民主主義はポケモン―「デジタル時代の自由民権運動」が作る政治ネットワークの可能性 (2017/3/6 70seeds)
Brexitやトランプ大統領の誕生など、海外の民主主義国家ではダイナミックに政治が動いています。そのような激動の時代、日本の政治はこれからどう進んでいくのか。「テクノロジーと行動」がカギを握る、そう語るのは「一般社団法人ユースデモクラシー推進機構」の仁木崇嗣さん。
「デジタル時代の自由民権運動」「民主主義はポケモン」など、次々飛び出してくるキーワードの裏に込められた現代社会への洞察を届けます。
実現したいのは「若者のための政治」ではない
――「ユースデモクラシー推進機構」という名前からは、「若者重視の政策実現集団」のような印象を受けました。
そう、“若者のための”とか、“若者の意見を政治に”と思われがちなんですが、僕らの根幹には、“日本に民主主義を機能させたい”っていう思いがあるんです。
――裏を返すと、日本では民主主義が機能していない、ということですか?
明治初期に日本に民主主義を導入しようとした若者たちが大切にしていたことなんですが、民主主義の本質は、統治する側の“権力”と統治される側の“人々の自由”とのぶつかり合いなわけです。僕らはそのことを忘れているんじゃないかと。そして現在では、“老人的な心”の政策が実現されてしまっている。デモクラシーが老化したんじゃないかと思っているんですね。
――「デモクラシーの老化」って面白い表現ですね。
だから、ユースデモクラシーは「若者のための」政策を実現するだけで終わってはダメ。将来世代のことも考えて、持続可能な社会のために民主主義を若返らそうというもの。将来世代はいま、かなり無視されているのが現状ですから。デモクラシーを正しく機能させるために、アンバランスな構造を整えようっていうところが本質です。なので世代間闘争を煽りたいわけではありません。
――ユースデモクラシーは、デモクラシー立て直しのための1つのツールということですね。
はい。先ほど明治初期に日本に民主主義を導入しようとした若者たち、と言いましたが、当時、10代から30代の若者たちは「自由民権運動」に参画して、新しい時代に対応しようとしていったんです。北海道から沖縄まで2000社を超える民権結社という勉強会のようなグループが各地にできたのですが、国会開設や憲法制定、地租軽減や条約改正、そして地方自治をテーマとして掲げていた。地方自治と地租軽減(減税)は現代でも実現されていないテーマだと思います。
――地方自治と減税が実現されていない?
日本の地方自治体は、財政面での中央政府への依存や法的権限の不在などで、自治権は大幅に制限されている現状があります。税については、「代表無くして課税なし」という原則を忘れて国債や地方債という形で将来世代に多額の税を課しています。これは完全に自由民権運動の精神に背いていると思います。最初に日本人が日本に民主主義を根付かせようとしたときの気持ちを思い出す必要があるのではないでしょうか。
――「自由民権運動」にこだわる理由はわかりました。「デジタル時代」では何が変わるのでしょうか。
そうですね。「自由民権運動」を通じて全国から集められた請願の署名は約26万筆だったそうですが、当時の全人口の1%未満の人たちの活動が「国会開設」という大きなイノベーションを起こしたんです。メールもSNSもない時代に、です。デジタル時代には、もっと人間同士の距離は短くなっていますし、情報も一瞬で拡散します。民主主義を機能させるインフラも、もっと最適な仕組みがあって然るべきだと思います。
僕らの活動の先には、デジタル時代に最適化した人たちによる政党ができたり、選挙制度や投票方式も今とは違うものがあるかもしれない。その第一歩として、今の枠組みを超えたものを自分たちの手で作っていけるんだ、世の中ってダイナミックに変えられるんだっていう雰囲気を作れればいいなと思っています。有権者や政治家にそういう意志を持たせていくということをしたいです。それ自体はかつての「自由民権運動」と変わらない部分ではありますね。
政治家にはできない「政治とのかかわり方」を
――ユースデモクラシー推進機構では、20代で当選した議員のネットワークを作っていると聞きました。この活動にはどんなきっかけがあったんですか?
