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東京の役割はカーストからのリセット―ヤンキーの人生をビジネスで変える (2017/3/24 70seeds

「新しい働きかた」「地方創生」「子供の貧困」など、地方と都市をめぐっては、たくさんの課題が取りざたされていますが、そいういった議論の中では、当事者である「若者」が置き去りにされがちなのも事実。

「いまの地方創生は人を縛り付けようとするだけ」「マクロな都合は若者の生活には関係ない」など、端的なメッセージで若者のリアルを語るのは、地方の若者向け就業支援「ヤンキーインターン」を手掛ける株式会社ハッシャダイの久世大亮さん。

「ヤンキーインターン」は、数多くの東京の企業の協力を受け、「衣食住」と「職」を提供することで地方の若者が東京で働く「きっかけ」を提供するプログラム。クラウドファンディング「CAMPFIRE」のプロジェクトでも注目を集めた、そのユニークな事業の裏側に見える、地方と都市の「格差」の正体に迫ります。

株式会社ハッシャダイの久世大亮さん

地元の友達に距離を置かれたことへの「なぜ?」

――「地方の中卒・高卒者に衣食住と職を提供する」という「ヤンキーインターン」ですが、そもそもどんなきっかけで始めたんですか?

それは別にきれいなきっかけじゃなくて。単に友達に、ヤンキーをやっていてダメになっていく人が多くて、それを変えたいと思ったことです。自分自身はヤンキーではなくて、その周りにいた人間だったんですけどね。ヤンキーとしての一線は越えない感じの、グループに一人はいるやつです。世渡り上手やなと思っていました笑。

――ダメになっていく、というのは?

18くらいのとき、周りで自分だけ大学に行ったんですよ。半年で辞めたけど、それから2年間大阪で仕事を始めて。そしたら地元に帰ったときに、周りの変わってなさに驚いたんです。自分は仕事をして、お金も持って。逆に自分がこんなに変わっていた、ということに驚いたのかもしれません。それに、同じくらい変われるはずなのに変わっていなかった友人がいて。

――地元の友人とは距離が生まれてしまったりしたんですか?

こっちは何とも思ってなくても距離を置かれるんですよ。SNSで発信する内容も違うし、僕が発信した内容にやっかまれたりもする。たとえば、1日で100万くらい買い物したときに、自分としてはめちゃめちゃ頑張った証として上げるわけです。でも嫌われる。頑張ってるのに嫌われるのはなぜなんだろう?と思ったら、「あいつとは俺たちと違う世界に行った」と思われている、と。

――地元でも成り上がった人はいたりすると思うんですけど、場所の違いから生まれるものなんですかね?

場所云々ではなく、人によるんだと思います。あとはSNSでは結果しか見えないから。地元では努力の過程も見えるわけですよね、あいつは頑張っていた、という背景も共有されている。結局人間性や、その人の周りが得している、利益があるかどうかなんだ、と思います。

――で、そんな彼らを変えようと思ったわけですね。

変えよう、というか単純に変えられるかどうか興味があったんですよ。最初は今の前身になる会社を立ち上げて、彼らに営業のアルバイトの仕事を与える、っていうことをやって。めっちゃライトなんです、だから成功体験を積みやすいという。

株式会社ハッシャダイ

――実際に変わっていったんですか?

早ければ2-3か月で顔つきも、話し方も変わりましたね。本を読むように言ったり、努力を促すだけで全然変わるんですよ。これまでやったことがなかったからこそ、です。

若者はマクロの問題と別の場所で生きている

――「ヤンキーインターン」では地方と都市の「格差」をテーマにしていますが、その「格差」に気づいたのはどんなタイミングだったんでしょうか。

京都から大阪に出たとき、それから関西から東京に出たときですね。それぞれ情報量が圧倒的に違いました。で、間違いなく言えるのは、「地方に人がいた方がいい」っていうのはマクロの問題だと。ミクロで見たら個人は都市に出たいわけです。でも出る術がない。僕が最初に大阪に出たときは居候、東京に出たときもシェアハウスにいたり。東京に住むとき、大阪の6-8倍コストがかかるんですよ。身寄りがないときついですよね。僕はたまたま大学生の知り合いが多かったので助かりましたが。

――情報量の「圧倒的な違い」ってどういうことなんでしょう?

