「徳川ミュージアム」が異議申し立て、家紋の商標登録について (2016/11/9 企業法務ナビ)
はじめに
水戸徳川家の家紋に酷似したマークが商標登録されているとして、「徳川ミュージアム」が特許庁に異議申し立てを行っていたことが4日わかりました。有名な家紋を商標として登録することは可能なのか。家紋の商標登録について見ていきます。
事件の概要
特許庁のデータによりますと、水戸徳川家15代当主の徳川斉正氏が理事長を務める公益財団法人「徳川ミュージアム」は水戸徳川家の家紋である葵の御紋を2012年から複数回商標登録を行っておりました。2015年2月末、水戸市のイベント企画会社は徳川ミュージアムが登録する葵の御紋とほぼ同一のマークをお守りや御札、護符、日本酒等に使用し提供することを指定役務として商標出願を行い12月に登録されておりました。それに対して徳川ミュージアム側は今年3月に登録の取り消しを求めて異議申し立てを行っておりました。徳川ミュージアム側は「徳川家家紋と瓜二つであり、公共の利益に反する」と主張しております。特許庁では現在、異議について審議が行われているとのことです。
商標権とは
特許庁によりますと、商標とは事業者が自己の取り扱う商品・サービスを他人のもとの区別するために使用するマーク(識別標識)を言うとしています。商標には、文字や図形、記号、立体的計上やこれらを組み合わせたものがあり、平成27年4月から動く商標、ホログラム、色彩、音商表や位置商標といったものも登録できるようになりました。そしてそうした商標として登録されたマーク等を使用者の財産として保護しているのが商標権という一種の知的財産権です。商標権者は商標を独占的に使用することができ(商標法68条)、他者が類似する商標を使用することを差止めることができ、損害の賠償を求めることもできます(36条等)。
家紋の商標登録の可否
それでは徳川家の家紋といった誰でも知っている歴史上有名な家系の紋章でも商標として登録することは可能なのでしょうか。商標法4条1項には1号から19号まで商標登録をすることができない商標が列挙してあります。そしてその1号には「国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標」が挙げられております。これは国や公的団体等を表す紋章であり公益上特に要保護性が高いものであることから、これらの類似する商標は認められないことになります。菊花紋章とは皇室の御紋であり特に保護されております。しかしそれ以外の家紋はこれらには含まれておらず、徳川家の葵紋も該当しません。
次に考えられるのが7号の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」です。この公序良俗に反する場合というのは、特定の国や国民を侮辱するもの、卑猥なもの、差別的なもの、出願の経緯が社会的相当性を欠くもの、他の法律等で禁止されているもの等があげられます。裁判例としては金銭的交渉の取引材料にする目的での商標登録や公共的施策に便乗して利益を得る目的といった場合に社会的相当性を欠くと判断されております(知財高裁平成27年8月3日等)。つまり徳川家の家紋も原則的にはこれらに該当せず商標登録は可能であると言えます。
登録異議申立て
商標登録がなされ商標掲載公報が発行した日から2ヶ月以内であれば商標登録に対し異議申し立てを行うことができます(43条の2)。申立ては誰でも行うことができ、商標法上の登録要件(3条、4条等)を満たさないと判断された場合には登録取り消し決定がなされます。取消決定謄本が商標権者に送付され、30日以内に知財高裁に決定取消訴訟を提起しない場合には商標権は最初から無かったものとなります。
商標登録無効審判
異議申立て期間の2ヶ月を経過してしまっても、商標登録につき無効事由が存在する場合には商標登録無効審判申立てを行うことができます(46条)。異議申立てと違いこれには期間制限はありません。申立権者については条文上制限はありませんが、一般に商標登録について利害関係を有する者でなくてはならないと解されております。無効事由としては1項に列挙されておりますが、主なものとして3条、4条といった登録要件の不備、先願規定違反(8条)、条約違反、冒認出願等が挙げられます。無効事由の存在が認められますと、登録無効審決が出され商標権はやはり最初からなかったこととなります(46条の2、1項)。そしてこれに対しても知財高裁に審決取消訴訟の提起を行うことができます(63条2項)。
コメント
特許庁のデータによりますと、本件イベント会社が問題となっている商標を出願し登録されたのが2015年12月4日となっております。徳川ミュージアムが申立てを行ったのは今年3月とされておりますので、登録異議申立て期間は過ぎていると考えられ、商標登録無効審判申立てがなされたものと思われます。無効事由としては8条の先願規定に違反しないかが審理されると考えられます。徳川ミュージアムの商標と商品・役務がほぼ同一であることから無効事由の存在が認められる可能性は高いと言えます。
このように歴史上著名な家紋等であっても社会的相当性の範囲内では原則的に商標登録は認められます。実際特許庁のデータを見ますと、若干の相違はあっても葵の御紋を登録している事業者は多数みられます。本件で問題となったイベント会社もすこしデザインの異なる葵の御紋を2008年にも登録しております。今回の徳川ミュージアムの申立ては法的にはイベント会社の出願のほうが後であったという事でなされたものであり、社会的相当性に反するものとまでは言えないと考えられれます。あたかも徳川家が公式に発売していると消費者に思わせる意図等があれば公序良俗に反するとされる可能性はあります。著名なマークを商標登録する際には先願登録されている商標は無いか、経緯、意図に公益に反するものは無いかをチェックすることが重要でしょう。
- 関連記事
- 富士重工業がSUBARUに社名変更 期待される効果とは?
- 「イソジン」と「カバくん」から見る不正競争防止法
- 中国で商標トラブル「IPHONE」アップル敗訴が意味するものとは?
- 「オレオ」から考える商標とライセンス契約
- 2chの商標登録に見る周知商標と不服審判