2015年の統一地方選挙で同世代がバッジをつけ始めて、彼ら彼女らへの尊敬の念と共に、(余計なお世話だとは思いつつも)とても不憫に感じたんです。これから大変だろうなと。特に地方部はそうですが、古い政治システムの中で新しい考えや方法を試そうとすれば摩擦が生まれます。価値観が違えばきっと会話も通じないし、実務的な仕事のやり方も違う。そんな環境で数年も経つと、新しい変化を起こせたであろう人たちが旧来システムに同化してしまって、結局今までと変わらないと思ったんです。それは変化に期待した有権者への裏切りですし、若者はまた一段と政治に距離を置いてしまう。ですが、この世代から変化を見せることができれば、政治への不信感を払拭するチャンスにもなるかもしれない。そう思ったんです。
――それを仁木さんがやることの必然性というか、意義ってどんなことなんでしょう。
政治家のつながりを作っていく活動って、「自分が政治家になるつもりが1ミリもないこと」が重要だと思っています。その人に政治家を目指す意図が少しでもあれば、政治家側も有権者も敏感に感じ取って、その活動は「自分のための活動」に見えてしまうと思うんです。政治家だけでつながればつながるほど有権者からは離れていってしまう。
かといって、選挙の事を考えずに理念だけでつながりを作ろうとしても、政治家からすればそんな一票にもならないキレイ事に付き合う時間は無いというのが本音です。また、仮に特定の政治家が中心になってしまうと、党派やイデオロギーの面で、多様性を保つことは難しくなってしまいます。僕はたまたま23歳の頃から選挙支援の会社を経営していた関係で、選挙の現場や多様な党派の人と接する機会に恵まれていました。現時点では、自分でやるのが一番効率がいいし、適材適所という意味で自分にしかできないと思ったんです。
――「政治家になる気がない」からこそできる政治活動って新しい視点ですよね。
そういう視点で政治に関わるときは「政治家はダメだから」というスタンスではなく、少しおこがましいですが「政治家を愛情をもってエンパワーメントしていく。一緒に成長していく」というスタンスが大切だと思っています。
――それは「エンパワーメントしたくなる」人たちがいるっていうことなんですかね。
若い人たち、同世代の政治家を見て思うことなんですけど、やっぱり新しいタイプに会えているんです。インターネット世代ならではだと思うんですけど、接する情報が地域を超えて、日本全体世界全体から自分たちの社会を見れるような情報感度があって、「変えなきゃ」っていう危機意識があるんですね。
――従来の議員とは違うと。
熱の大小はありますが、みんな政治に対して“ピュア”だと思います。なので、いわゆる「政治家らしさ」に囚われず新しいことにチャレンジできる。例えば、議員になって数年経つと、議員としてできることの限界に気づく。そういう人は将来、自分で起業を検討したり、NPOで社会的課題を解決したり。議会を続けながらも議会外で、実際に地域プロデューサーとして課題解決に取り組もうという人もいます。
デジタルネイティブ議員のキーワードは「チート」と「ツール」
――そうすると、「政治家」のイメージも変わっていきそうですね。ベンチャー起業家とか社会起業家と同じような並びで語られるようになるというか。
上の世代にもそういう人たちはもちろんいますが、その潜在的な数は増えたようにと思います。4年ごとの統一地方選のたびに、情報感度の高い世代が生まれてくる。地方政治も変わっていく兆しを感じています。彼ら彼女らの「行動」を後押しして顕在化させることで、有権者の期待感を高め、支援する人が増えていく流れを作ることが、20代当選議員をネットワーク化し、可視化することの意義だと思っています。
――議員同士ではないつながりも生まれていくということですか?
