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障害者雇用の水増しはなぜ起きたのか?雇用率や手帳に縛られない制度作りを (2018/10/11 政治山)

 障害者雇用促進法は、公的機関や民間企業(従業員45.5人以上)に対して、一定割合の障害者雇用を義務付けています。なかでも公的機関は率先して範を示すべきとして、民間企業よりも高い割合が設けられています。

 一方で、民間企業(原則従業員100人以上)の場合は、その割合を満たさないと「障害者雇用給付金」という名目で月額5万円×不足人数が徴収されますが、この制度は公的機関には適用されません。

 公的機関が雇用率を満たさず、雇用数を水増しすることなどまさしく想定外の事態で、あらゆる障害者施策の理念を根底から覆すような問題ですが、障害者雇用の現場に携わる人からはどのように見えているのでしょうか。日本財団の竹村利道氏にお話をうかがいました。

特例子会社もなく、省庁も大変だった

――国の機関の8割で障害者雇用が水増しされており、その数は延べ3460人に上ります。障害者の就労支援に長年取り組み続けているお立場から、今回の厚生労働省の調査結果をどのように受け止められていますか。

 この件に関して、大前提として「けしからん」という感想ですが、省庁も大変だったのだろうなという思いはあります。

 企業では障害者雇用は未達成なところはありますが、それでもかなり達成している状況の中で、省庁の障害者雇用は完全にはうまくいかずプレッシャーもあったのだろうと。

 企業には特例子会社(※1)という受け皿があります。その受け皿の中でなんとか仕事を作り出し、収益には見合わなくても雇用率を満たそうと努力する企業もあれば、一方で障害者を雇用せずに障害者雇用納付金と言われる、つまり罰則金のようなものを一人当たり月額5万円、年間で60万円、法定雇用障害数が50人だとしたら3000万円払っている企業もあります。

 しかし、省庁には特例子会社という制度はありません。さらに省庁にはアウトソーシングをしなさいという風潮の中で仕事がスリム化され、障害者向けの仕事は減り続けているはずなのです。

 誤解を恐れずに言うと、企業は障害者雇用率達成のために障害者を雇用して、本業とは無関係の、軽易な内職仕事などに従事させることができますが、省庁にはそういった採用をする余力がないはずです。

 その現実を踏まえて、障害のある人が働くためにはどのようにケアしていけばよいか、どのようなシステムが必要なのか前向きに考えていけばよいと思います。

3000人が公務員になったら、今度は企業が困る

――公的機関には、法の目的を達成するための範を示すべく、高めの雇用率が設定されていますが、制度設計自体に無理があったということでしょうか。

 無理ではないと思いますが、サポート、仕組みがほぼ整っていないと思います。理念や意気込みは良いけれど、逆に役所には仕事がないのではないかと思いました。企業サイドの大変さも含めて、障害者雇用に何が必要かを考えてほしいです。

 今回の事態を受けて企業が心配しているのは、首都圏の障害者雇用は対象者が不足している状態なのに、3000人超の不足人数が企業から省庁に転職してしまうことが本音だとも聞きました。

 やはり就職先としては公的機関のほうが人気が高いので、企業は雇用を奪われると考え、雇用率2.2%を達成できなくなるのではと心配しています。

日本財団の竹村利道さん

日本財団の竹村利道さん

障害者も労働力不足、責任は福祉施設にもある

 ここからが本題なのですが、障害者の労働力不足に陥っているのは、障害者の問題ではなくて、障害者を抱えている福祉施設の問題も大きいと思っています。福祉就労している期間に就職可能な人はきちんと支援して社会に送り出すことができていたら、こんな労働力不足は起こらないのではないかと思います。

 省庁も障害者を育てられず右往左往している現状で、ある程度戦力となる障害者を育てるというのが、就労移行支援事業所(※2)の仕事としてしっかりと機能しなければならないと議論すべきだと思います。

 省庁の中で“こういう仕事ならできる”とか仕事の切り出しをするのは、省庁の人ではなく就労支援のスタッフなどが入り込んで、仕事の切り出しをしてアジャストさせるべきだと思うのです。省庁を批判するだけでなく、寄り添っていく必要があると思います。

障害者もさらなる努力を

 公務員として働くのは大変なことです。障害者も公務員試験に受かる努力が必要だと思います。チャレンジ雇用は、障害者が公務員試験を受験することを制限していないので、「障害者も勉強をしようよ」と言えばいいし、障害者は試験もせず公務員になれることのほうが、障害者に対する差別ではないかと思います。

 障害者側の問題と、社会で仕事がないという問題は、福祉事業所が障害者を供給するシステムとあわせて考えていかないと、首都圏の障害者雇用は本当に大変になっていきます。

 一方で今回の水増しでもっとも腹立たしいのは、地方の取り組みについてです。地方には障害者の労働力が豊富なはずで、いくらでも仕事が作れるのに作らない。単にさぼっているだけでなないかと思います。

