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名もない草が、世界ブランドになった日―伝統茶{tabel}にみる地方の魅力の見つけかた (2016/12/15 70seeds

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「地方には何もない。」

70seedsでいくつかの地域を回り、そこで活動する方のお話を聞く中で、必ずと言っていいほど出てくるのが地元の方々からのこんな声。

でも、本当は気づいていないだけでそこには「宝の山」が存在しています。

今回話を伺った国産薬草茶ブランド{tabel}も、そんな「宝の山」の再発見を通じて地域に自信を取り戻していった活動のひとつ。地方に眠る「薬草」をデザインの力で再ブランディング、2016年にはパッケージデザインの最高峰と言われる「ペントアワード」で銀賞を獲得するほどの評価を受けました。

そんな地方の魅力を再発見していく「仕事のつくりかた」について、{tabel}代表の新田理恵さんに聞きました。

バブルの価値観で否定された「薬草」が今、戻ってきた

――のっけからなんですが、「薬草茶」ってなかなか馴染みのないジャンルです。

食べたり飲んだりしたことあります?と、聞くと、「はい」と即答できる人は多くはない状態ですね。 男性に聞くと大体ドラクエでしか使ったことがないってよく言われます(笑)。

――そのイメージですね(笑)。

でも、実はすごく身近なものだったりするんですよね。例えば、ヨモギとか、ショウガとかそういった体に良い植物を薬草だと定義すると、それなら食べたことあるよねとか、意外と身近だったなって。そういった薬草を昔の人たちは日常的なお茶として飲んでいたり、養生として体をケアするものとして飲まれていたんですよね。

――ああ、たしかにその辺りも薬草になるんですね。

たとえば沖縄だと、昔はお医者さんが常駐できない小さな島がたくさんあって、病気に突発的になったときに対応できない。なので、お医者さんが来島した貴重な時間に何をしたかというと、「お腹が痛くなったらこの草を煎じて飲みなさい」みたいな手当を教えていくんですよね。なので医療がない代わりに民間医療がめちゃめちゃ発達するということが起こるわけです。

――なるほど。

そこってすごく面白いところでもあるなって思うんですよね。今は「病気になるまでのケア」が見直されているじゃないですか。なので、それを楽しくおいしくできたら最高だなと思って。この{tabel}というブランドを通じて、薬草文化というものを20代とか30代の人に「すごく面白い!」って興味をもってもらったり、取り入れてもらったりできるようなブランドにしていこうと思っています。

{tabel}代表の新田理恵さん4

具体的には、日本全国の薬草文化のリサーチを行っているんですよ。北海道から沖縄まで日本ってほんとにいろんな気候があるので、それぞれの地域で一体どんな使われ方をしてきたのかを、今のおじいちゃんおばあちゃんに聞いたり。

――地元に根付いた、「昔ながらの知恵」のようなものなんですね。

はい。でも、伝統工芸品と同じような状況に瀕しています。「知っている」方々が70代とかになってくると、山や畑に一緒に行って教えてもらう時間ってもう数年ぐらいしかないんですよ。お元気なうちに教えていただきたいし、そういったものを受け継いでおきたいなと。関心を持っている若い方も多いと思うんですよね。そこを丁寧にやりたいなという思いがあります。

――おじいちゃんおばあちゃんに教えてもらうときって、どんな反応をされるんですか?

めちゃめちゃ喜ばれます。どんどん教えたいみたいな感じ(笑)。実はここ数十年間、薬草や、地域の自然の暮らしみたいなものって、あまり自信が持てなかったところでもあるんですよ。すごく素敵なローカルに行っても、「うちは何もないから…」とか「恥ずかしい」みたいな、劣等感を持った方がすごい多いんですよね。でも、私たち都会に住んでる人たちからするとそれが逆に魅力的じゃないですか。

――地方ではよく聞く声ですね。

あと、ケガをしたときとかに、ヨモギをもんで傷に塗ったみたいなことも、今のお医者さんに言ったら、「そんな不衛生なことはやめてください」って怒られちゃうし、おじいちゃんおばあちゃんの子供たちの世代、今の40代から50代の人たちからしても、価値観が合わないんですよね。拒否されている経験があるので、自分たちがやっていることに自信がない。

――ああ、わかる気がします。「ダサい」とか「汚い」とか。

そう。でもそれが一周して私たちの世代ってもっと、自然に寄り添った暮らしみたいなことに興味があるじゃないですか。そこを聞いていくことによって彼らの自信にもつながるっていうところが起こっていると思いますね。

――たしかにそうですね。おじいちゃんおばあちゃんの子供の世代ってバブル世代あたりで、社会自体の価値観が全然違いますよね。

そうなんですよね。今それがゆっくり戻ってきてる段階なので、そこのブリッジがすごく必要だと思います。

食べ物は「凶器」にもなる

――そもそも、薬草を仕事にするっていう発想はどこから生まれたんですか?

