SIF2019分科会「家族を、問う」―結婚と出産だけではない、新しい家族のカタチとは (2019/12/20 政治山)
「いまこの教室にいる100人のうち、25人は結婚しません。そして、結婚した75人のうち35人は離婚します。つまり結婚して離婚しないのは4割だけ。大学では学生たちにそのように話します」と切り出したのは、山田昌弘中央大学文学部教授。
去る11月30日に東京国際フォーラムで開かれた「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2019」の「家族を、問う」分科会。「日本家族の現状とこれから」というテーマで講演した山田教授によると、高度成長期に形成された「夫は主に仕事、妻は主に家事で、豊かな生活をめざす」という家族観は、オイルショック以後の低成長期に入って、若年男性の収入の伸びが鈍ったため、男子の収入が高くなるのを待つことによる晩婚化や既婚女性のパート労働者化、またパラサイトシングルの出現と増大という現象を生み出しました。
そして、1995年以降のIT産業を中心としたニューエコノミーの進展やグローバル化によって、安定した職と不安定な職に分裂した男性の収入は二極化し、「一人の収入では妻子の豊かな生活を支える見通しが立たない」男性が増大します。こうして、戦後形成された「夫は仕事、妻は家事」という典型的家族を、作り維持する層は量的に減少していきます。また、高収入男性とセレブ主婦といった典型的以上に豊かな家族を作れる層は、そもそも少数で増えることもない。そして、経済的に不安定な既婚子持ち層や親と同居する未婚層、親にパラサイトできない低収入未婚、離別層といった、典型的家族観からはみ出る層が増大してきたわけです。
これまでの日本社会の家族観は、「家族の中で生活できる収入を稼げる人がいること」を前提としていました。しかし、その前提が大きく崩れていく中で、戦後家族モデルからはみ出る人たちがどんどん増えているというのが現実です。こうした現実からは、多くの人が孤立化し、無縁化社会になっていくというディストピア(理想郷=ユートピアの反対)の未来が想像されます。
こうしたディストピアへの道を防ぐためには、「夫が主に稼ぎ、妻が主に家事」という戦後家族モデルを離れ、家族の多様化を進めること。同性婚、一人親、再婚家族、シニア結婚、専業主夫家族といった、様々な形の「家族」を認めていくこと。またその一方で、シェアハウス、グループホーム、友人共同体といった家族でなくても生活でき、親密性が満足できる関係を作っていく。こうした新しい家族の可能性を広げていくことこそが、いま求められていると山田教授は主張しました。
次に登壇したのは、多様な家族のあり方の一つである事実婚を実践している、江口晋太朗株式会社トーキョーベータ代表取締役。江口氏は、グローバルジェンダーギャップ指数では、日本は149カ国中110位(※)でG7では最低レベルであることを示した上で、女性にも男性にも、仕事を犠牲にせず親となる権利があるにも関わらず、子どもを持つ男性と持たない男性との収入の違いはあまりないのに、子どもを持つ女性と持たない女性との間の収入の違いは大きいという、日本の現状の男女格差を指摘しました。
※世界経済フォーラム(WEF)2018年版(2019年は121位)
そして、既存の婚姻に関する法制度について言及します。まず、現在の夫婦同姓の制度の中では、妻の姓を選ぶ夫婦は4%だけという現実があり、旧姓利用による弊害なども存在しているため、働く既婚女性の77%が選択的夫婦別姓を可能にする法改正に賛成し、結婚する人が最も多い30代では84.4%が賛成していることからも、法改正の実現が望まれることを明らかにします。
また、事実婚の問題については、夫婦の財産や親権、相続といった点に関して、法律婚を前提として現在の法制度が成り立っているため、離婚時の財産分与ができない、住宅ローンが組めないこともあるなど、事実婚による弊害は多いことを明らかにしました。こうした法制度を、多様な家族をカバーできるような仕組みに変えていくことが求められていると、江口氏は主張します。
そして、そうした法制度とは別に、家族生活、夫婦生活のあり方は、時間が経つと共に常に中身を見直す必要があるので、家族を作っていく自分たち自身が、どういう家族生活、夫婦生活を送るかの対話を重ねていくことが大切だと訴えました。
次に登壇した藤めぐみ一般社団法人レインボーフォスターケア代表理事は、LGBTが里親として子どもたちを養育していくために、法制度などの課題の解決を図る運動をしています。日本において、保護された児童が暮らしている場所は施設が8割で、里親が2割という現実があります。こうした状況が国際的な批判を受ける中で、里親を増やす方法の一つとして「LGBTも里親に!」という活動を藤氏らは始めました。
法律上は同性カップルでも里親になれるのですが、同性カップル側の間違った思いこみや、自治体の規定や消極的な対応などが障害となっていた中で、2017年に大阪市で男性カップルの里親が初認定され、当時の塩崎厚生労働大臣が「ありがたい」と発言することとなりました。
LGBTも里親になれるようにすることによって、男性からの性的虐待を受け傷ついた女の子をレズビアンカップルに任せることができたり、日常的にDVを目撃してきたため、つい女性へ乱暴をしてしまう男の子をゲイカップルに任せたりすることができるなど、多様な里親がいることは、子どもにとっていいことだと藤氏は主張します。
そして、自らが里親となった経験から、子どもには「自分を見てほしい!」という思いがあり、それに対して里親として「君だけを見ているよ!」と応えることの大切さがある。また、お互いが「君に頼りたい」と言える、与えたり、与えられたりの関係があることが里親と施設との大きな違いだとします。そして、「子どもたちは、愛情をもって大切に育てる大人、自分を見る大人、自分を頼ってくれる大人、チームを必要としているのであり、それは同性カップルだろうが、トランスジェンダーだろうが、何も変わらない」と力強く訴えました。
最後に、ほとんどが10代、20代だった参加者に、「結婚・出産しなくても家族になれる今、あなたは何を選びますか」という質問が、主催者から出されました。参加した若者たちは、それぞれ自分の結婚観や家族観、未来の家族のあり方に思いをめぐらせ、分科会は終了しました。
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