地方主権の思想と地域政党の役割―堀場雅夫氏との対談を振り返って (2017/10/27 地域政党連絡協議会(地域政党サミット))
中央集権最盛期の70年代から「これからは地方の時代だ」と主張され、地域政党「京都党」結党に参画いただいた堀場雅夫さんに、京都党代表・京都市議会議員であり、地域政党連絡協議会(地域政党サミット)副代表の村山祥栄が、地域主権への思いと地域政党の果たす役割についてお話をうかがいました。生前の堀場氏の思いをあらためてここに記しておきたいと思います(対談収録は2011年9月)。
【経歴】堀場雅夫氏(ほりば・まさお) 分析・計測機器大手、堀場製作所の創業者。京都帝国大学(京都大学)在学中に前身の堀場無線研究所を創業した学生ベンチャーの草分け的存在。「おもしろおかしく」を社是に多彩な製品を世界に送り出した。53歳で社長を辞した後はベンチャー企業の啓蒙に取り組んだ。2015年7月に死去。
地域主権国家という発想
- 村山
- (以下敬称略)
最初に、地域に対する考え方とそう考えるに至った経緯を伺いたいと思います。 - 堀場
- 私は昭和32(1957)年に初めてアメリカへ行きました。首都のワシントンがとても小さい町で驚きました。アメリカにはシカゴ、デトロイト、ヒューストン、ダラスとそれぞれの街にそれ相応の産業があり文化がありました。合衆国というのはこういうことかと思いました。アメリカとは何ぞやと一言で言えない。それでいてそれぞれにまた魅力がある。これがアメリカの強さなのですね。同様に先進国を見ると、そこの国の場所場所に適した産業が興り、適した政治活動が起こっています。逆に途上国を見ると、これは何が何でもと集めています。世界中の動向から見て日本もいずれ分散するだろうなと思っていましたが、日本の国は大きくなればなるほど中央集権が進んでいます。
- 村山
- そこで、独自の取り組みをなさってこられた?
- 堀場
-
おかしいと思いだしたのは昭和53(1978)年、社長を辞めて会長になったときです。京都を活性化し、地方が活性化しなければいけないと思い、最初に京都の伝統産業の近代化や京都の新事業促進のために「京都産業情報センター」を立ち上げました。中小企業と大企業の一番の格差は「情報」です。当時の地方の中小企業は自分のマーケット情報や技術情報、東京の情報を全然持っていませんでしたから。
次に、地方には当時ほとんどいなかったソフトウェアの技術者の育成をはじめ、産学連携の促進、研究開発に総力を挙げていこうと京都高度技術研究所を作りました。私は、「ローカルで人材を養成してローカルが経済的・自主独立するように産業をバックアップするっていうのもお前らの役目なんだ」と歴代の京大の学長にレクチャーをしてきました。そういうことで、京都高度技術研究所はその道の先生たちを全部集めて、中小企業の困っている問題を解決する機関としました。
- 村山
- 昨今では、かなり地方と都市部においても情報格差は埋まったように思いますが、新たに今はどういう問題が発生しているとお考えですか。
- 堀場
- ひとつは、マーケットの問題です。首都圏で約3000万人強の人口、国民の25%以上が集中しています。購買力で言えば、多めに言うと50%、少なめに言っても45%くらいは、あそこに消費地があるわけです。さらに東京周辺で流行ったものが北海道から沖縄まで流行るので、流行の90%は向こうにあります。そうすると東京好みのモノを作らないと売れないということになるのです。一極集中の怖さは、価値観も一極になることです。
地方が生き残るためには
- 村山
- ではその地方が生き残るために地方は何をすべきなのでしょうか。
- 堀場
- ひとつはそこでしかできないようなものを探し出すことです。これから日本がやっていくのは6次産業です。青森のいいりんごでも1個20円、30円です。それが町へくると200円、300円になる。10倍の付加価値は流通とこちらの小売店で取られています。直売にすれば、半値でも付加価値は5倍から10倍です。サプリメントに至っては一瓶8000円です。こういった付加価値をつけた産業を育成しなければなりません。
- 村山
- なるほど。発想の転換ですね。では、政治としての役割をどうお考えですか。そもそも、地域主権国家と最初に言い出したのは堀場さんだったと記憶しておりますが。
- 堀場
- 僕は最初、地方分権と聞いた時に頭にきました。「分権」っていうのは、「主権」がこっちにあるから分けましょう、ということです。それを「中央集権」といいます。それに対してなので「地域主権」なのです。ところが最近は二言目には「国は何にもしてくれない」と言います。地方交付金をたくさん取ってきたから優秀な政治だという時代は過ぎました。京都も国もお金がないから大変ですが、自立に向けて舵を切らねばなりません。国で必要な分は納めますが、基本的には返してもらうのであって、もらいに行くのではないのです。
地域政党結党にあたって
- 村山
- 全国に向けて京都発信で、その新しい政治の形を作ろうじゃないかという意味で地域政党を作られたわけですね。
- 堀場
