揺らぎ始めた地方創生、鳴り物入りの施策が次々と裏目に (2016/9/16 政くらべ)
アベノミクスと並ぶ安倍政権の目玉施策地方創生が、ここに来て揺らいでいます。
政府機関や民間企業本社機能の地方移転、企業版ふるさと納税の導入など次々に鳴り物入りの施策を打ち出していますが、掛け声通りの成果が出ていないからです。政府が本気度を示さなければ地方消滅となりかねません。
政府機関の地方移転は全くの掛け声倒れ
掛け声倒れの代表例ともいえるのが、政府機関の地方移転です。首都圏の東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県を除く43道府県に誘致したい政府機関の提案を求め、それに基づいて対応を検討してきました。
中央省庁では文化庁が京都府に全面移転することになりましたが、あとは徳島県に消費者庁、和歌山県に総務省統計局の一部業務が移るだけ。研究機関や研修機関など独立行政法人では、全面移転が決まったのは国立健康・栄養研究所の大阪府移転と既に広島県へ移転済みの酒類総合研究所のわずか2件にとどまりました。一部移転は20機関ほどありますが、どの部門が移るのかはっきりしないところも多くあります。
結局のところ、東京を離れるのを嫌がる官僚の抵抗を突破できなかったわけです。政府機関の地方移転は政府が自ら率先することに意義があります。それなのに、この体たらくでは政府の本気度を疑われても仕方がないでしょう。
企業の本社移転もまだ効果は見えず
政府は2015年に地域再生法を改正し、東京23区から本社機能を地方へ移す企業に対し、財政面の優遇をしています。対象となるのは首都圏や中京圏、関西圏の中心部を除く地域に本社機能を移したケースです。
ファスナー、サッシ大手のYKKグループがその第1号として富山県へ本社機能の一部を移しましたが、これは法改正に関係なくそれ以前から進めてきた計画です。YKKグループの移転計画がきっかけになり、全国知事会が政府に本社機能を地方へ移す企業への優遇措置を要望した経緯もあります。あとはわずかな数の中小企業が地方へ移っただけ。
これに対し、民間信用調査機関のまとめでは、2015年に本社を首都圏に移した企業が1981年以来の過去最高を記録したそうです。地方の人口減少が進み、労働力や商機を狙って東京へ拠点を移したためとみられています。政府の思惑は東京一極集中の流れを止められず、ほとんど効果を上げることができていません。
企業版ふるさと納税は低調な滑り出し
本年度の目玉事業の1つが企業版ふるさと納税の導入です。しかし、8月に認定された第1弾は全国87自治体の102事業にとどまりました。
家具販売大手のニトリホールディングスが財政破綻した北海道夕張市に約5億円の寄付を決めるなど前向きな事例も見受けますが、日本を代表する大企業の寄付決定はそれほど多くなく、低調なスタートと受け止められています。企業版ふるさと納税では寄付した企業に入札などで便宜を図ることが禁じられたため、企業側はメリットが少ないと考えたもようです。
本年度中に第2弾、第3弾の認定が予定されていますから、現時点で判断するのは早計かもしれませんが、景気や企業業績の悪化が叫ばれる中、1年目から大きな期待をかけるのは難しいとみられています。寄付集めへ積極的に動く自治体の動きも、まだ一部にとどまっています。
求められる政府の本気度を示す事業
総務省のまとめでは、全国41の道府県で人口が減少しています。商店街は閑古鳥が鳴き、ゴーストタウン寸前の状態。自治体も税収減から必要な事業に手が回らないところが増えてきました。アベノミクスの効果もほとんど及ばず、地域経済の衰退は目に余るものがあります。政府の小手先だけの対応と田舎暮らしを希望する定住者を各地方が奪い合うだけで明るい未来が開けるはずもありません。
政府は今、将来を見越した対策と当面の地域活性化策の両方を打ち出すことが求められていますが、小さなことを積み上げれば何とかなる時代はとっくに過ぎました。政府の本気度がだれの目にも明らかになるようなもっと思い切った施策に、1日も早く手を着けなければならないでしょう。
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