電話リレーサービスは重大な公共インフラ―首相答弁引き出した薬師寺みちよ参院議員に聞く (2019/2/15 政治山)
2018年11月7日の参議院予算委員会で、薬師寺みちよ議員(無所属クラブ)の質問に対して安倍晋三首相は、「電話リレーサービスは重要な公共インフラである」と答弁し、その整備は総務省が担当すると明言しました。
電話リレーサービスは「手話や文字」と「音声」を通訳することで、聴覚障害者と聴者(お店や病院など)を電話で即時双方向につなぐサービスで、2013年から日本財団が提供しています。
耳鼻科医としての経験から聴覚障害者に対するコミュニケーション支援にも力を注いできた、薬師寺みちよ参議院議員にお話をうかがいました。
「通信」か「福祉」か、電話リレーサービスの担当は?
――電話リレーサービスに関する質問に至った経緯をお聞かせください。
電話リレーサービスの推進は、ろうあ連盟(一般社団法人全日本ろうあ連盟、石野富志三郎理事長)や日本財団(公益財団法人日本財団、笹川陽平会長)がこれまでにも働きかけてきましたが、政府として制度化には至っていません。このサービスを誰もが利用できる「通信」と捉えた場合は総務省、障害者が利用する「福祉」と捉えた場合は厚労省が所管すべき事業と考えられますが、これまではその窓口が決まっていませんでした。
そのため、まずは担当省庁と部局を明確にし、制度化への具体的な歩みを始めることが質問の目的でした。質問の中では、厚労省も総務省も自分の担当かどうか分からないという現状、電話リレーサービスの認知度が低いことから利用にも差し障りが出ている状況をお伝えしました。それらを踏まえて、安倍総理は「聴覚に障害のある人や言語障害のある人と障害がない人が電話でコミュニケーションをすることを可能にする電話リレーサービスは重要な公共インフラ」であると答え、総務省総合通信基盤局が担当することを明言されました。
「障害者のため」ではなく、「誰もが使える」サービスへ
――担当部局が決まったことで、今後はどのように進んでいくのでしょうか。
まずは具体的に諸課題を検討するチームを作ろうということで、2019年1月24日に第1回目となる「電話リレーサービスに係るワーキンググループ」(以下、WG)が開催されました。WGでは、これまで実際にサービスを提供してきた日本財団の取り組みも参考にしながら、サービス提供の条件や費用負担、オペレーターの要件等について検討していきます。
今回、総理が「重大なインフラ」と位置づけ、「通信」を担当する総務省が所管となったことで、電話リレーサービスは「障害者のため」だけではなく「誰もが使える」サービスとして普及していくこととなります。具体的なロードマップはこれからですが、2020年東京オリンピック・パラリンピックの際には、一人でも多くの人に利用してもらえるように推進していきたいと考えています。
――システムや通訳オペレーターにかかる費用は誰が負担すべきとお考えですが。
このサービスが目指すのは「誰もが利用できるインフラ」なので、皆で負担すべきと考えています。このサービスは、聴覚障害や言語障害のある人だけでなく、高齢者や音声通話が困難な人の緊急通報にも利用できます。
庁舎や駅、学校などに設置されているスロープも同じで、車いすの方だけが使うわけではありません。体調が悪いときや荷物が多いときなど、誰もが使う機会があります。インフラとはそういうものなので、特定の人が利用して負担するという考え方はすべきでないと思います。
――WGが動き出した後、政治はどのような役割を果たすべきでしょうか。
まずは議員各人が、聴覚に障害をもつ人や聞こえにくい人の課題に気づくこと、そして電話リレーサービスを知ることから始めなければなりません。このサービスは緊急時に命を救ったこともあります(※)が、まだ広く一般には認知されていません。
聴覚や言語に障害をもつ人は、そもそも「電話をかける」という習慣がありません。また、電話の受け手が同サービスを知らずに、訝しがって電話を切ってしまうケースもあると聞きます。啓蒙啓発のためにも、国民の代表である私たちが理解を深めていくべきです。
手話言語条例制定、手話で名前が言えますか?
――サービスの担い手に関連して、各地で進む手話言語条例の制定状況をどのように見ていますか。
各自治体が手話言語条例を制定し、手話言語法の制定を目指すというのは、価値のある取り組みだと思います。しかし本当に大切なことは、どれだけ魂を込めて取り組んでいるか、実際に人々の暮らしがどう変わるかということだと思います。
障害者差別解消法が施行されただけでは、障害者差別はなくなりません。同様に、手話言語法が制定されても皆が手話を使えるようになるわけではありません。理念を掲げ、制度を作ることは大事ですが、条例制定した議会の議員のうち、果たして何人が手話で自分の名前を言えるでしょうか。
例えば、飯能市が実施している「窓口支援」は、遠隔手話・筆談・音声認識機能を備えた専用のタブレット端末を使用して窓口でのコミュニケーションの円滑化を図り、「代理電話支援」では、聴覚や言語等の障害のある人がスマートフォンやパソコンなどのテレビ電話機能を使い、市や市の施設へ即時に電話連絡することが可能となっています。住民と行政のコミュニケーションのバリアフリー化を目指す同市ですが、手話言語条例は制定していません。
もちろん条例を制定して、その理念の実現に向けて力強く前進しているケースもあります。群馬県では群馬大学や県聴覚障害連盟と連携、日本財団の助成を受けて2017年度から「学術手話通訳に対応した通訳者の養成」事業を展開し、手話通訳の人材育成に取り組んでいます。単発のイベントを開催して関係者が満足して終わるのではなく、事業として継続し発展させていくことが大切なのです。
2025年、デフリンピックを日本で
――最後に、電話リレーサービスと手話の今後について、どのようにお考えでしょうか。
手話は言語で、言語は心です。「サンキュー」は子どもやお年寄りでも言えるのに、手話で「ありがとう」と言えないのは、とても悲しいことだと感じています。電話リレーサービスがインフラとして普及拡大していくには、手話がもっと身近に感じられる環境づくりが必要ですし、それは自治体や議会、住民、皆で作り上げるものだと思います。
2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催されると、オリパラは日本では夏冬合わせて4回開催されることとなります。しかし、ろう者のオリンピックである「デフリンピック」は、一度も開催したことがありません。国際大会の招致や開催は、大きな社会変革を生み出す機会となります。「誰もが生きやすい社会」を実現するために、2025年デフリンピックの開催を目指したいと考えています。
※2017年6月、愛知県西尾市一色町沖の三河湾でプレジャーボートが転覆した際、「電話リレーサービス」を介した救命要請で4人が助かった。2018年10月、岐阜・長野県境の奥穂高岳で男女3人が遭難、「電話リレーサービス」を使って警察に救助を要請。1人は亡くなったが2人は助かった。
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