これは何階層かあります。そもそも興味の問題。興味がないと勉強しようと思わないですよね。そして興味を持った先、何かをやろうとしたときにできることがあるか。東京だとすぐ経験しに行けますよ、VRとか、●●さんと●●さんのイベント、みたいな情報がタイムラインで上がってくる。そういうの大体東京じゃないですか。僕も、SNSで見かけても佐賀に住んでたら行けない、って言われたことがありました。

――地方の若い人も、興味の元になる好奇心はあるんだ、と。

SNSが広がることで好奇心を持つ人は増えている、と思っています。ただ、それがリアルなのかWebなのか。地方だと知ってても「できること」にならないから、行動につながらないんです。だから過疎化も仕方ないと思ってます。今はネットで外のことがわかる、外は楽しそう、そりゃ地元から出るでしょ。極端な話、出したくないなら中国みたいに情報規制したら?くらい。みんなマクロで語りすぎなんですよ、地方創生を言ってる人もみんな東京にいるじゃないか、って。

――そもそも「地方創生」自体が中央主導で進んでますからね。

地方創生自体はいいことだと思いますよ。でも「平等」は悪だと思っています。地政学的にも平等であるべきではないんですよ。もちろん競争力を保つために予算配分はきちんとすべきです。でもセンスのない施策が多いんじゃないかと。例えばある自治体では、1000万円をかけて移住の問い合わせが10件でした、1件当たり100万円。そうじゃなくってマクロで考えることはやめよう、若者に支持されることをやろう、というのが僕らの発想です。

根深い、地方の「努力しなくていい」構造

株式会社ハッシャダイの久世大亮さん2

――最近よく言われる地方の「ほどほどの幸せ」感ってどう捉えていますか?住民も、行政も現状維持的な姿勢だという指摘があったりすること。

めちゃめちゃ感じていますよ。それにあえて言うと、地方は努力してないと思っています。

――努力していない、とは?

正確に言うと、努力しなくていい構造がある。補助金も国からもらえますし、人材面でも、高卒新卒の市場は民営化されていないことで地方に縛り付けられている。それは地方の中小企業を守るためにやっていることなんですが、個人は守られませんよね。僕は大阪で最初の仕事を日当6000円でやっていました。東京だと倍額です。競争があるから労働条件も改善される、企業が努力しないから若者の選択肢がない、という負のスパイラル。努力しなくてもいい構造ができている、というのはそういうことです。

――努力しなくてもいい構造、ですか。

僕らは若者に「東京に出る」という選択肢をつくることで、地方企業の努力を促す。それによって初めて、地方の企業も選ばれる対象になるんです。今の地方創生施策は、人を地方に縛り付けるようにできてしまっている、それを変えるんです。僕らの掲げる「CHOOSE YOUR LIFE」はまさにそれなんです。

――直接地方をどうこう、ではなくて結果的に地方が元気になればいい、という考え方だと。

そうそう、僕らを頼って来てくれる若者たちが元気になってくれればそれでいいんです。

――でも、東京しか生き残らないという状況にもなりうるな、とも思いますが。

それでもいいと思っています。アメリカだとそもそも都市の役割が分かれていますが、日本は狭いので、便利な東京に集まる。そういうつくりになってしまっている。日本全体の人口が減ってもいいと思っているんです。人が減れば自動化せざるをえなくて、技術発展も進みますし、僕の地元の京都亀岡でもそう。一次産業はどんどん機械に置き換わっている。みんな住みたいところに住めばいいんですよ。

――一方で頑張っている自治体もありますよね。そういった自治体はどうなんでしょう?

そうやっている自治体は競争戦略としてやっているわけですから、それはそれでいいし、その競争の中で生き残るかどうかは結局生活者が決めることなんですよね。

――ある意味で、とても合理的なNPOや社会起業のような印象を受けました。久世さんが株式会社でやる意味ってなんなんでしょうか。

非営利活動法人(NPO)って、対象とするユーザーがいなくても運営できるサービスだと思っているんですよ。それ、本当にお客さんのために活動できると思います?それにほとんどのNPOは代表依存が強いですよね、株式会社の仕組みなら僕がいなくても成り立つというのも大きいです。営利も非営利もやり方は同じで、雇用し続けなくてはいけないと。でも、本質的には課題が解決された瞬間に雇用が必要なくなるわけです。

