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倒産数は3割減 発表される統計数字の裏にある実態は? (2016/8/28 JIJICO

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倒産数は3割減と安倍総理が発言

2016年の参議院議員選挙を前に安倍総理は「倒産は三割も減ったのだ」と言いました。商工リサーチの発表によると、最新の2015年の倒産数は年間[8,812件]で十年前の2005年の[12,998件]に較べると68%になっています。この数字だけ見れば、確かに倒産は三割減っています。果たして本当に倒産はこのように三割も減ったのでしょうか。商工リサーチの発表数は、倒産数のすべてをちゃんとカウントしているのでしょうか。

倒産の定義は「債務超過で債権者(未払先や未返済先)を残して事業を停止すること」です。例えば小規模なラーメン屋さんが(ラーメン屋さん、例に出してごめんなさい)、債務超過状態で金融機関からの借入や買掛先の未払を残して、事業を停止して市場から消えていった場合に、その数は商工リサーチの発表する数字に反映されているのでしょうか。

不景気

公表される倒産は負債総額1,000万円超に限定

商工リサーチの場合は「弊社は、全国・負債総額1千万円以上の倒産統計を「倒産月報」として月次発行しております」と明記されています。帝国データバンクは、「この倒産集計は、倒産4法(会社更生法、民事再生法、破産法、特別清算)による法的整理を申請した負債額1,000万円以上の法人、および個人経営を対象としています。任意整理(銀行取引停止、内整理など)は集計対象に含みません」となっています。

これらのデータは、地方裁判所に申し立てられた倒産の法的処理である[法人の破産]の数のうち(帝国データバンクの場合は[会社更生法][民事再生法][特別清算]が加えられている)、負債総額が1,000万円を超えたものに限定された数字なのです。小規模なラーメン屋さんが1,000万円もの負債総額を抱えているとはとうてい思えません。ましてや、[法人の破産](と代表者[個人の破産])には裁判所に収める[予納金]が120万円もかかってしまいます。それ以外にも申立て代理人の弁護士費用もかかるので、小規模なラーメン屋さんの倒産が地裁に申し立てる[法人の破産]処理をするとは考えにくいのです。よって、このような小規模の破産が商工リサーチや帝国データバンクのデータに入っているわけはありません。

そもそも、倒産したからといってどこかに報告(届け出)する義務はないのですから、小規模であれば、わざわざ費用をかけて処理することは少ないのです。つまり商工リサーチや帝国データバンクなどは、小規模な倒産をこまめに捉えることはせずに、地方裁判所が発表する数字だけで倒産の実数としているのです。総理大臣が頼りにしている数字もまさにこの数字なのです。

発表される統計数字には仕掛けのあるものがあります。ダレル・ハフによる『統計でウソをつく法』という名著もあるくらいで、統計数字をうのみにすることは厳に慎まなければならないところです。[交通事故による死亡者数]は、交通事故を原因として[24時間以内]に死亡した数だから、実数ではありません。[有効求人倍率]も、[ハローワーク]を経由した数字だけだから全体を表してはいません。このように正確でない数字がまかり通るのは、そのほうが都合のいいと思う人たちがいるからでしょう。

廃業企業数から推測すると倒産の実態は発表の10倍以上に

では、倒産の実数はどこかで補足されているのでしょうか。中小企業庁が発行している『中小企業白書』には[廃業企業数]というデータが発表されています。この中小企業白書のデータは、総務省の[企業統計調査]に基づいていて、厚生労働省「雇用保険事業年報」をデータソースに、「この統計における雇用保険に係る労働保険の消滅を廃業とみなす」とあるので正確だと思われます。

では、果たしてこれらの倒産数は実態に即した数なのでしょうか。厳密には[廃業]には[倒産]以外にも、債務超過でなない[清算]も含まれるのですが、このデータからはこの倒産と清算の比率は明らかになっていないので、倒産の実数は明らかにはなりません。しかし、一般的に清算数が倒産数を上回っているとは、到底思えません。企業法務や倒産に詳しい弁護士などに聞いてもその比率は1:9程度で倒産がはるかに上回っているだろうと推察されています。

仮に、廃業数のうち倒産が70%と仮定して商工リサーチ発表のデータと比べてみます。2012年の商工リサーチの倒産数[12,124件]に対して廃業数は[182,123件(260,117件の70%)]と実数は十五倍になり、2002年の商工リサーチの倒産数[19,087件]に対して廃業数は[202,811(289,731件の70%)]と実数は十倍以上となり、商工リサーチのデータと較べると著しく多くなっています。

これでは、商工リサーチの発表する倒産数は実態を表しているとは到底言えないでしょう。倒産の実数は、商工リサーチや帝国データバンクなどが発表している数字より十倍以上多いのです。またこの十年間の廃業数の推移も三割減ではなく、一割減程度にしかにしかなっていません。

で、倒産の実数は減ったのでしょうか。答えは、正しいデータがないので正確な数とはいきませんが、現れているデータからは「一割ほど減った」と言えましょう。

付記。
一方で、先月日本海地方の講演に行った際に税理士の方から以下のような話をうかがいました。

「地方銀行はどんどん貸しています。わたしたちから見ても危ない会社にもずぶずぶに貸しています」
「地方の金融機関には資金がかなりだぶついています。優良企業は融資を求めてこないので、小規模零細企業の求めに応じて貸しだしているのです」
「信金や信組、あるいは都市銀行も出していますが、地銀がゆるくなっています」
「だから倒産が減っています。実際は倒産状態の中小零細企業が生き残っています」
「この状態が不健全だということは金融機関も企業も充分に判っています」
「揺り戻しはいつか来るのでしょうが、当面はこの状態が続きそうです」

もしこうしたことが倒産を妨げているとしたら、この先恐ろしいことが起こると予測されます。

提供:JIJICO

著者プロフィール
内藤 明亜/経営危機コンサルタント内藤 明亜/経営危機コンサルタント
内藤明亜事務所
1946年 東京生まれ 1965年 明星学苑高等学校普通課卒業 1967年 多摩美術大学付属多摩芸術学園映画課中途退学 1969年 広告業界に入り、SP代理店、制作会社、広告代理店と広告関連会社を歩む 1979年 株式会社スリークォーター設立  ※最大売上4億円、社員数20名 ※社団法人日本広告制作協会(OAC)に参加、後に理事を勤める 1994年 会社経営15年目に会社を倒産 1995年 『倒産するとこうなる』を出版(明日香出版社) その後、経営危機コンサルタントとして内藤明亜事務所設立
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