「事実婚」とはどんなもの?法律婚との違い・メリット・デメリットも解説 (2018/8/7 JIJICO)
ネットで話題となったはあちゅうさんの「事実婚」報告
先日、ブロガーで作家のはあちゅうさんが事実婚を公表して話題になりました。事実婚に対する言葉は「法律婚」。法的には婚姻届を役所に提出することで成立します。つまり、日本の場合には、婚姻届を提出しないと「婚姻」と認められず、事実婚や内縁関係と扱われるのです。
「事実婚」と「内縁関係」似ているようで違うところ
なお、事実婚も内縁関係も基本的には同じような意味で扱うことが多いですが、内縁は、一般的に結婚する意思があり、それに基づく共同生活があることが必要とされています。社会的にみて、法的手続きを踏んで結婚していなくても、結婚している場合と同じような保護が必要といえるには、相当期間の共同生活があることが前提になります。
内縁関係の場合は、一方がまだ法律上の婚姻関係にあるものの破綻していて、別の方と重婚状態の関係に入る、いわゆる「重婚的内縁関係」にあるときを含めて指すことがあります。
住民票に「妻(あるいは夫)(未届)」と記載される事実婚
先に触れましたように、婚姻届を役所に出さないと事実婚として扱われるので、特に何か手続きをする必要はありません。同居の場合には、何も手続きをせずに住民票を提出すれば「世帯主」「同居人」と記載されるだけです。
はあちゅうさんがツイッターで書いていた手続きは、役所への住民票提出の際に希望すれば、行ってくれるとのことです。これは、提出先の役所から双方の本籍地に婚姻の事実がないかどうか確認をした上で、妻(あるいは夫)(未届)と記入してもらえるというものです。この手続きはどの役所でも行っています。
事実婚のメリットは?
姓の変更が不要
婚姻届を提出して夫婦になることで、パッと思いつくものとしては「夫婦同姓」です。つまり、いずれか一方の戸籍に入ることで、入る側が姓を変更する必要が出てきます。
ですから、特に法律婚を選択せずに事実婚のままでいる理由で、法律婚にすると姓の変更が必要になり、仕事の支障が出る、自分が跡継ぎで姓の変更をしたくない、あるいは特に再婚の場合に親族(子どもなど)が反対をしているというケースが割とあるようです。
事実婚の場合には、先にも述べましたように、婚姻届を役所に提出して、一方が他方と同じ戸籍に入る手続きを取らないので、姓が別のままでも問題ありません。
別れる際の財産分与や慰謝料などの請求も認められやすい
このように事実婚の場合には入籍していない以上、もしうまくいかずに別れる場合でも、離婚届を出すといった手続きは不要です。
先に述べましたように、事実婚でも内縁関係ありとして、結婚している場合と同じような保護を与える必要があるとされると、婚姻届に関すること以外は法律上結婚している場合と同じ効果が認められます。
ですから、解消が正当な理由によらない場合(浮気など)の慰謝料や財産分与的な請求も認められることがあります。
そういう意味で、事実婚の場合、どちらかの姓にしないといけなかったり、別で手続きを踏むという面倒なことが不要な反面、法律婚と同じ保護が受けられることがあるのはメリットといえます。
社会保障制度の適用もある
また、社会保障の制度についても、事実婚は法律上配偶者にあたらないものの、事実上法的に結婚している場合と同じ事情があれば、保護されています。健康保険については、法律上も内縁関係にある配偶者を含むとされており、事実婚上の夫の扶養家族として加入することが認められています。
ただし、現実に生計が共にあり扶養されていなければならず、同じ住民票に記載があることや年間の収入額に関する要件を満たさなければなりません。年金についても同じように事実婚の場合も含むとされていますので、内縁の配偶者の収入で生計を維持している場合は、法律婚と同じ保護を受けられ、遺族年金なども受け取ることができます。
そういう意味で、事実婚の場合、どちらかの姓にしないといけなかったり、別で手続きを踏むという面倒なことが不要で、なおかつ社会福祉や解消の場面で、法律婚と同じ保護が受けられることがあるのはメリットといえます。
事実婚のデメリットは?
子どもの戸籍は母の戸籍になる
一つは子どもが生まれたときの手続きで差が出てきます。法律婚の場合は子どもが生まれると嫡出子と推定され、戸籍上も子と記載されます。
他方、事実婚の場合には、母子については出産により明らかですが、父子については認知の手続きをして、初めて戸籍に記載がされます。子どもの姓については、婚姻していないと母の姓になり、母の戸籍に入ります。父の戸籍に入れたい場合には、認知のあとに家庭裁判所で姓の変更の許可を受けてから行う必要があります。
なお、相続割合については、法律改正で嫡出子かどうかで差はなくなっています。
姓の関係で事実婚の「夫婦」が別姓にこだわる場合には、子どもが生まれる前に入籍し、その後離婚、あるいは子どもが生まれて認知後一時的に入籍し(入籍すると遡って嫡出子の扱いになります)、そのあと離婚する、というケースもみられます。
事実婚の配偶者には相続権がない
二つ目としては、相続が発生した場合、事実婚の配偶者には相続権がありません。亡くなった事実婚の配偶者に相続人がいなければ遺産の分与を受けることができる場合はありますが、例外的です。相続人がいる場合には生前贈与か、遺言書を作っておかないと、相続人が遺産を引き継ぐことになってしまいます。
成年後見の申立てができない
三つめは、成年後見などの手続きをする必要が出てきたとき、事実婚の場合、一方が判断能力の欠ける状況になっても、他方は法律上定められた申立権者に入りません。家庭裁判所の実務でも法律上の配偶者にあたらないとしており、成年後見の申立てが出来ないとされています。なお、成年後見人などには事実婚の配偶者でも裁判所に選任される可能性があります。
税法上の各種控除・優遇措置は受けられない
さらに、税法上での「配偶者」は民法の定める配偶者とされていますので、事実婚での配偶者は含まれません。そのため、各種控除といった税金上の優遇措置が受けられないことになります。
まとめ
今回の記事で挙げましたのは法的なメリット、デメリットです。こういった法律での規律を前提に、社会的、家庭的な面も含め、自分のライフスタイルには法律婚、事実婚のどちらがいいのか、パートナーとよく相談して決めることが大事ではないでしょうか。
- 著者プロフィール
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片島 由賀/弁護士
島根県松江市生まれ 学習院大学卒業 平成19年3月 東京大学法科大学院修了 平成20年 弁護士登録(広島弁護士会) 法律業務全般を取り扱っています。 (離婚問題、相続、財産管理・遺言、交通事故、借金問題、退職・職場環境、その他) 広島弁護士会 人権擁護委員会(両性の平等部会)、民事・家事委員会、消費者問題対策委員会、弁護士業務妨害対策委員会、生存権擁護委員会、広島県中小企業家同友会(中支部)
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