株式会社ハッシャダイの久世大亮さん4

――そうですね。

NPOは基本的に、1つの課題に対して立ち上がる。でも雇用しているから存続させ続けなくてはいけない。それって本当に解決する気があるのかな、と僕からしたら疑問なんですよ。社会的マイノリティを見つけて弱者という認知をつけ、再生産しているだけなんじゃないかって。

――確かにすべてがそうとは言いませんが、シングルイシューであることのジレンマはNPOが抱えがちな課題でもありますね。

僕が目指すのはハッシャダイがなくてもいい社会なんです。ただし、雇用が一番の社会貢献だと思っているのも事実です。株式会社だと事業を転換できる、課題が解決したら別のことにすぐ向かっていける。昔だったらビジネスにならなかったこともビジネスになる今、わざわざ一部を社会起業と定義する必要はないんじゃないかと。

中卒・高卒にも「新卒市場」を

――いわゆる「地方のヤンキー」と合わせて連想されがちなマイルドヤンキー的な消費形態、生活スタイルってどう思いますか?さっきの「ほどほど感」と近い話になりますが。

それ以前に努力を知らないんですよ、彼らは。したくないわけじゃなくてできないだけで、それは大人の教え方の問題です。そもそも「マイルドヤンキー」ってヤンキー自身が言い出したわけじゃないじゃないですか。

――教えてもらえなかった、というのは?

若いときって人間社会を知らないんですよ。本能に近い状態、だから強くてかっこいいやつがモテるし、ヤンキーはその象徴なんです。本能としてその一瞬を切り取ったときに一番モテる戦略をとっているだけ。それは悪いことをしたくてしてるわけじゃなく、モテるためでしかなくて、それが通用するのは一瞬だけだと教えられないのは大人の責任だと。

――なるほど、生存戦略と考えるのは面白いですね。ちなみに「ヤンキーインターン」では、そういったガチなヤンキーだけを対象にしているんですか?

ガチかマイルドかみたいな?その区別はしていませんね。条件は「地方在住」「16~22歳」「中卒・高卒」は全員ユーザーです。「ガチヤンキー」市場を独占でもよかったけれど、それは僕らがやりたいことではなくて、たとえばゲームオタクとガチヤンキーが一緒に働いているような環境の方がいいなって。

「ヤンキーインターン」参加者向け研修の様子

「ヤンキーインターン」参加者向け研修の様子

――そういう生態系をつくる、という。

そう、学校ではカーストが出来上がっていてそこに交わりが生まれないんですよ。地元にいるとかっこつける対象がその中にいるから、ずっと続いてしまう。でもいったん外に出ると相手がいないからリセットできる、地元の自分とは違う自分になれるんです。

――みんなそういう願望はあるんですね。

もちろん地元に戻ることもできますよ、何年かして帰るのもありだし。ただ、一回外に出るだけで選択肢は増える、ということです。

――ユーザーは実際に自分の人生を選べているんですか?

満足度は本当に高いと思います。就職する人はもちろん、インターンの後、東京で決まっていた就職先を辞退して地元で独立起業予定の人もいますし、ブラジルに旅立っていく人もいます。すべて、今までなかった選択肢を選べるということなんです。

――なかったというのは、社会的にというよりその人にない選択肢、という意味合いですか?

その人にないというのは社会的にないのと同じですよ。大学新卒で、受ける会社を選べないと思ってる子はいないでしょう。そういうことなんです。だから僕たちは市場をつくりたいと言うんです。

――市場?

中卒・高卒の新卒市場です。新卒市場があるおかげでいろんな企業がいるわけですよね。市場として認知されているから、サービスがしのぎを削ってユーザーメリットも高まる。中卒・高卒はハローワーク、つまり国が仕切ってますよね。ハローワークに求人を出すと企業は採用しなくてはいけないし、中卒・高卒で働いて辞めた人は就職活動のやり方を知らないから、違う道には進めない。

―そういった状況が起きるのも、現在の構造が影響していると。

そう。それは、成人年齢ではないからです。今後成人年齢が18歳に引き下げられたときに、「守る対象」ではなくなる、そこに市場が生まれると思っています。いろいろなサービスが生まれて、中卒・高卒の人たちが「自分のためにこんなことがある」と知ってほしい、だからビジネスとしてやる必要があるんですよ。

株式会社ハッシャダイの久世大亮さん3

提供:70seeds

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