「イソジン」と「カバくん」から見る不正競争防止法 (2016/2/12 企業法務ナビ)
1 はじめに
以前、「イソジン」のブランド名と「カバくん」のイメージキャラクターとの分離について取り上げたが(「イソジン」と「カバくん」から見る商標権と著作権)、先日この話題について続報があったため、今回もこの話題を取り上げることとしたい。
明治は、今月9日、塩野義製薬とムンディファーマ社(以下「2社」とする)が4月に発売を予定している「イソジンうがい薬」のパッケージについて、明治のうがい薬のパッケージと類似しており、消費者が商品を混同するおそれがあるとして、同2社に対し、不正競争防止法に基づき、パッケージのデザインの使用の差し止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。
2 不正競争防止法について
不正競争法防止法は、民法の不法行為法(民709条)の特別法として位置づけられており、民法の不法行為法上では原則として認められていない差止請求権を認めている点に大きな意義がある。
また、著作権法や商標法といった他の知的財産法と異なり、特定の行為を禁止する形式をとっているため、他の知的財産法では保護し切れなかった利益を侵害行為から救済できる点においても意義が認められる。
今回の事例では、周知の商品等の表示と混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)が問題となっていると考えられる。
3 不正競争防止法2条1項1号
この条項で保護されるためには、(1)商品等表示、(2)周知性、(3)類似性、(4)混同のおそれ、の各要件を満たすことが必要である。
(1)商品等表示
「商品等表示」とは、人の業務に係る氏名、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいい、文字やマークに限られない。
今回の事案では、パッケージのデザインが当該要件を満たすといえよう。
(2)周知性
周知性とは、商品等の表示が需要者の間に広く認識されていることをいう。明治のうがい薬は一般消費者向けの商品であるため、一般消費者の間で広く認識されていることが必要となる。
(3)類似性
類似性は、一般的に、取引の実情の下で、需要者が両者の外観、呼称、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるかどうかで判断される。
(4)混同のおそれ
ここにいう混同には、商品や営業主体について需要者の間で誤認が生じる場合だけでなく、周知表示の主体と類似の表示を行った主体とが組織上・経済上何らかの関連性があるものと誤信させる場合も含む。
注目すべき点としては、現実に混同が生じていることまでは不要であり、混同が生じるおそれがあることで足りる、という点である。
4 ポイント
今回の事案では、(3)類似性と(4)混同のおそれの要件を満たすか否かが争点となると想定される。
もっとも、注意しなければならないのは、2社がパッケージにカバを使用したこと自体が問題となるわけではない、という点である。明治の「カバくん」は、カバを擬人化した上で衣服等を着用させたものとして、非常にシンプルな出来であるため、同じようにカバを擬人化したキャラクターを用いれば、自ずと似通ったものが出来てしまう可能性が高いからだ。そのため、カバが似ているからといって直ちに(3)類似性の要件が満たされることはないだろう。
そこで、パッケージ全体を見ることが必要となってくる。つまり、カバはパッケージのデザインを構成する一つの要素に過ぎず、商品名の表示方法や、効能・効用といった他の記載情報との位置関係といった、パッケージのデザインを構成する他の諸要素も考慮して判断する必要があるのである。
5 コメント
商品のパッケージに記載されるイメージキャラクターは、一般消費者に対するインパクトがある分、そのデザインを構成する要素としても大きな比重を占めるといえる。
明治による使用差止仮処分の申し立てが認められた場合、2社としては、その後もイメージキャラクターとしてカバの使用を継続するのであれば、明治の「カバくん」と一見して似ていないものを使用することや、商品名の表示方法等の他の諸要素において工夫することが求められることとなる。