に、山や海、文化的資産が全て詰まっている」ところです。そういう場所は、なかなかない。働く場所も観光地もあって、東京も近い……。近い距離にいろんなものがあるのが魅力的だったのかもしれません。

――日々の暮らしも皆さんの気になる点だと思うのですが、どうですか?

まつもとさん:PCがあれば、どこでも仕事ができるので、基本的には家で仕事をしています。荷物が届いたり、打ち合わせがあったりと用事があれば会社に行くこともありますが。だから、奥さんからは「また家にいる」と言われていますね(笑)。あまり移動が好きではないのですが、講演やイベントも多いので週1回ほど東京にも来ています。

柳澤さん:日々の暮らしは、東京とほとんど変わりません。ただ海や山が近いので、朝散歩したり、サーフィンしてから出社する人は多いです。働き方という観点では、地方は時間がゆっくり流れているので、ランチが2時間になるみたいなことも珍しくありません。

――子育てや家族との過ごし方は、何か変わりましたか。

まつもとさん:名古屋にいるときは幼稚園に全然入れなかったのですが、島根だと「どうぞどうぞ」みたいな感じでしたね。小学校も30人×2クラスと少人数だったので、子育てという視点では非常に良かったかなと。家賃も安くて、10年前は築50年8LDKの家に月6万円で住んでいました。今住んでいる地域には、温泉街も近くにありますしね。

柳澤さん:近くに山と海があるので、子どもはおおらかに育った気がします。でも鎌倉も待機児童の問題があるので、鳩サブレーの豊島屋さんと保育園をつくろうとしていて、来春開園に向けて準備を進めています。他にも、鎌倉で働く人が交流できる社員食堂や社員寮などの運営を計画していますね。

Rubyを中心とした地域振興に取り組んだ島根

――お二人は、地域活動にも取り組まれていると聞きました。

まつもとさん:私が島根県の松江市に移住して10年くらいたったとき、市役所の方が会社を訪れて「地域振興のためにRubyを活用できないか」とおっしゃったんですよ。

最初は「本気か?」と、耳を疑ってしまいました。確かにRubyを作り始めたのは私ですが、開発のコアメンバーである「コミッター」は、松江市に数人しかいません。だからRubyは松江市のものとは言い難いですし、プログラミングを中心とした地域振興とかあまり聞いたことがなかったんですよね。でも市役所の方が、本気だったんです。

「Ruby」生みの親である、まつもとゆきひろ氏

「Ruby」生みの親である、まつもとゆきひろ氏

島根県は過疎最先端みたいな地域だったので、市役所の方は危機感を持っていました。そこで地域でも可能な産業振興は何かと考えたときに、ITに力を入れようとなってNaCLに話を聞きにきたそうです。聞いたときは不安でしたが、市役所の方が成功するかも分からない前例のないことに挑戦するのはよっぽどだと思ったので、お手伝いすることに決めました。

それ以来、松江市でRubyに関するイベントを開催したり、技術者の育成を行ったりする中で、島根県に30社以上のIT企業が進出するといった成果が出てきました。これまでは島根県とITを結び付けて考える人はゼロだったと思いますが、徐々にRubyやITといった文脈で認知されるようになったので、自治体のPRとしては成功したかなと。

柳澤さん:私はまず会社のことについて説明したいと思うのですが、カヤックは経営理念の「つくる人を増やす」を特に大事にしてきました。この理念は、面白法人の定義を突き詰めていて、どうやったら社員が会社を面白がれるかと考える中で生まれました。

結局、会社をつくる側になると面白いんですよ。やらされてる感があると面白くない。主体的になれるかは本人次第な部分が大きいですが、会社としては工夫できるだろうということで、なるべく社員にも“つくる側”になってもらおうと、さまざまな制度を考えています。

つくる側になると面白いのは、おそらく地域の活動でも一緒です。自分でつくっている感覚があると、住んでいる地域が大好きになるし、主体的になるんですよね。

鎌倉で「みんなでつくる花火大会」を開催

――地域活動の中でも、つくる側になるために何を行いましたか?

