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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第65回 「対話」のツールとして「まわし読み新聞」を活用し「関係の質」をあげよう!!~青森県六戸町議会で議員と大学生が実践 (2017/9/28 早大マニフェスト研究所)

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第65回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

地域、組織での「対話」の重要性とその方法論

 このコラムの中で、地域、組織における、「対話(ダイアローグ)」の重要性について、何度も指摘してきた。「対話」とは、物事に対するお互いの意味付けを確認し合う場所であり、意見、考え方の多様性を認め合う話し合い、また参加者の能力の組み合わせにより創造的な成果、創発が生まれる場でもある。

 対話が行われる場が「ワークショップ」であるが、対話の方法論には様々ある。コラムでも何度も紹介している、小グループ単位で、参加者の組み合わせを変えながら、話し合いを発展させていく「ワールドカフェ」(第20回「市民との対話が生まれる新しい議会と市民との意見交換会のあり方」)もその一つである。

 その他、ペアやグループになり、与えられたテーマに対して、自分の経験を物語調に語り合う「ストーリーテリング」、会場の中心に話し手が3~4人座り、参加者はそれを取り囲むように座り話を聞たり、時には自らが中心に移動し話し手となる「フィッシュボール(金魚鉢)」、複数の参加者が考えたいテーマを出し合い、興味のある人が対話のグループに集まる「OST(オープンスペーステクノロジー)」など、様々ある。

 今回のコラムでは、対話の方法論の一つとして、身近にある新聞を活用し、多様な参加者が対話をする「まわし読み新聞」について、青森県六戸町議会での実践事例を紹介しながら、その可能性を考えたいと思う。

完成した壁新聞

完成した壁新聞

「まわし読み新聞」とは

 「まわし読み新聞」は2012年、大阪の観光家、陸奥賢(むつ さとし)さんにより考案された参加交流型の「新聞遊び」「メディア遊び」である(「まわしよみ新聞」)。

 基本的な進め方は、(1)新聞をまわし読み記事を切り抜く、(2)切り抜いた記事を発表し合い対話をする、(3)記事を模造紙などに張り付けて壁新聞を作る、の大きく3つのプロセスに分けられる。このプロセスを通して、参加者は自分が関心を持つこと以外に興味が芽生えることで世界が広がったり、選んだ記事へのそれぞれの意味付けに気付き合うことで他者への理解が進んだりする。その他、選んだ記事の魅力を上手に伝えるためのプレゼン力が鍛えられたり、批判的に情報を読み解くメディアリテラシーが向上したり、共同作業で一枚の壁新聞を作りだす作業を通してチームビルデイングが図れる効果がある。

六戸町議会 議員×大学生による 「まわし読み新聞」

 青森県六戸町議会では、円子徳通(まるこ とくみち)議長を中心に、積極的に議会改革に取り組んでいる(第46回「住民と対話する議会を目指して」)。今回の「まわし読み新聞」のきっかけは、円子議長が、Facebookのタイムラインから、近隣の自治体で「まわし読み新聞」のイベントが開催されたことを知り、直感的に面白そうだと思ったところからである。

開会の挨拶をする六戸町の円子議長

開会の挨拶をする六戸町の円子議長

 その後、これまでも交流のある筆者の大学のゼミ生たちとやってみたいと打診があり、2017年8月30日に議員12人、大学生9人、役場職員5人、その他の町民3人、合計29人で、「まわし読み新聞」を実施。筆者がファシリテーターを務めた。

 会の冒頭、円子議長から、「新聞を一緒に読むことをきっかけに、議員、大学生、お互いの考え方を理解し合いましょう」と会の主旨を説明。参加者は4~5人のグループに分かれて着席。まず各人に配布された当日の青森の地元紙2紙を、リラックスした格好で15分間読み、気になる記事を探した。その後5分間で、気になる、面白い、これはと思う記事を、記事だけではなく、広告、コラム、天気予報など、何でもOKという条件で各人3つずつ選んでもらった。

新聞を読む参加者

新聞を読む参加者

切り抜いた記事をもとに対話

切り抜いた記事をもとに対話

 選び終わったら15分間、グループで選んだ記事について、何でその記事を切り抜いたのか説明してもらいながら、ワイワイと対話を行ってもらった。それから25分間で、グループごとの編集会議を開き、編集長、新聞名を決め、トップ記事を選び、紙面のレイアウトを検討し模造紙にまとめ、記事に見出しやコメントを書き足して、グループオリジナルの壁新聞、「まわし読み」新聞を作成した。

壁新聞のレイアウトを考える

壁新聞のレイアウトを考える

壁新聞作成作業

壁新聞作成作業

 できあがった新聞は、各新聞の編集長が2分で、その内容と作成プロセスについて発表。それを聞いて最後に、今日一番の「まわし読み新聞」を決めるため、シールによる「ドット投票」が行われた。

 会の終わりに円子議長は、「人は様々な捉え方をする。それでいい。大切なことは思いを伝えあうことだ」と講評した。また、参加した大学生からは、「新聞はいつも一人で読んでいる。記事について誰かと話し合えて楽しかった」「意見を伝えあう大切さを実感した」「まわし読み新聞により、六戸町を知るきっかけになった。これからも新聞で町の記事をチェックしたい」と言った前向きな感想が沢山出た。対話が盛り上がった結果である。

できあがった壁新聞を発表する大学生

できあがった壁新聞を発表する大学生

皆で投票

皆で投票

「まわし読み新聞」で、地域、組織の「関係の質」をあげよう

 テーマを与えたからといって、何もないところから、初対面のメンバーが良質な対話を作り上げるのは難しい。「まわし読み新聞」では、新聞をきっかけに対話が生まれる。今回、筆者も初めてファシリテーターとして、「まわし読み新聞」を実践して、その展開の可能性を感じることができた。今回のように、普段話をしない大人と若者との対話のきっかけのツールとして。組織の中で、対話や相互理解を促進させるために開かれるオフサイトミーテイングのメニューの一つとして。

 もちろん、筆者の仕事でいうと、大学の初年次教育で、読解力、対話力、プレゼン力を学生たちが身に着けるにも有効なプログラムだ。前回のコラム(第64回「地方創生時代に求められる自治体組織のあり方」)では、これからの自治体組織では、「対話」により組織の「関係の質」を高めることが必要になると述べた。「関係の質」を高めるとは、対話によりメンバーの共感や互助の気持ちを醸成することである。それは今後、自治体組織だけではなく、地域や企業組織にも求められる。地域、組織で、「関係の質」をあげる一つのきっかけに、「まわし読み新聞」はなると思う。

◇        ◇        ◇

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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