有権者の声を政治に!政治家とのギャップを埋めるのが自分の使命 (2016/9/22 Patriots)
東大出身でありながら、自ら起業して政治のポータルサイト「日本政治.com」を立ち上げ、若い世代の政治参画を推進する取り組みを続けてきた鈴木邦和さん。なぜ政治ビジネスを展開しようと思ったのか、そしてこれから目指すものは何なのか、お話をお伺いしました。
きっかけは東日本大震災のボランティア活動
――政治に関りを求めたきっかけについて教えてください。
大学入学時から、漠然と何か「社会のために」役立つことをしよう、という想いはありましたが、具体的にどのような仕事をするのか決めていませんでした。そんなとき転機となったのが東日本大震災です。いつか社会に貢献したいという思いではなく、今このような非常事態において自分に何ができるのか、若さや未熟さを言い訳にするのをやめて、とにかく行動に移すことにしました。
それで震災のボランティアを始めて、ボランティア団体「UT-AID」も立ち上げたんです。「UT-AID」はプラットフォーム的な存在として2年間でおよそ2,000人のボランティアを被災地へ送ることができました。学生・社会人問わず、多くの方々のご支援を頂いて、ボランティアの派遣人数で見れば全国でも有数の規模になりました。しかし、私が被災地の現場でボランティアをしながら最も痛感したのは、行政の役割の大きさとその機能不全だったのです。特に住民にとって明らかに不要な建物の建設計画が着々と進んでいる状況や、仙台にパチンコ屋が乱立して昼間から被災者の方々が通っている様子を見て、初めて「政治」とそれを取り巻く社会構造に興味を持ちました。そのことがきっかけで「いまの政治の構造的な課題を変えられるような仕事をしたい」と考えるようになったのです。
――政治家になろうとは思わなかったんですか?
私はいつも取り組みたい社会課題に対して、どういうアプローチをすればそれを解決出来るか、ということを最初に考えます。職業の選択もそのアプローチの方法のひとつなので、「政治を変える=政治家」という考え方は短絡的で好きではありません。私の政治に対する関心や課題意識はもっと違うところにあったので、政治家になることは全く考えませんでした。
それよりも一般企業への就職活動をしていた時期だったので、正直どうしようかと悩んでいました。しかし、会社員になったらこの決意がきっと薄らいでいくだろう、という確信がありました。それで起業して政治メディアを立ち上げようと動き始めたのですが、初期投資が相当かかるという見積もりが出て、両親にも反対されるし、自分の決断は正しいのか、相当悩みました。
――それでも起業を決意されたんですね。
せっかく自分の目指すべき道へのアプローチ方法が見えていたので、チャンスは今しかない。失敗したらやり直せばいい、というぐらいの気持ちで最後は決断しましたね。ありがたいことに、周囲の人の支援や協力があって、政治メディアを立ち上げることができました。
政治家と有権者のコミュニケーションギャップを埋めたい
――なぜ政治メディアが必要だと思ったんですか?
