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[用語解説]陣中見舞い、当選祝い

政治家による「陣中見舞い」や「当選祝い」は可能なのか (2020/7/22 関東学院大学経済経営研究所・客員研究員 本田正美)

普段から「陣中見舞い」や「当選祝い」を渡している?

 河井克行・案里議員による買収疑惑で、にわかに注目を集めたのが「陣中見舞い」と「当選祝い」ではないだろうか。

 2人が広島県内の首長や議員らに「陣中見舞い」や「当選祝い」として金銭を渡したとされているが、それが買収の目的をもってなされたのではないかとの容疑がかけられている。

 この疑惑を取り上げた報道の中で、評論家や国会議員経験者から、多くの国会議員が地元の首長や地方議員に対して「陣中見舞い」や「当選祝い」を渡しているとのコメントがあった。どうやら、日常的に国会議員は「陣中見舞い」や「当選祝い」を渡していると思われているようだが、果たしてそれは本当だろうか。

ご祝儀

※写真はイメージです

政治家による選挙区内での寄附行為は禁止されている

 「陣中見舞い」や「当選祝い」は候補者に対して行う寄附行為である。まず確認しなければならないのは、政治家による寄附行為の可否である。

 ここで言うところの「政治家」には、現職の公職者(首長や議員)の他に候補者や立候補予定者も含まれる。政治家による寄附行為は公職選挙法に規定があり、少なくとも条文上は、その可否が明確にされている。

◇公職選挙法第百九十九条の二
公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この条において「公職の候補者等」という。)は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域。以下この条において同じ。)内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。

 この条文で注意を払う必要があるのが最後に出てくる「寄附」という文言である。公職選挙法では、「寄附」について、次のように定めている。

◇公職選挙法第百七十九条2
この法律において「寄附」とは、金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付の約束で党費、会費その他債務の履行としてなされるもの以外のものをいう。

 同様の規定は政治資金規正法にもある。

◇政治資金規正法第四条3
この法律において「寄附」とは、金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付で、党費又は会費その他債務の履行としてされるもの以外のものをいう。

 条文の読み方が少し難しいかもしれないが、政治資金規正法の方が分かりやすく、「交付で」のところで区切るとよい。つまり、寄付とは、金銭や物品などの供与や交付のことを指すのである。条文の後半部分は、金銭や物品の供与や交付であっても党費などや債務の履行は含まないということを言っているのであって、それらについては政治家でも行うことができるという規定になっている。党費や会費は言うに及ばず、債務の履行とあるので、何かを行ってもらった際に、それに対しての支払いを行うといったことは認められているのである。

 公職選挙法の条文から明らかなように、政治家による選挙区内での寄附行為は禁じられている。つまり、政治家による「陣中見舞い」や「当選祝い」は選挙区内では禁止されているのだ。

では、「陣中見舞い」や「当選祝い」は不可能なのか

 公職選挙法で政治家による選挙区内での寄附行為が禁じられている。このことをもって、政治家が「陣中見舞い」や「当選祝い」を行えない、あるいは行っていないとするのは早計だ。実態として「陣中見舞い」や「当選祝い」を合法的に行う方法がある。それは、政治団体に対する寄附を行うという方法だ。

政治団体間の政治資金の流れ

政治団体間の政治資金の流れ(総務省「政治資金規正法のあらまし」より)

 これはどういうことかというと、例えば国政政党に所属する国会議員がいるとする。その国会議員は各都道府県の選挙管理委員会に届け出をすることにより政治団体を開設する(複数の都道府県の区域で活動する場合には都道府県経由で総務省に届け出がなされる)。

 国政政党に所属している場合、その国会議員は選挙区のある地域に支部を設置し、その支部長となり、その支部についても政治団体として届け出を行う。

 地方議員も同様で、国政政党に党籍を持っていれば、選挙区のある地域の地域支部を設置し、その支部長を務め、その支部について政治団体としての届け出を行う。このあたり、地域によって事情は異なると思うが、都道府県議会議員が政党の地域支部の支部長を務め、市区町村議会議員はその支部の一員となることもある。

 国政政党はそれら政治団体へ無制限に寄附を行うことができる。

 そこで、まず国政政党は国会議員が支部長を務める支部(政治団体)に寄附を行う。次に、国会議員が支部長を務める支部(政治団体)は、政党から寄附された資金を原資にして地方議員が支部長を務める支部(政治団体)に寄附を行う。

 この資金の流れはすべて合法である。各政治団体間の寄附は年間5000万円を上限に行うことが認められている。

◇政治資金規正法第二十二条
政党及び政治資金団体以外の政治団体のする政治活動に関する寄附は、各年中において、政党及び政治資金団体以外の同一の政治団体に対しては、五千万円を超えることができない。

 「陣中見舞い」や「当選祝い」もこの流れに乗せてしまえば合法に処理できてしまう。政治家が「陣中見舞い」や「当選祝い」として金銭を候補者や当選者のもとに持って行ったとしても、それを政治団体間での寄附行為として処理してしまえば適法に処理されることになるのだ。

 もちろん、政治団体間の処理ができればいいので、相手先の政治家が政党に所属しておらず、支部がなくても問題ない。相手先の政治家が政治団体を置いていればよく、例えば政党に所属しない首長であっても、その政治団体に対して寄附を行えば合法なものとして処理される。

 日常的に国会議員は「陣中見舞い」や「当選祝い」を渡しているという場合、その少なくないものはこの政治団体間での寄附として処理されているはずであり、それを説明しないと誤解を生むことになる。

選挙運動に対する例外も

 さらに、政治資金規正法には以下のような条文がある。

◇政治資金規正法第二十一条の二
何人も、公職の候補者の政治活動(選挙運動を除く。)に関して寄附(金銭等によるものに限るものとし、政治団体に対するものを除く。)をしてはならない。

 「何人も」とあるので、政治家に限らずあらゆる主体が、公職の候補者の政治活動に関して、金銭による寄附は行えないと定められている。この条文のポイントは、「選挙運動を除く」という部分だ。これが意味するところは、選挙運動に対する寄附は認められているということである。政治活動には金銭による寄附が認められていないが、選挙運動については金銭による寄附が認められているというのは随分と分かり難い仕組みではあるが、現行法上はそうなっている。

 選挙運動に対して寄附が可能とされており、その主体は政治団体であってもよく、政治団体も政治家の選挙運動に対して寄附を行うことが可能である。

 公職選挙法第百九十九条の二は、政治家による選挙区内での寄附は一律に禁止しているが、これは選挙区外には及ばない。そこで、政治資金規正法第二十一条の二の規定により、政治家であっても選挙区外であれば、政治家の選挙運動に対して寄附が可能であるため、選挙運動に関わり「陣中見舞い」として候補者に寄附を行うことも可能となる。

 政治家が自らの選挙区外に出て行って、そこで選挙を戦う候補者に「陣中見舞い」を渡すというのは、その政治家と候補者の間に個人的な関係があるなど例外的なことだとは思うが、そのような行為は合法である(金額に上限はある)。

 何とも分かり難い仕組みで、政治家本人も時に間違えることがあるのではないかと思うが、政治団体を利用し、政治資金収支報告書に記載するなどの合法的な処理を心がければ、違法性が問われるような事態には陥りにくいのも事実である。

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