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人材育成は漢方治療―鳥取・研志塾で“地域観”を身につけよう (2017/11/14 政治山)

 鳥取県と日本財団が進める地方創生プロジェクトの一環として、1期目となる「研志塾」が2017年5月から9月にかけて行われました。命名の由来は幕末の私塾にあるという同塾の講師で、日本財団の鳥取プロジェクトのアドバイザーを務める長浜洋二PubliCo代表取締役CEOにお話をうかがいました。

――「研志塾」設立の背景をお聞かせください。

 日本財団は鳥取県において、交通、健康づくり、障害者の社会参画、人材育成の4つを事業の柱として、“暮らし日本一”を目指しています。研志塾はそのうちの人材育成にあたる事業の1つで、「地域のために何かをしてみたい」「でもどうしていいのか分からない」という方のために、設立しました。

 近年はソーシャルビジネスなどへの関心も高く、地域で起業する人も増えていますが、地域課題に対する取り組み方は人それぞれ異なります。職に就いている人がいきなり仕事を辞めて起業するのは難しいでしょうし、それが正解とも限りません。社会人も学生も、今置かれているさまざまな立場から、無理なく自分のペースで関わることのできる“地域観”を身につけてほしいと考えています。

 名称は、幕末の時代、鳥取藩主池田家に仕えた儒学者、正墻適処(しょうがきてきしょ)の始めた私塾に倣っています。同塾は藩の内外から学生を集め、明治維新の際に大きく貢献したことで知られているのですが、現代の研志塾を鳥取県に再び起こしたいと考えました。

長浜洋二PubliCo代表取締役CEO

長浜洋二PubliCo代表取締役CEO

――今回の参加者と、プログラムについて教えてください。

 自治体職員や学生、地域おこし協力隊の隊員から移住してきた人まで、幅広い人材が集まりました。男女比は半々で、若い世代中心ですが50歳過ぎの方もいました。自治体職員をはじめとして、従来から地域貢献に意欲のある方が多くなりましたが、やはりそういった方々は仕事を辞めて起業するというよりは、仕事以外の時間をどう使うか、または今の仕事にどう生かすかといった視点から学びに来ていました。

プログラムは、以下の通り全8回にわたって行われました。

  1. 個人として身につけておくべき視点や考え方を学ぶ「個人編」(3回)
  2. 組織編の導入部となるチームビルディングのワークショップ(1回、合宿)
  3. 個で考えたことを組織で動かしていくために必要な視点や考え方を学ぶ「組織編」(3回)
  4. 学びの振り返りとこれからの取り組みの個人発表を行う最終報告会(1回)

 個人編ではコミュニケーションやデータの扱い方を通じて個人スキルの向上を図り、組織編ではビジョンやミッション、事業づくりからマーケティングまで、さまざまな角度から地域課題に向き合いました。また、山間部の廃校をリノベーションした施設で1泊2日の合宿を行ったチームビルディングでは、「貿易ゲーム」などのワークショップを繰り返し、政策提言などのアウトプットにも挑戦しました。

 最終報告会には幕末の研志塾創始者の子孫の方が見学に来られるサプライズなどがありましたが、全体を通して、自分自身の地域への思いを整理する場として、それぞれが地域づくりへの関わり方を見直す機会となったと思います。

――1期目を終えて、反省点や課題はありますか?

 出口をどうするか、という議論はこれまでも重ねて来たのですが、やはり発表で終わるのではなく、実践に一歩踏み込むところまで持っていきたいですね。今後は、自治体やNPOだけでなく学校や企業も巻き込んでいきたいと考えています。加えて、自治体職員向けの研志塾、学生向けの研志塾といったように、それぞれの立場に合わせてカスタマイズしたプログラムにしていきたいと考えています。

 人材育成は、目に見える成果がすぐに出るものではなく、漢方治療のようなものです。短期ではなく中長期的な計画で事業を展開していく必要があるからこそ日本財団のような民間による支援の意味があると思います。

「研志塾」の様子

「研志塾」の様子

――これからの展望についてお聞かせください。

 つい先日発表したのですが、鳥取プロジェクトと慶應義塾大学SFC研究所の社会イノベーション・ラボが共同で、地域における自発的な協力活動が生まれる根底にある人々の「つながり」に着目した「つながりの豊かさ指標」を開発しました。

 開発に際して、「県民(3000人)」「NPO法人・広域的地域運営組織(388組織)」「行政担当者(19市町村)」を対象とした「質問紙調査(つながり要因の重点化調査)」を実施したのですが、重要度と実現度を組み合わせた“期待度”を算出したところ、高かったのは「子どもたちに『帰ってこい』と言える地域であること」と「がんばる若者を応援すること」でした。

 調査の詳細はソーシャルイノベーションフォーラム※で紹介があると思いますが、思い切って若者にフォーカスした取り組みを加速させていくことも検討すべきですし、研志塾を通じて“地域観”を身につけた人々が地方創生の担い手となり、そのつながりが地域を活性化させていくように取り組みを継続していきたいと考えています。

――最後に、ソーシャルイノベーションフォーラムの分科会について一言お願いします。

 人口縮小と超高齢化といった課題の先進地である鳥取県では、平井知事を先頭に、その“小ささ”を最大限に活用して地域課題の解決に取り組んでいます。行政だけでなくNPOや住民を巻き込んだ課題解決のあり方や、人と人とのつながりに着目した新たな評価指標は、これからの地域づくりにおける新しい視座を得るのに、大いに役立つと思います。

◇         ◇

※日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム
2017年11月17日~19日、東京国際フォーラムにて開催
分科会Collaboration4 鳥取:人口最小県からの挑戦

11月18日(土)10:00~12:00
登壇者
平井伸治 鳥取県知事
齊藤浩文 (株)鳥取銀行ふるさと振興本部副調査役、(一社)まるにわ代表理事
長浜洋二 PubliCo代表取締役CEO
貝本正紀 (株)アマゾンラテルナ鳥取大山オフィス代表・総合プロデューサー、大山テレビ部代表
玉村雅敏 慶應義塾大学総合政策学部教授
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