もともと自分は政治の素人でしたし、一般的な有権者の感覚に近いものを持っていると思います。そんな自分の目から見て、いまの選挙システムはかなり無理があると感じました。
選挙のときでも、それぞれの政治家が任期中に取り組んできた仕事内容はあまりフォーカスされませんし、政策を見て選びましょう、と言われても比較が難しいですよね。街宣車やポスターから判断できる情報はほとんどないですし、日本の街頭演説は一人で一方的に話しているだけで議論というものが一切ありません。
民主主義における一票の価値についてはよく分かっているつもりですが、それでも若い人の感覚では、自分の一票が何のためになるのか、その重みも分からないから投票に行かない、というのが正直なところではないでしょうか。
逆に、政治家の側も苦しんでいる、というのをヒアリングしていて感じました。任期中の仕事を有権者に知ってもらう機会があまりないので、自分の頑張りが正当に評価されにくい。だから結局は選挙前の露出に頼るしかない、という感じでしょうか。
スキャンダルもありますが、たとえば、わいろをなぜ受け取ってしまうか、と言えば、本質的には選挙にお金がかかりすぎる、ということもあるかもしれません。何か不祥事があったとき、個人の問題として終わらせると同じ事が繰り返されるだけ。もっと政治家を取り巻く構造的な問題にフォーカスする情報発信も必要ではないかと思いました。
それで、政治家と有権者とのコミュニケーションギャップを埋めるのが自分の役割としてしっくりくるのかな、と考えて政治メディアの立ち上げを目指しました。もちろん有権者のニーズをちゃんと政治家に届けるのも目的の一つです。
――コンテンツの中の「投票マッチング」は面白かったです。
「投票マッチング」はいくつかのアンケート項目に答えると、自分の考えに近い政党を教えてくれるシステムですが、そこで収集されたデータを世論調査的に活用しています。今までは1票の中にどういうメッセージがあるのかまでは分かりませんでした。でもデータをちゃんと取って分析すると、今まで見えなかった有権者の傾向が出てくるんですね。
既存の世論調査はかなり優れているのでこれからも絶対に必要ですが、一つのツールでは限界があります。世論調査は固定電話で行われているので、電話に出られない・持っていない、という人の声は反映されないからです。その部分を補完する意味で、インターネットは有効だと思っています。
――有権者の方の反応はどうですか?
ユーザーは20~30代の方々が全体の70%なのですが、これを見て投票に行った、という若い有権者の声がたくさんあって、それが一番うれしかったですね。
ITを駆使してオープンガバメントを推進
――最近はメディア運営とは別の活動をされているのでしょうか?
私はいま、選挙における投票という方法に一つの限界を感じています。有権者からすれば、2,3年に一度の国政選挙で候補者と政党名だけ書いて、何を伝えられるのかという思いがあるのではないでしょうか。これまでのメディア運営を通じて、特に若い有権者からそのような諦めをひしひしと感じるんです。これだけコミュニケーションツールが発達した現代なら、もっと有効な民意の集約の仕方があると私は考えています。
いま、新しい試みとして、選挙に縛られない形で有権者の政治に対する関わり方やニーズ、意見を拾える仕組みを作ろうとしています。海外ではインターネットを活用し、政治を国民にとって開かれたものにしていく「オープンガバメント」の考え方が主流になりつつありますが、日本でも自治体がうまく活用すれば日々の政策決定のプロセスに有権者を入れていくことが可能だと考えています。例えば自治体がどこに公共のWI-FIを設置すればよいか、というときに、スマホのアプリなどで住民にアンケートを実施して集計結果を参考にする、というようなことが可能になるでしょう。
このように選挙以外の日常で有権者の意見を政治に反映できる仕組みづくりを当面はやっていきたいと考えています。その仕組みができれば、若い層の声を吸い上げることも可能になるでしょう。
海外で「オープンガバメント」に注目が集まっているのは、広く有権者の声を拾うことが政治家の評価で重要な地位を占めるからです。投票で政治家を選ぶのは自分たちの生活を決めること。だから「投票に行こうよ」とメッセージを発するだけではなく、実際に自分たちの声が政治に届いている、と実感できる機会をもっと持ってもらうことが必要だと思うんです。
――どのような若者に政治を目指してほしいですか。
政治家のスキャンダルも日々報道されていますが、今の政治家がダメだから、じゃあ自分がなろう、というのはセンスが良くないと思います。
まずは、今の政治家がどのような問題を抱えていて、なぜ彼らが問題をクリアできないのか、深く掘り下げて考えてほしいですね。その上で、自分だったらどういう新しいアプローチで政治を変えられるのか、きちんと説得力を持って語ってほしい。そういう志を持った若い政治家の方々と一緒に仕事が出来たら嬉しいなと思います。
聞き手:吉岡 名保恵
提供:Patriots
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