長時間労働の是正へ!労働基準法改正の動き (2016/4/6 企業法務ナビ)
はじめに
3月25日、安倍首相は長時間労働の是正にむけて、労働基準法の改正を目指す考えを示しました。またそれを受けて厚生労働相は労働基準監督署の立入検査を行う実施基準を時間外労働100時間から80時間に引き下げる等の方針を示しました。
時間外労働
労働基準法によりますと1日の労働時間は上限が8時間、1週で40時間が限度となっており、この法定労働時間を超えて時間外労働を行うには、いわゆる36協定を締結する必要があります。36協定につきましては以前にも取り上げましたが、この協定が締結されますと時間外労働が可能になりますが1ヶ月45時間が上限となっており、それ以上はさらに協定で特別条項を設ける必要があります。特別条項による時間延長は年6回という回数制限があり協定で定めた特別な事情の時にのみ許されます。
労働基準法上の問題点
労働基準法では36協定を締結せずに1週40時間という法定労働時間を超えた場合に罰則が設けられています(119条)。しかし時間外労働1ヶ月45時間や特別条項延長に関しては厚労省告示による基準であり、それに違反した場合でも罰則は設けられておりません。つまり労働基準法には時間外労働の時間制限は設けられておらず、36協定さえ締結すれば際限なく労働時間を延長することができるのが現状となっております。また法定労働時間違反に対する罰則も6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金と厳しいものとは言えません。
政府の方針
政府はこのような長時間労働を許容する現行の労働基準法、特に36協定関連のあり方を見直し来年以降の通常国会での改正に向けて調整を進める方針を固めました。36協定による時間外労働の上限と、それに違反した場合の罰則の新設が含まれるものと思われます。また現行の制度上でも可能な取り組みとして時間外労働が100時間を超えた事業所への立入検査基準を80時間に引き下げ、労基署による監督を強化する方針を示しました。また公正取引委員会と連携し、親子会社や取引先企業間で慣例上行われている長時間労働の取り締まり強化にも乗り出す方針です。独禁法は不公正な取引方法を禁止しており(19条)そのひとつとして優越的地位の濫用を禁止しております(一般指定14項)。取引上優位な立場の企業が取引先企業の従業員を派遣させたり、無償で時間外労働を強いる場合が当たります。労基法と合わせて独禁法による長時間労働の取り締まりを目指すものと言えます。
コメント
安倍首相は一億総活躍を掲げ、その一環として昨年から長時間労働撲滅運動を推進しています。それを受け厚労省も重点監督を実施するなど監督強化を行ってきました。一方で上記のとおり労働基準法には時間外労働に対する規制の不備があり、時間外労働対策は功を奏してこなかったのが現状と言えるでしょう。また労働基準監督官の人員不足も相まって労働関係法令の違反はむしろ増加しているものと考えられます。厚労省が昨年行った重点監督の結果発表でも74%の事業所で何らかの違反が見つかったとしています。労働基準法の改正による上限設定と罰則強化だけでなく、各省庁間の連携、さらに労働監督の民間委託等、官民一体となった労働環境改革の動きが必要と言えるのではないでしょうか。
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