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セコムに債務不履行認定、債務の本旨に従った履行とは (2017/6/20 企業法務ナビ

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はじめに

窃盗犯が店舗に侵入した際にセキュリティシステムの作動が間に合わなかったとして、中古ブランド品店の経営者が警備会社大手セコムと保険会社に対し賠償を求めた訴訟で東京地裁はセコムの債務不履行を認める判決を言い渡していたことがわかりました。今回は債務不履行責任の要件について見ていきます。

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事件の概要

日経新聞電子版等によりますと、2012年12月16日未明、都内の中古ブランド品店に覆面をした二人組の犯人がバールを使って侵入しました。一人はショーケースを壊し、もう一人が高級時計などを盗んでいくという方法で、犯行時間は約1分程度のものでした。同店舗はセコムと契約しており、泥棒などが侵入した際にはセコム社員が監視カメラで確認し、遠隔操作で大きな音と白煙を生じさせ撃退する手筈となっておりました。

しかし実際にセキュリティが作動し白煙が噴射されたのは犯人が逃走してから40秒後のことでした。セコムの基地局職員が別の事案への対応で画像確認が遅れたとのことです。同店経営者はセコムと保険会社に対し債務不履行による損害賠償を求め、東京地裁に提訴していました。

債務不履行責任とは

債務者が「債務の本旨に従った履行」をしないときは、債権者はそれによって生じた損害の賠償を求めることができます(民法415条)。また一定の要件のもとで契約を解除することもできます(541条)。損害賠償を請求する場合の要件としては(1)債務の本旨に従った履行がないこと、(2)債務者の帰責性、(3)履行しないことが違法であることが挙げられます。帰責性とは債務者の故意・過失および信義則上これと同視できるものを言います。

違法であることとは、同時履行の抗弁権(533条)や留置権の存在(295条)などの履行しないことを正当化する理由が存在しない場合を言います。契約を解除する場合はこれらに加えて、「相当な期間」を定めた履行の催告と解除の意思表示が必要となってきます。

不法行為責任との違い

債務者の債務不履行があった場合、一般的には不法行為にも該当する場合あります。この場合にはどちらに基づいて損害賠償請求することもできますが、要件等に一定の違いが存在します。不法行為の場合の要件としては、(1)権利・利益の侵害、(2)故意・過失、(3)損害の発生と因果関係、(4)責任能力等となっております。

債務不履行との違いとしてまず債務者の過失の存在を立証する責任を原告側が負っているということです。債務不履行の場合はその時点で原則的に債務者に過失があるからです。そして時効期間にも違いがあり、債務不履行は10年(167条1項)、不法行為は損害と加害者を知ってから3年、発生から20年となっております(724条)。

債務の本旨に従った履行とは

それでは「債務の本旨に従った履行」とはどのようなものでしょうか。この文言は493条にも出てきますが、要するに債務の本来の趣旨や目的に沿った弁済行為ということになります。それは契約の内容や関連法令、取引慣習等から決まることになります。売買契約に基づく商品の引き渡しなどであれば「債務の本旨」は明確と言えますが、契約の内容によっては当事者間で争いが生じることがあります。

この点が問題となった判例としては、島から島への豪華クルーザーによる往復を含んだ海外旅行において参加人数と予算の関係で小型水上機に変更となった事例で裁判所はクルーザーによるクルージングは当初から旅行会社が強調し、他の旅行と比較しても重要なポイントであり旅行者もそれに着目して契約したとして債務不履行を認めました(東京地裁平成9年4月8日)。

また看板による広告契約で、更新の際に再び設置料を支払うという内容が争われた事例で広告主側は看板がまだ使用できることから支払を拒否していましたが、裁判所は契約書や証拠から更新の際に取り替えることの合意が読み取れるとして債務不履行を認めています(東京地裁平成26年2月27日)。

コメント

本件でセコムの担当者は同店舗からの異常信号を受信した時には他の店舗からの信号を4件受信し対応に追われていました。そして現場の画像を確認したのは画像が送信されてきてから1分後のことであり、白煙を噴射したのは犯人が逃走して40秒後となりました。東京地裁は違法行為を確認したら対応を取ることがセコム側の義務であり、画像送信から約1分後に確認をするのは対応が遅滞していたとしました。このように債務不履行の発生は契約内容や慣習等によって決まってきます。セキュリティ会社の義務としては侵入後ただちに犯人に噴射すること自体が債務の本旨となっていたと言えます。

また契約時の説明不足や契約書の文言からも当事者間で争いが生じる場合が多く存在します。契約の際には、どのような場合にどのような支払義務が生じるか、どのような対応が必要となるかを的確に説明した上で、正確で詳細な文言を使った契約書の作成が求められます。債務不履行が生じた場合には、上記要件を踏まえて、債務の内容と、賠償と解除のいずれを請求するかを吟味することが重要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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