手帳に縛られているのは日本と韓国だけ

――障害者就労と一言で表しても、中央省庁と地方自治体とでは直面している課題が違うということですね。障害者手帳の扱いについてはどのようにお考えですか。

 省庁の水増し問題で明らかとなり、これから検討すべきなのは、“手帳に縛られる必要はない”ということです。

 例えば私が鬱になって障害者手帳を取得することができるようになったとき、私は手帳を取りたくないと言うことができます。手帳を取ることは本人次第なので、取らなくてもいいのです。しかしそうすると、日本財団の障害者雇用数にはカウントされないですよね。

 私は、雇用主が雇用率を満たすために、本人に障害者手帳を取ってくれと言うほうが人権侵害だと思います。彼らに手帳を取れというのではなく、雇用の実態を見るべきだと。フランス、ドイツには証明書の仕組みはありますが、手帳制度に縛られているのは日本と韓国だけです。基本的には、医師の診断が基本となっています。

 また、障害者雇用率の設定に関して、フランスは6%で、オランダは設定せず数値目標としています。将来的に雇用率に左右されずに、障害者が戦力として活躍できる社会を作るためには、雇用率という宿題がなければ雇いません、とならないよう、手帳に縛られる制度は考え直す時期に来ているのかもしれません。

 そういう意味では省庁が「この人障害者ね」と認定するのはあながち間違っていないと思いました。組織や制度のあり方に批判はあってもよいですが、社会に対して議論を呼び起こす視点があってもいいのではないでしょうか。

障害者が支えている企業もある

――竹村さんから見て、障害者雇用が進んでいる企業はどのようなところでしょうか。

 私が知る限りでもっとも成功しているのは、株式会社エフピコ(広島県福山市)です。エフピコはもはや障害者がいなければ企業が成り立たないくらいになっていると思います。且田(かつた)久雄さんや且田久美さんが中心になって熱心に障害者雇用を進めた結果、障害者雇用率は15%また、エフピコの特例子会社であるダックス株式会社には千葉や高知などに工場がありますが、完全に生産拠点になっています。

 さらに、横河電機株式会社(東京都武蔵野市)の特例子会社である横河ファウンドリー株式会社の箕輪優子さんのように、中心となって仕事の切り出しを行った人がいて、成功につながっていると思います。

 障害者の雇用は、未達成の企業に罰金(的なもの※編集部注)を科したり、企業名が公表されたり、障害者用に別室を作って収益性のない仕事に従事させるものだったりと、何かとマイナスイメージが大きく、実際現場も疲弊しています。

 その中でうまくいっている理由は、キーパーソンが企業に入り込んでいるからだと思うのです。

外注分を雇用率に換算する“みなし雇用”

――障害者手帳に縛られず、活躍できる障害者が増えるためには、大きな制度変更が必要だと思いますが、取り組みとして何か考えていらっしゃることはありますか。

 この問題と付随して考えてもいいのではと思うのは、“みなし雇用”の考え方に関してです。障害者を雇わないと雇用数にならないという基準から、障害者就労施設への外注分を雇用率に換算するという諸外国でのやり方を始めてもよいのではないでしょうか。

 今回の水増しの問題によって、よい意味で障害者雇用の問題に関心を持ってもらえたのかなと思います。企業は一所懸命採用しているけれども、実態は全然役になっていない、逆に手間が増えるという声があるなどの実態知ってもらい、議論できる場ができたのだと思います。

 今後の取り組みについてはまだ構想段階ですが、雇用されている障害者を預かって訓練する再トレーニングセンターをつくりたいと考えています。企業はトレーニングフィーを払い、戦力となる水準まで引き上げてから企業に戻すというシステムを作りたいなと。

 再トレーニングセンターでは、身だしなみから礼節、社会的ルールなど、企業就労に必要な基礎トレーニングをして、首都圏における障害者雇用を前向きな姿勢にするために機能させられたらと考えています。

――それは就労移行支援事業所でもできるのではないでしょうか。

 事業所に戻ると、企業としては雇用が切れてしまいます。企業としては雇用者数がカウントできないのを避けたいと思うでしょう。そうした実情を踏まえると、企業からトレーニングフィーを頂戴し、前向きな企業からの相談に応じ、作業改善を提案することをビジネスにすることが必要だと考えています。

障害者も企業も幸せになる仕組みづくりを

――最後に、自治体の議員や職員など、制度をつくり運営していく人たちに、リクエストがあれば教えてください。

 今回の問題を起因として、企業がどれだけ数字の達成に汗を流しているかという実態を知っていただき、企業が雇いやすくするためのシステム、障害者も企業も幸せになるために「雇いたいな」「雇われたいな」と思えるシステムをゼロベースで一緒に考えませんかと言いたいですね。

 企業や省庁が自分たちだけで抱えている大変な課題を、一方的に糾弾するのではなく、もっと開かれた場所で一緒に考える、そうしたことをできるのは議員なのではないかなと思います。ぜひ12月に開催する「就労支援フォーラム」にご参加ください。

※1 障害者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、特例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率を算定できる。

※2 就労移行支援事業所とは、障害者総合支援法に定められた障害福祉サービスのひとつ。職業訓練、職場探し、就職後の職場への定着などの支援を行う。

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