- これまでのように自民党員が、民主党員が上を見ながら京都を考えてもらったら困るわけです。そのためには、まず独立してその自分の考えを制限されない、自分の言葉で話せて、自分で行動できるような組織がないといけません。党というのは、あるひとつの思想の下に集ったグループであって、その中からディリーにアクションを起こそうという人が議員になればいいのです。党というのは市会の党とか府会の党、国会の党である必要はありません。「京都党」もそういうイデオロギーを持った人々の集りで、その中から市会議員になる人も国会議員になる人も、経済人になる人も、お坊さんになる人もあればいいのです。
「京都党」結党から1年
- 村山
- 地域政党ができて、1年を迎えましたが、1年間を総括して率直なご感想はいかがでしょうか。
- 堀場
-
欲を言えばきりはないですが、結党して半年で選挙でした。8人立候補して、トップ当選2人を含めて4人が当選、3人が僅差で次点、市内で10%の得票をいただき、既に市会で活躍をしているという実績を見れば、これは驚くべきことです。これはやっぱり京都の人が望んでいたということでしょう。だから、自信持たないといけない。ただ、より謙虚に慎重に行動し、今後ますます活躍をして、市民の皆様が「なかなかやるやんか。やっぱりあれを応援しよう」というところまで定着させねばならないですね。
例えば、今度の大文字の件がいい例です。陸前高田の薪を京都に持ち込んで五山の送り火の際に大文字で燃やすという話でしたが、二転三転し、あれだけ自信を持って「燃やす」と仰った門川大作市長が最後は燃やさないという決断をしました。結果、全国から京都に対して厳しい声を頂き、また東北の風評被害が全国的に広がる契機になった事件でした。
この件について黙らず、かくかくしかじかこう思うと、発信し続けたのは「京都党」だけです。どういう倫理観、価値観を持って動いてるかということを理解していただくよい事例です。批判だけでも肯定だけでもなく、明確な価値観をもって、是々非々で判断をしていかねばなりません。京都人のサイレントマジョリティーを表にしっかり出して、堂々とこれを発言し、行動するっていうのが「京都党」であって、まさに地域政党である由縁なのです。
地域を目指す次世代へ
- 村山
- 最後に、日本のベンチャーの先達として、地域政党に対して一言アドバイスを。
- 堀場
- 政治も経済もまったく一緒で、お客のニーズがなかったら会社っていうのは絶対成り立たないのと同じように、政党というものは、その関係してる地域で存在価値が認められなければ潰れてしまう。そして、大事なことは「自分はほんまもんを作っているから絶対お客をがっかりさせない」というように、応援者に最終的に満足を与える自信と信念、そしてその自分のフィロソフィーを曲げないことですね。奇をてらって、ちょっとこういうこと言えば票が集まるだろう、ちょっと売り上げ増えるなということは絶対やってはいけない。西郷隆盛や坂本龍馬も百年以上も経って、やっぱりすごいなと見直されるわけですから、これが政治家なのではないでしょうか。信念だけはもう曲げたら絶対あきまへん。
◇対談を振り返って
こうした信念のもと、元三重県知事 北川正恭氏を顧問に迎え、2015年に発足した地域政党連絡協議会(地域政党サミット)。現在8党が加盟し、年2回サミットを開催しています。今回はその研修会を下記要領にて山梨で行いますので、ご興味ある方はぜひご参加ください。
◇地域政党サミットのお知らせ
「地域創生」時代のガバナンス~地域民主主義と地域政党~in山梨
<内容>
1.基調講演
地域政党サミット顧問 北川正恭先生
二元代表制のあるべき姿~議会の自立なくして地方の自立なし
2.基調講演
山梨学院大学教授 江藤俊昭氏
自立型ガバナンスのあり方~地域政党の可能性を考える~
3.政党事例研究
~ドンとヌエと闘う議会運営のポイントとコツ~
4.パネルディスカッション
コーディネーター:月刊ガバナンス編集長 千葉茂明氏
<開催概要>
日時:平成29年11月12日(日) 13:00~17:00
会場:山梨県甲府市 山梨学院大学 山梨県甲府市酒折2-4-5
会費:議員2000円、一般500円
<お問い合わせ・お申し込み>
地域創生時代のガバナンス実行委員
TEL:075-712-9977 FAX:075-712-9963
担当:村山祥栄
Facebook:イベントページはこちら
<主催>ローカルガバナンス学会
<共催>地域政党連絡協議会(地域政党サミット)
http://local-party-summit.jp/
村山祥栄氏プロフィール。
昭和53年2月7日生まれ。専修大学法学部卒。衆院議員松沢成文秘書、株式会社リクルートを経て、史上最年少で京都市議に当選。京都の同和行政にメスを入れるなどタブー無き改革をモットーとし、京都市長選挙に立候補するも惜敗。地域政党京都党を結党し現在代表。大正大学客員教授。主な著書:税金フリーライダーの正体、京都同和裏行政(共に講談社+α新書)
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