育児休業期間が延長!?~平成29年法改正~ (2017/9/29 企業法務ナビ)
はじめに
平成29年3月31日に成立した「雇用保険法等の一部を改正する法律」において、育児休業に関する法改正が行われました。
まず、(1)育児休業期間が最長2歳まで延長できるようになり、育児休業給付の支給期間も延長されました。また、(2)育児休業取得の制度の周知が努力義務が規定されています。更に、(3)一定条件の下、育児目的に利用できる休暇制度を企業が創設する努力義務が新設されることとなりました。
こうした流れの中で、企業の法務部としてはより一層育児休業を取り巻く環境を整備していくことが求められます。
今回はまず最も重要な改正点といえる、育児休業期間と育児休業給付の支給期間の延長について詳しく見ていきたいと思います。また、努力義務規定のもつ意味についても確認していきましょう。
育児休業と企業に課される罰則
はじめに、育児休業について見ていきます。育児休業とは、労働者が原則として1歳に満たない子を養育するためにする休業、と定義されています。1歳までの子を養育し、育児のために休業することを希望する労働者から申出があった場合は、企業は育児休業申出書に記載された期間の休業を取得させなければなりません。育児休業は要件を満たせば、企業に育児休業の規定がなくても取得することが可能です。
仮に育児休業の申出を拒否した場合、育児休業法に違反しているとして、厚生労働大臣や都道府県労働局長が事業主に対して、報告を求め、または助言、指導もしくは勧告を行うことができ、その勧告を受けた事業者がこれに従わなかった時は、その旨を公表することができます(育児介護休業法56条、56条の2、58条)。また、この場合に報告をせず、または虚偽の報告をすると20万円以下の過料が発生することになります(同法66条)。
努力義務規定の持つ意味
次に、努力義務規定とはどのような意味を持つ規定なのかを見ていきたいと思います。
努力義務規定は、例えその規定に反する行為をしたとしても、違法・無効という法的な効果を生じさせる性質のものではありません。基本的に当事者の任意的・自発的な履行に期待するというものです。
しかし、努力義務規定であっても具体性のあるものは、その規定の持つ目的への世間の関心が高まり強制的規制が望まれると、強行規定化される可能性があります。強行規定化されると、仮に規定に違反した場合、罰則が生じる可能性が出てきます。したがって、努力規定だからといって軽視するのではなく、早いうちから社内制度の整備を進める必要があります。
今回の改正で何が変わったのか
それでは、具体的に、今回の改正で何が変わったかについて見ていきましょう。
(1)の育児休業期間について、改正前の法律は、育児休業期間が原則として「1歳」までのところ、子が1歳に達するまで保育所に入れない等の場合に、例外的に「1歳6か月」まで延長できるというものでした。
しかし、保育所への入所が一般的に年度初めであることから、例えば、延長した6か月の間に年度初めが訪れないとそれまでの間、保育所に預けられず、かつ、育休も取得できないという状態になってしまうという問題がありました。
そこで今回の改正で、「1歳6か月」に達した時点で、保育所に入れない等の場合は再度申請することにより、育児休業期間を「最長2歳まで」再延長できることになりました。これにより、前述の問題点は完全に解消されました。
また、育児休業期間の延長に伴い、育児休業給付の支給期間も延長されました。
続いて、(2)(3)の努力義務規定としては、まず、労働者やその配偶者が妊娠・出産した場合、企業が個別に育児休業・介護休業に関する定めを周知することに努めるとした、育児休業制度等の個別周知という規定が整備されました。もう一つは、小学校就学前の子を養育する労働者が育児のために利用できる休暇制度を、企業が設けることに努めるとした育児目的休暇の新設です。前者は、育児休業を取得しなかった理由の回答として一定数あった「育児休業を取得しにくい職場の雰囲気」を解消するために改正されました。後者は、特に男性の育児参加を促進するために新設されています。
コメント
近年、ワークライフバランスの重要性が謳われ、仕事と子育ての両立が社会の重要な関心事となってきました。その影響で妊娠出産で仕事を辞める人はだいぶ少なくなっています。実際に女性の育児休業の取得率は81.8%と高い数値が示されており(厚生労働省「平成28年度雇用均等基本調査」)、今回の育児・介護休業法、雇用保険法関係の改正で、今後ますます育児休業を取得して仕事と子育ての両立を実現する人が増えていくでしょう。
しかしながら、一方で未だ男性の育児休業の取得率は3.16%という低い水準であり、女性であっても30人未満の事業所では68.9%と、中小企業においては大企業に比べ未だ育児休業が取りにくい状況にあるといえます(前述資料)。
性や年齢に関わらず誰もが意欲と能力を発揮して労働市場に参加し持続可能な社会を実現していけるように、企業としては子育てと仕事が両立できる環境をこれまで以上に充実させていくことが望まれます。
その中で企業の法務部としては、不当に育児休業の申出を拒否しないような環境作りに努める必要があります。具体的には、企業が育児休業を不当に拒否してしまわないように、育児休業取得の要件と判断基準を明確化・制度化しておくことが考えられます。
加えて、育児休業制度の周知をしていく必要もあるでしょう。具体的には、妊娠した労働者から報告があった場合、産前産後休業・育児休業の案内や手続などを説明したり、妊娠した労働者の配偶者から報告があった場合にも、妊娠した本人でなくても育児休業が取得できる制度があることを紹介していくと、労働者側としても育児休業に関し理解が深まります。そのため、こうした周知がスムーズに行われるように、妊娠等の報告があった場合の企業としての対応を手続として規定しておくことが考えられます。
また、今回努力義務とされた育児休業制度等の個別周知と育児目的休暇の新設についても注意を向けて、できるだけ早いうちから社内制度が整備されるように関係部署に働きかけていく必要があるでしょう。
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