作り手さんや薬草の魅力が素晴らしいっていうことと、身近に働きすぎていたりして体調を崩している子も多いので、何とか助けたい…ちょっとおこがましいけれども、何とか力になりたいなぁと思っていて。たとえば当帰のお茶とかだったら体が温まるので、冷え性の子とか、あと貧血の子とか女性のトラブルにすごく良かったりするんですよね。なのでそういった人に届けたいみたいなところがあったんです。

男性の方も疲れていたりだとか、あとパソコンとかスマホよく見られる方多いので、目はみんな酷使したりして、完全に健康な人って稀だと思うんですよね。

――現代は特に、ですね。私もとても心当たりがあります。

はい。ってなったときに大事な人に何をしてあげられるかなっていうのを薬草が叶えてくれる。目の疲れに聞くようなお茶もあるし、おなかの調子を整えてくれるものもあるし、すごく面白いです。

――ちなみにそういった意識はいつごろから持っていたんですか?

食べ物が好きなのは、子どものときからですね。私の実家は大阪のパン屋さんなんです。魚市場とか野菜屋さんとかがたくさんある中で育ってきたので、食べ物に関する仕事は当たり前で、食べることがすごい大好きな女の子だったんです。

{tabel}代表の新田理恵さん5

で、進路に悩む高校二年生の時とかに、うちの父が糖尿病になってしまったりして、食べ物って大事な分、扱い方を間違えてしまうと、凶器になってしまうものなんだと思ってすごく怖かった時期でもあるんですね。で、「食」という漢字って「人を良くする」って書くんですよ。なので、そういった食事をもっともっと取り入れていけるようなお仕事がしたいなぁっていう風に思ったのがその時期です。

――食べ物が凶器。

はい。なので大学の専攻は食物栄養学科っていうところに行って、栄養学なので、食べ物で健康にしていくみたいなことを勉強していくんですけれども、それが、数字や化学で見るんですよね。何キロカロリー摂ればいいとか。なんだか食事の一番大事なところ、本質を見失いそうだなって、欠落感がずっとあって。

――というのは?

例えば、同じくらいの身長で、同じくらいの年代で、体型も同じようだったら、そのカテゴリーに入る人たちみんなに同じ食事があてがわれちゃうわけですよね。とか、冬なのに、ビタミンAを満たすのに、体を冷やすトマトを食べることがどこまで正解か、とかいろんな疑問が湧いて。

例えばこの人は冷えやすいとか、ちょっと疲れやすい人とかいろいろありますし、同じ人にとっても、昨日の自分と今日の自分の体調ってちょっと違うじゃないですか。なんかちょっと今日はおなかが重たいな、とか、今日なんかのぼせるな、とか。

――そう言われてみると画一的に数字だけで見ていくのは不自然な気もしますね。

それで、もっと柔軟に考えたいなって思ったときに、私は薬膳に行きついたんですよね。今までの栄養学の、西洋の現代的なものから、ちょっと真反対の要素に聞こえるんですが、その2つって、実は得意分野が違うから統合できるなって思ったんです。

栄養学は構成を考えるのが得意なんですね。おかずのお肉と野菜のバランスは何対何がいいとか、大枠を作ることがとっても得意で、薬膳の方ははたらきを考えるのが得意なんですね。野菜っていうものがたくさんある中で、冬はやっぱり体を温めるニンジンがいいよねとか、じゃあそのニンジンは血液をつくってくれるから貧血の人にいいよねとか、そういった個々の働きのことを考えるのが得意なので、これは一緒にできるなと。

――そういう捉え方は新鮮ですね。

でも、薬膳料理って食べられるお店が少ないでしょ?

――少ないですね。

ね。特殊な料理だったり食材をつかうイメージがあるじゃないですか。まさしく松の実とかナツメとか菊花茶とか特殊なもの、スーパーフード的なものたくさん使うんですけれども、国産のものがほとんど手に入らないんですよ、今。

――そうなんですね。

9割以上が輸入もので、栽培方法がわからない、食材が信じられない、みたいなところがあって。「わからない」って信頼が崩れてしまう。「じゃあ中国から輸入している物であれば、割とエリアも気候も近いところには絶対あるだろう」と思って、探し始めたんですよ。最初に私は蓮の葉茶を探しに、九州に行ったのが大体2年半前くらいです。

一袋200円で売られていた「雑草」が「薬草茶」になるまで

{tabel}代表の新田理恵さん3

――それはすぐに見つかったんですか?

