千葉銀行が提唱する「千葉県創生」戦略プランとは? (2016/7/9 nezas)
「地方創生」に取り組む地方銀行の動向
日本にとって「人口減少問題」と「地方創生」は大きな課題として注目され、地域社会の活性化を通して経済の持続的な発展を可能にするという考え方が重要視されている。特に注目されているのが、金融機関による地方創生への取り組みだ。地域密着型の事業を展開している地方銀行にとって地方創生は自行発展の懸け橋であり、積極的に取り組む地方銀行が増えている。
千葉銀行もそんな地方銀行の一つであり、長年にわたり、数多くの地域活性化を目指した提言を発信し続けている。たとえば、2011年の東日本大震災では千葉県内の被害を受けて「『東日本大震災』の千葉県経済への影響と復興への道」、2014年には「2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて千葉県が取組むべき課題」などがある。2015年9月には「『千葉県創生』戦略プラン~千葉県の持続的な地域づくりに向けて~」を発表した。地域密着型経営が求められる地方銀行によって、どんな戦略プランが策定されたのか、「千葉県創生」戦略プランの概要をみてみよう。
県内自治体を「数値化」して課題を分析、方向性を示す
「千葉県創生」戦略プランの最大の特徴は、千葉県すべての自治体の特性を「数値化」し、その自治体が持つ強みや弱み」を客観的に捉えようとしていることだ。他の自治体や県全体の平均値などと比較・分析することで、地域が抱えている課題や特性、魅力を浮き彫りにすることができる。
数値化は、千葉銀行系列会社のシンクタンク「ちばぎん総合研究所」が担当している。具体的には、千葉県内の54市町村ごとに定量要因77項目、定性要因44項目を数値化する。「教育」「就業環境」「産業」「自然、文化、歴史」「住環境」「安心・安全」「都市基盤」「健康・福祉」「老後」「観光」「愛着」といった項目に分けて分析が行われた。
たとえば、東京ディズニーランドがある浦安市の場合、「産業」や「自然、文化、歴史」といった項目では平均的な数値になっているが、「観光」や「愛着」といった項目の数値は他の市町村を大きく引き離している。
客観的なデータに基づいた定量分析に加えて、数値化が難しい定性分析も併せて実施しているところが特徴だ。
千葉県内を5つの地域に分けて、地域の現状、課題、方向性を分析
こうした市町村の数値化による分析に加えて、戦略プランでは千葉県内を5つの地域に分け、それぞれの地域の現状や課題、今後の取り組みの方向性、地方創生の在り方についても提言を行っている。それぞれの地域特性、今後の方向性について紹介する。
●東京湾岸地域
1970~80年代に東京のベッドタウンとして発展したこのエリアは、都市機能の郊外進出が続いており、今後の人口減少、高齢者数の増加が懸念されている。都心に近いという地域特性を活かして、エリア外からの交流人口の増加促進が求められるところだ。そのためには、環境変化に対応した街づくりが必要であり、子育て世代の転入などを促進するための定住化促進、急増する高齢者が暮らしやすいコンパクトな街づくりなどが課題となっている。
●アクアライン・圏央道沿線地域
千葉県の製造品出荷額の約3分の2を占める京葉工業地帯を湾岸部に有する一方で、内陸部は農業従事者が多く、少子・高齢化が進行しつつあるエリアだ。アクアライン800円の恒久化や圏央道の全線開通によって周辺への交通の利便性が高まり、広域連携による街の魅力を向上させることが求められている。産業構造変革が求められている、京葉臨海コンビナートの再生も注目されている。
●成田空港周辺・印旛地域
成田市周辺の都市部、ベッドタウン化している西側エリア、そして過疎地域となっている東側という具合に、異なる複数の特性を持つエリアだ。成田国際空港を核とする広域連携強化による地域活性化が必要とされている。具体的な方法としては「国家戦略特区」構想の実現、圏央道の全線開通、成田空港第3滑走路の整備など社会インフラの整備充実などによって、ビジネスや観光の両面で都市間の競争に勝てる環境づくりが求められている。
●常磐・つくばエクスプレス沿岸地域
つくばエクスプレス開業以来、住宅開発が活発に行われてきた沿線地域だが、子育て世代の転入が増加し、ベッドタウンとしての特性が強いエリアだ。暮らしやすい住環境整備によって、定住人口の増加を目指す。さらに、学園都市つくばを抱えており、イノベーション創出、ベンチャー企業の成長実現に向けた「産・官・学・金」の連携強化を図ることも重要といえる。
●銚子・九十九里・南房総地域
地域の資源が豊富で農業、漁業を基幹産業としている地域だが、現時点で人口減少、高齢化の局面に突入している。エリア内の18自治体中14市町村が「消滅可能都市」と指摘されているのだ。元気な高齢者が住みたいと思う地域特性を活かして、日本版CCRC構想(高齢者が自らの希望に応じて地方に移り住み、地域社会において健康で活動的な生活を送り、医療介護が継続的に受けられる地域づくりのこと)の実現を目指す。
戦略プランでは、こうした5つの地域特性に応じた地方創生を推進するために、自治体間の「広域連携」に取り組んでいる。そのために3つのフェーズに分けて、フェーズごとに「プロセス→金融機関の動き→活動ポイント・方向性」というステップで推進している。金融機関の動きをフェーズごとに紹介すると、次のようなアクションとなる。
たとえば「南房総地域観光連携」の場合、広域連携による観光振興としてスポーツツーリズム、滞在・体験型などを戦略プランの一環として提案しており、館山市が総合戦略の基本方針として「広域連携(3市1町)」による取り組みの推進を2015年10月に実現している。
他にも、「千葉県創生」戦略プランでは、「30年後の千葉県の姿」などで想定したロードマップの進捗状況について、PDCAサイクルを重視した確認をしている。千葉銀行はオリンピック開催までに取り組むべきプロジェクトや事業の状況を把握し、フォローアップの提言をしていく予定だ。
地方銀行による「広域連携への働きかけ」が拡大
千葉銀行の「千葉県創生」戦略プランは現在も進行中だ。「戦略プラン」は、着実に成果を上げつつあるようだ。
こうした千葉銀行の取り組みは、全国の地方銀行の指針にもなっており、同様の動きを模索する地方銀行も今後は出てくるだろう。たとえば、千葉銀行以外でも北海道銀行、七十七銀行、八十二銀行、静岡銀行といった地方銀行が、広域連携への取り組みが拡大している。地方創生において、地域に密着する地方銀行のパワーが活かされようとしているのだ。
提供:nezas
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