柳澤さん:カヤックでも社員が増えた時期に行ったことなのですが、ブレーンストーミング(ブレスト)です。ブレストは皆さんもやられたことあると思いますが、アイデアを出す会議ですね。つくる側の課題を設定してあげると、自然とつくる側の思考になるんですよ。

例えば、会社でいうと「どうやって採用スピードをあげるか」みたいな。会社の抱えている課題でブレストすると、疑似的に会社のことを自分事化して考える訓練になります。

このブレストを地域活動に生かしたのが、鎌倉が拠点の企業で設立した「カマコン」です。地域活動をしていて、課題を解決するためのブレストを行うと、やる気も高まりますし、手伝う人が増えるので良い循環が生まれる。地域の課題が、自然と自分事になるんです。

ブレストについて、もう少し細かく言うと“体質が変わる”ような感じです。アイデアを出すことに脳がフォーカスするので、原因を追究することとは別の脳の使い方になります。とにかく数を出すことを目指すので、役に立たないアイデアも多くなりますが、誰かの責任を追及するとか、そういう思考になりにくくなる。自然と発想が前向きになる。

――地域の方々は、最初からブレストできるものなのですか?

柳澤さん:最初からすぐには皆できませんが、すぐできるようになりますよ。身近な地域課題をブレストすることから始めました。そこにはカヤックの社員も協力しましたね。

面白法人カヤック代表の柳澤大輔さん

面白法人カヤック代表の柳澤大輔さん

「カマコンは素晴らしいものだな」と実感することは数多いのですが、印象的なエピソードが一つあります。2017年は68年間続いていた鎌倉の花火大会が、諸事情により一度は中止になりました。でも中止に対して惜しむ声が多かったので、民間主導の実行委員会が設置され、開催費用の一部をクラウドファンディング(協力者数609人、1132万6000円の資金が集まった)で集めるなどして、協力してやり遂げたんです。その過程でも、非常にカマコンのメンバーが活躍していただきました。

結果的にボランティアの数は前回の10倍以上、せっかくなので全体のテーマも「みんなでつくる花火大会」となりましたね。ちなみに、今カマコンは23の地域に広がっていて、人口9000人弱の長野県白馬村なんかでも行われています。

スキルの向上は、どこに住んでいても変わらない

――東京に情報や人材が集中していて、地方への移住にネガティブな思いを持っている方も多いと思います。お二人は、地方でもスキルや市場価値は高められると思いますか?

まつもとさん:まず東京にいたい人は、いればいいと思っています。東京が嫌なのに、東京にいなければいけないと思ってしまうことが嫌だなと。純粋に効率だけを考えると、狭い距離に皆がいて、会いたいときにすぐ会える東京の距離感が一番良いかもしれません。でもその効率は、誰のためなのかという気がするわけです。私たちは組織の歯車ではないですし、組織が生産性を高めたとしても私たち自身が幸せになれるとは限りません。

そう考えて、私は島根県に移住しました。講演やイベントの打ち合わせで、顔と顔を合わせないと安心できないという謎の要求をされるなど、東京に縛られていると感じることはありますけど。こんな理不尽は嫌なので、私を仕事で呼びたかったら交通費を出してくれ、それくらい本気でなければ呼ぶなという意思表示も含めて地方に暮らしています(笑)。

スキルが身につくかという視点でみると、ソフトウェア開発という業界はタイムラグがないと思います。人と顔を合わせて勉強会をしなければ身に付かない人もいると思いますが、必要なのは自分の頭で考えることです。だから、東京に住んでいても島根に住んでいても変わりません。さらに言うと、私の場合はRubyですが、自分から情報発信できて主戦場にできる分野があれば、どこに住んでいたとしても価値を見いだしてもらえると思っています。

――中には「まつもとさんだからできる」と言う人もいそうです。

まつもとさん:もちろんそれはあって、100人やって100人できると言うつもりはありません。ですが、やりもしない人には言われたくないと思っているんですよね。

――柳澤さんはどうですか?

柳澤さん:東京を追いかけるのではなく、地域を面白くするためには何をしたらいいか考えなければいけないと思っています。目で見えない魅力やつながりを含めて価値を伝えられる地域づくりをしなければ、良さが伝わらないのではないかと思っています。

――ありがとうございます。最後に一言メッセージをお願いします。

まつもとさん:我慢するのではなく、どうしたら自分が楽しくなれるかを考えて、ライフステージをデザインできたら良いなと思います。私の場合、その結果が地方への移住でした。皆さんも一人一人が「こういう生き方が良い」というのを見つけてほしいです。

柳澤さん:先ほども述べた通り、つくる側になるともっと楽しくなります。行政の方も移住者をつくる側に巻き込んだらよいと思いますし、移住する方も地域をつくる側になるともっと楽しめると思います。つくる側になるためには、カマコンのブレストフォーマットは非常に有益です。見学も受け付けているので、ぜひ一度遊びに来てください。

提供:70seeds

WRITER 
庄司智昭

庄司智昭
ライター/編集者。2017年7月から、70Seeds編集部に所属。「地方」「働き方」「テクノロジー」などの取材を通して、“生き方”を考えています。誰かの挑戦の後押しになってくれると嬉しいです。

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