有権者が期待する議員がグルーピングされることで、そこに期待する人も集まってきて可視化されると思うんです。そういった人たちの中には議員が持っていない専門性を持っている人もいて、そういう人たちと交わることで、議員のアウトプットもかなり変わってきますし、モチベーションも維持されるはずです。
――知識や経験は20代議員の弱点となりやすいものですからね。
議員に初当選すると、みんな同じような勉強を1から始める人が多いのですが、それってすごく非効率。先輩のやってきたことを引き継いだり、全国の仲間と一緒にインプットしていけば、楽に進めますよね。要はチートです、チート。オンラインに貯まった知識があれば、境遇に関わらず一定の知識を得ることができる。1期目なのに、何期もやっている議員よりもアウトプットの質が高くなるのがデジタル時代の議員だ、という風になればいいですね。
――ちなみに、若手議員のネットワークというのはまだないものなんでしょうか?
「若手議員のネットワーク」自体はすでにありますが、ネットワークにプラスした機能が必要だと思っています。その一つが、オンラインのナレッジデータベースです。この活動を始めたときに、おときた駿さん(東京都議会議員)がすごくいい感想をくれたんです。
――それは?
「「若者」というステイタスは当然のことながら、時間と共に変化をしていくから、(中略)政治的な連帯が極めてしづらい。」って。「若者」はいずれ当事者じゃなくなる時が来る、と。
そう指摘されたときは、まさにそうだよなーと思ったのですが、将来世代を含めた若い世代が仕事をしやすいように、仕組みをバージョンアップさせていくことなら協働できるんじゃないかって思ったんです。政治的連帯というよりは“道具によるつながり”、“道具”を代々渡していって、「これをみんなでうまいこと使っていこうよ」みたいなかたちで引き継いで育てていくイメージです。
――確かにそういった意識って、まだほとんど持たれていない気がします。
志とか精神も大事ですけど、まずは“道具”でつながる。 “道具”でつながってみると、意外と連帯ってできるんじゃないかなと思うんです。たとえ年齢的には若者じゃなくなったとしても道具を道具として認識できれば、協働できるんじゃないかなって思っています。
変化が起きることが正義
――世の中をよりよくしていくために、政治の力って不可欠なものだと思うんですが、そもそもそれを支える一般市民の側がこうしていった方がよい、みたいなことって何があるんでしょうか。
現時点で言えるのは「こうなったら良くなるだろうな」ということをみんなが自分の立場で実践することかなと思います。語弊があるかもしれませんが、サラリーマン精神から脱却する必要があるのかもしれません。
――サラリーマン精神?
僕は自衛隊を辞めてからサラリーマンを3年弱経験しましたが、自分が会社の全リスクを引き受ける必要はない反面、代償として自立心が奪われていきます。その環境に慣れると、政治に対しても、主体的に考えることをやめてしまうと思うんです。そうでは無くて、あらゆる物事に対して「自分事」として主体的に考え、改善を求めて行動していくことを是とする雰囲気があると良くなっていくんじゃないかなと思います。
――そういう雰囲気は理想的ですね。
もう一つ、「より良くする」ために変化を起こす、そのリスクを甘受することも大事だと思います。政治に市民が関わることの意義は「変化を起こすこと」で、それに必要なことは、「変化によるリスクを自分たちが引受ける覚悟を持つこと」だと思います。僕自身は、変化することが正義だと信じています。
――変化することが正義、というのはわかりやすいですね。感覚としても今っぽい感じがします。
世界はこんなに変化に満ち溢れているのに、社会全体は安定を求める老化現象が進行しているように思いますね。同世代やもっと若い世代に、海外志向の人が多いのもこの辺りが関係しているような気がします。僕の今の立場でこの流れに立ち向かうとすれば、政治家になろうと思う若い人が増えることが一つの指標となると思うので、それを目指して活動していきたいと思っています。
民主主義はポケモン
――一方で、その「若い世代」が投票に行かないという課題もありますよね。