いえ。そういった薬膳料理の材料を探しに行ったときに、「薬膳」で調べても全然出てこないんですよ。

――いきなり壁があったわけですね。

ところが、「薬草」っていうキーワードに切り替えると見つけやすくなったんですよね。たとえばローカルの道の駅に行くと、ビニール袋に乾燥した葉っぱがガサーっと詰められて2、300円で売っていたり。なので、単純に出会えていないだけだと思ったんですよね。お茶かどうかもわからない、何なのこれは?みたいな状態で売られている、そこをもう少し丁寧に伝えていくことによって、すごくいい活動になるんじゃないかなって。

――意外なところにあるものなんですね。

それから 、ちょうど友達から結婚式の引き出物を探してるから一緒に作らない?みたいな話があったり、たまたま、クラウドファンディングで「食関係のプロジェクト募集してます」というDMが来たタイミングが重なりました。これは一つのチャンスだなと思ってやってみたら、資本金の100万円ちょっとを無事に2,3か月で集めることができて、 九州に薬草を探しに行ったときに出会った薬草工場と商品を作ることができました

――薬草工場?

薬草工場なんてあるんだっていう感じだと思いますけど(笑)、実は「代々やってます」みたいなところが何軒かあったりして。そこがすごく良心的に少ない数からでも作ってくれると言ってくださったこともあって、じゃあ商品にしてみようかなということでブランドができたのが2014年の7月でした。

実現のカギは「望まれないことを持ち込まない」こと

――実際に商品をつくっていくときって、どんなことがきっかけになるんですか?

使う方の悩みや課題との相性や、時にはその薬草に人生をかけていたりする作り手さんの熱い思いが、結び付いたとき、しかも作り手さんがもっとこれから販売量や収穫量を増やしていきたいと思っているときに商品にするようにしています。なんか無理にこちらから望まれてもいないお仕事を持ち込むのは嫌だなと思っていて。

――望まれないことは持ち込まない。

はい。やりたいことの方向性が合わさった時に、「じゃあ商品にしていきましょうか」って話をします。あとはいろんな地域を巻き込んでやっていきたいので、なるべくたくさんの地域で作れるようにしています。今商品になっている5つは、九州、関西、沖縄から発表されているので、じゃ次は関東のお茶作りましょうかね。とか北海道もやりたいよねとか。そんな感じでやっているのと、あとは効果効能がなるべくバラバラになるようにしています。

――よく地域活性とか農業振興みたいな話でいうと、そこで何かをやりたい人のエゴが先走っちゃうことってたまに聞くんですが、「望まれてない仕事は持ち込まない」って考える背景って何かありますか?

そうですね…やっぱり仕事も、暮らしや家族のことも両方大事にしたいなと同時に思っていて、売り上げを伸ばすだけが事業の成功とは限らないなと。だんだん今、世の中もそういうベクトルがありますよね。そこをもう一回自分自身にもそうだし、相手さんにもそうだし、生き方をすり合わせていくっていうことが丁寧にやりたくて。

――大切な姿勢ですね。

一緒に仕事をするってことは時間も一緒に共有するし、一緒に生きていくっていうことですよね。で、私はできたらこの商品を30年後も作り続けていたいし、売り続けていきたいので、そういった長い目で見たときに、どこかに負担が大きくかかってしまうとシワ寄せが絶対できてしまう。無理のないペースで、本当に自分たちが作りたい暮らし方とか仕事の仕方ってどういうものなんだろうっていうのを、一緒に考えながらやっていきたいなぁって思ってますね。

――とはいっても事業としてやっていく以上、売れないと不安になったりだとか、焦ったりということはありませんでしたか?

最初の1,2年は軌道に乗るまで時間がかかるので、ほかのお仕事もしたりしながら{tabel}を運営していました。有り難いことに、まだ薬草産業の若手プレイヤーが少ないということもあって、チャンスが回って来やすかったりするので、じわじわ形になってきています。

これからスタッフが増えるというフェーズだったりもしますし、やっぱり関わってくださる工場さんとか、作り手の皆さんのことも考えると、ある程度の売り上げは出したいです。Easy come Easy goなので、急ぎすぎずに、みんなでゆっくり育んでいるところですね。

――現実的に成長していっていますね。

そこは、共通の思いがあることで乗り越えているというところもあって、例えばこういった暮らしが本当にあるといいよね、とかそれって地域のためになるよねとか。そういった自分たち個人としての願いである「事業がうまくいく」とか「ブランドが有名になる」とかそういうこと以外の、もうちょっと大きな主語で共有できる目標をもって共有していることによって、一緒に育てていきたいねっていう風に言っていただけることが多いのはすごくありがたいし、その期待に応えたいなと心から思っています。