自分の意思によって移動した地方出身者の一人としては、「手による投票(選挙)」によって変えられない地方部から都市部へ「足による投票(移動)」をすることによって政治的意思を示しているともいえると思います。若者の都市部への流入は、それそのものが投票行動なんだと思います。そういう意味では、都市部に移動した地方出身者に、出身地の地方政治における参政権を与えて、変化を後押しする制度というのも検討の余地があるような気がしますね。
――なるほど。そういった政治的な意識ってどこから生まれてくるものなんでしょうね。
自由民権運動の主要テーマに地租軽減(減税)が入ってきますが、それは、政治と有権者を繋ぐ一番のパイプが税だからです。しかも、自分たちの富を税として政府に明け渡すのでは無く、自分たちで使うということにも注目しなければなりません。でも残念ながら今は税を払うことが義務で、使いみちだけを議論するとか、お金が足りないから増税やむなしとか安直な考えになっています。
――そこがまた面白いところだなと思っていて、民主主義に対して、意識の高くない人たちの行動によって政治が決められてしまっているというような状況があるのかなと思うんですけれども。
決して民主主義に対して理解が浅い人たちが力を持っているわけではないです。日本には、組織票と呼ばれるものがあって、一般的には何だか悪いものとして認識している人が多いと思うんですけど、彼らは極めて民主主義に対して理解が深い。つまり民主主義をちゃんと活用しているんです。ちゃんと活用して、組織化して、集票活動を経て選挙に勝つ。そして、自分たちの政治的意思を政治に反映させるわけですね。
――あぁ、すごく納得のいく解釈です。
民主主義への理解と政治への関心っていうのは別だと思うんですよね。だからそういう意味でいうと今の制度は今の価値観に合ってないのかもしれないですね。なので選挙制度を変えるのは重要だと思っています。サイレントマジョリティーがなぜ発生するかというと、制度が合ってないからだと思います。
大切なことはサイレントマジョリティーの人たちの意思が政策に反映できるような仕組みを作る努力をしてみることですね。今の制度の枠組みを超えて、「じゃ、新しい国会作ってみる?」みたいな発想でも良いと思うんです。
――さっきから発想がポジティブですよね、とにかく解決策を出すという(笑)。
(笑)。答えがないことに対しては行動すればいいと思っています。僕はそうしていますし、行動することがいちばんの近道だと思います。あ、そうそう、学生さんに対して話すときには、「民主主義はポケモンですよ」という例え話をします。ポケモンって育てるじゃないですか。
――はい。
政治家はポケモンと同じで、トレーナーである有権者のレベルが低かったら、ポケモンのレベルは上がらないし、言うことを聞かなくなる。政治家をコントロールしたければ、有権者が強くなるしかないんです。これが民主主義の大事な構造だと思うんですね。そして僕が一番この例え話で伝えたいことは、ポケモンと同じように「愛情を持って育てないといけない」ということなんです。
――すごくわかりやすいですね。
この話は本来の民主主義のモデルだと思うんですけど、日本の場合は妖怪ウォッチに近いと思うんですよ。
――その心は?
あれってウォッチを持っている人にしか妖怪が見えないじゃないですか。つまり見えない人の方が多いんですね。で、妖怪はたまに言うことを聞かないんですよ。主従というよりも、友達感覚。むしろどっちかっていうと妖怪の方が上なんですよ。しかも、見えている一部の人以外にはいたずらをするわけですよね。これって日本における政治家と有権者の関係性に近いんじゃないかと。僕は日本もポケモン型になるべきだと思っています。
――なるほど。
あとポケモンって属性がいろいろあるじゃないですか。コレなんですよ。これがもし全部ヒトカゲだったらゲームが成立しません。多様性があるから面白いし、その中で強い弱いとかがあるから面白い。民主主義は多様性が大事で、戦わせてレベルを上げるのが正しい。だからポケモンなんです。民主主義はポケモン。
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