――そうですよね。知名度もあがってきて、一緒に働きたい人も多いんじゃないかなと思って。

そうですね。じわじわ仲間が増えてきていて、もうすぐシェフがチームに入ってきてくれたりするので、その人たちが一番輝く場も作りたいなと思っているので、来年はカフェを作りたいなと思っています。海外のスパイスを一切使わない日本の薬草だけで作るカレーを開発したりしてくれたんですよね。

――うわぁ、おいしそう!すごく…食べてみたいです(笑)。

{tabel}代表の新田理恵さん2

ですよね(笑)なので、一つの得意ごとというか、技術、技能が入ってくると、事業も薬草に対しても可能性が広がりますよね。今の暮らしにもちろん根付いた形で、きっと昔みたいに薬草酒漬けましょうとか何時間もかけて下ごしらえするっていうのは難しいと思うので、大事な知恵や風土、文化みたいなところも掘り下げつつ、現代の暮らしに合わせてスタイルを変えていきたいなと思っています。

――そこは無理のない感じなんですね。

ですね。無理はしないけど背伸びはするみたいな感じでやってます。

ソーシャル・スタートアップ「仲間」のつくり方

――ちょっと話が戻るようですが、最初ひとりでやっていた頃って大変だったんじゃないのかなと。

はい(笑)。スタートアップの一番の失敗する要因って意思が挫ける時だそうです。一人で立ち上げた時、私もすごい孤独感に教われました。頑張りすぎちゃったり、自由の裏返しで全てのことが自分の責任だし、すごい精神的にもろい時期でもありましたね。1人でできることって、すぐ限界が来る。

――どうやって乗り越えたんですか?

まずは少しずつ外注や委託を始めて、発送を業者さんに頼んだり、デザイナーである主人や友人にお願いしました。あとはソーシャルスタートアップ系の講座に行き始めたら、違う課題に取り組む、違う分野だけれど、同じく社会や未来に対して熱い想いを持っている仲間ができました。お互い助言ができる状況があって、そこでできた仲間は今でもかけがえのない仲間になってますし、すごく救われました。そこから続けていくことによって共感してくださる人も増えてきて、チームになりたいって言ってくれる方もちらほら増えてきました。

――誰かを頼ることが大事なんですかね。

頼るというか、役割分担ですかね。個人戦だと全教科高得点とらないといけなかったところから、社会に出てチーム線になると、とにかく長所を伸ばすことに専念したほうが全体が良い。苦手分野も基礎は知っておいた方が、チーム内のコミュニケーションが円滑になりますが。苦手なことは得意な人に素直に任せたほうが全体のクオリティも高くなるし、組織としても強くなるなと気付いてからは、肩の荷が少し下りました。

――それはいい気づきですよね。

そこまで自分自身と向き合うところは結構つらかったですが、乗り越える方法もいろいろあるんだなという風に思ってます。

{tabel}代表の新田理恵さん1

――そういった仲間をつくりたい、と思ったとき何が重要なんでしょう。

とにかくいろんな場に出かける、とくに感覚とか価値観の近い人たちに出会う、イベントなり場なりに行くように努力するみたいなことじゃないですかね。まずは知り合わなければ届かないし、その時に自分が思っていることをちゃんと整理して伝える。友人にまずは相談することもそうですね。困ってるかどうかっていうのは他の方から見てもわからないから、思い切って困っていることを素直に打ち明けてしまった方が、助けられる余地ができていくといいんじゃないかなという風に思います。

――ある面で自分の弱さとの戦いですよね。

そう。1人で完璧を目指すというよりも、自分の弱さも含めて助け合えるチームを作っていくというか、逆にその弱い部分を見せたほうが、足りないピースを補ってくれる人を引き寄せられる気がします。昨日もFacebookで九州で探している食材の情報を募集する投稿をしてみたら想定外の情報やご縁までいただけて。頼りすぎてもいけないけど、一人で抱え込みすぎないようにした方が、良い巡りが生まれますね。

――因果ですね。

私も大切な誰かが困っていたら出来る限りのことはするし、お互い様で。そういうゆったりした心構えでいると自然と人が集まってきやすくなったりしました。もちろん共感できるビジョンだということが大前提。人のためになることとか町の未来になることとかに取り組む時に、自分らしい在り方で関わっていけたらと思います。

※新田さんに聞いた「薬草」と「デザイン」のお話は後日番外編で公開予定!

提供:70seeds

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